IoTに簡単さを求めるのは間違っているだろうか? ~BLE IoTスターターパッケージ

2021年07月15日 木曜日


【この記事を書いた人】
snara

2016年からIoTサービスの開発・運用に従事。埼玉県出身・埼玉県在住、埼玉を愛す男。好物は十万石饅頭。週末は愛車を丸1日乗り回すくらいの車好き。

「IoTに簡単さを求めるのは間違っているだろうか? ~BLE IoTスターターパッケージ」のイメージ

はじめに

IoTビジネス事業部のsnaraです。主にIoTのデバイスまわりの技術開発を担当しています。

2021年7月より、「BLE IoT スターターパッケージ」の提供を開始いたしました。
この「BLE IoT スターターパッケージ」は、BLE(Bluetooth Low Energy)センサー・専用IoTゲートウェイ・IIJ IoTサービス を組み合わせて、簡単にIoTを開始できるものです。

各社から様々なIoTスターターキットが提供されてはいますが、今回IIJが提供を開始した「BLE IoT スターターパッケージ」はどのような特徴があるのか、実際の動作や技術的なポイントを説明していきます。

BLE IoT スターターパッケージを実際に使ってみる

「BLE IoT スターターパッケージ」を使って、実際にセンサーのデータをIoTサービスで可視化していきたいと思います。

1. 使用する機材を用意する

「BLE IoT スターターパッケージ」は、専用のIoTゲートウェイとして Acty-G3 (CYBERDYNE Omni Networks社製) を使用します。このActy-G3には IIJ製の専用ゲートウェイアプリケーションと IIJ IoTサービス用SIMカードが導入されています。
なお、カスタムモデルである Acty-G3e と IIJのeSIM を組み合わせることで、物理的なSIMを使わないで運用することも可能です。(※1)

また、今回はBLEセンサーとしてアルプスアルパイン社製の Sensor Network Module を使用してみます。

2. センサーの利用設定とデータ送信の設定を行う

IoTゲートウェイの設定に当たり、Acty-G3をPCに接続して専用アプリを動作させるような手間は不要です。
IIJ IoTサービスの「デバイスコントロール」機能を使用すると、モバイル回線経由でIoTゲートウェイの設定画面を表示することができます。

「センサー登録」で「周辺のセンサーをスキャンする」と操作すると、IoTゲートウェイが周辺のBLEセンサーを探し始めます。
SNM00 と言う名称のセンサーが今回使用しているセンサーですので、それを選択して「登録」と操作すると、このセンサーが利用可能な状態になります。

さらに、「データ送信設定」で、センサーデータを何分ごとにIoTサービスに送信するかを設定します。

これで設定は完了です。

これらのわずかな設定を行うだけで、センサーのデータをクラウドへアップロードするようになりました。

3. 送信されたデータを確認する

IIJ IoTサービスで、実際にセンサーデータを確認してみます。
IoTサービスの「デバイスモニタリング」機能の画面を参照すると、クラウドにアップロードされた Sensor Network Module のデータがグラフ表示されていることが分かります。

このように、単純な可視化だけであれば、難しい設定など一切必要なく動作させることが可能です。

4. 位置情報を送信してみる

少し戻って、IoTゲートウェイの設定画面には「位置情報送信設定」という機能もあります。
これは、Acty-G3のGNSS(いわゆるGPS)を使用して位置情報をIoTサービスに送信する機能です。

この機能を利用して、IoTサービス上で地図上に位置をプロットして表示することも可能です(※地図機能は2021年度上期中のリリース予定です)

(開発中の画面)

5. ゲートウェイアプリケーションをアップデートしてみる

IoTゲートウェイの設定画面に「アップデート」の機能があります。
この機能を利用することで、サーバから新バージョンのゲートウェイアプリケーションをダウンロードしてアップデートすることが可能です。

 

まとめ

  • IIJ IoTサービスの「デバイスコントロール」機能で、モバイル回線経由でIoTゲートウェイを操作できるため、IoTゲートウェイ(Acty-G3)をPCに接続しないで操作が可能です。
  • IoTゲートウェイの設定画面から簡単な操作をするだけで、センサーの登録や設定、クラウドでの可視化・データ利用ができます。
  • センサーのデータだけでなく位置情報もクラウドで可視化・データ利用ができます。

BLE IoT スターターパッケージの特徴

前述の通り、簡単な操作だけでBLEセンサーのデータをクラウドに送信して可視化させることが可能なことはご理解いただけたと思いますが、ここではもう少し技術的な面に踏み込んで、IIJが提供する「BLE IoT スターターパッケージ」の特徴を紹介したいと思います。

特徴1:あらゆるBLEセンサーが利用可能

BLEのセンサーは、大きく「ビーコン型センサー」と「GATT接続型センサー」の2種類があります。(※この「ビーコン型センサー」「GATT接続型センサー」と言う呼称は一般的なものではありませんが、今回はわかりやすくするためにこのように記載しています。)

通常、IoTゲートウェイが「スキャン」という操作を行うと、周辺にあるBLEセンサーが応答を返します。これによりIoTゲートウェイがBLEセンサーの存在を認識します。この際、BLEセンサーが返す「応答」のデータの中にセンサーデータも含めて返すBLEセンサーがあります。これが「ビーコン型センサー」です。

「ビーコン型センサー」は、「スキャン」と「応答」という単純な操作だけで済むため、BLEセンサーの操作がシンプルにできるメリットがあります。しかし、IoTゲートウェイが「スキャン」の操作をしないとデータが取得できないことがデメリットにもなります。例えば、温度センサーの値を定期的に取得するような用途には適していますが、振動センサーが異常振動したときにリアルタイムに通知を受けたいような場面には適しません。また、スキャンの「応答」のデータ量には限りがあるため、たくさんのデータを扱うような用途にも適しません。

(ビーコン型センサーのイメージ)

対して、「GATT接続型センサー」は、スキャンして存在確認ができたBLEセンサーに対して「接続」の操作を行うことで、初めてセンサーデータを読み込めるようになるセンサーです。

「GATT接続型センサー」は、「スキャン」「接続要求」「データ読み込み」「切断」と操作の数が増えるため、BLEセンサーの操作が面倒ではありますが、一度「接続」したあとはずっと「接続」状態を保つことができるため、リアルタイムに値の通知を受けることも可能になります。つまり「振動センサーが異常振動したときにリアルタイムに通知を受ける」ような用途にも利用可能です。また、扱えるデータ量も「ビーコン型センサー」よりも大きくなります。

(ビーコン型センサーのイメージ)

各メーカーのBLEセンサーが「ビーコン型センサー」なのか「GATT接続型センサー」なのかは、製品によりさまざまです。
センサーの仕様はさまざまなのですが、BLEセンサーのデータを受け取るIoTゲートウェイ側が「ビーコン型センサー」にしか対応していない例が多くあったりします。

今回、IIJが提供する「BLE IoT スターターパッケージ」はどちらのタイプのセンサーにも対応しています。
そのため、市場に出回っている多種多様なBLEセンサーが利用可能なことが、特徴の1つです。

特徴2:BLEセンサーのデータを難しい設定無しで人間が読める数値に変換してくれる

BLEの仕様はあくまでデータ通信の方法が定められているだけなので、BLEで送信されるデータの中身はBLEセンサーの機種によりバラバラなのが現状です。

例えば、前述のアルプスアルパイン社製 Sensor Network Module は、センサーのデータとして 0xF314E2DE48154C0D0000060000000000010A0F06 という値を返します。
この値の中に温度・湿度・気圧・UV値といったデータが含まれており、仕様書のとおりに計算を行うことで人間が理解できる数値になります。

例えば、温度は 「 (データの7・8バイト目を10進に変換した数値 – 2096) /50 」という計算で求められ、上記のデータの場合は 26.16℃ と言う数値を導き出すことができます。
同様に、気圧は 「 データの3・4バイト目を10進数に変換した数値 * 860 / 65535 + 250 」と言う計算で求められ、上記のデータの場合は 998.76 hPa という数値になります。

このように、BLEセンサーのデータを人間が読める数値に変換するには何らかの計算が必要であり、その仕様はBLEセンサーの機種によりバラバラです。そして、その仕様を一般人が読み解くことは難しいことが多いのが現実です。(※2)

アルプスアルパイン社 Sensor Network Module のデータ仕様より引用

IIJが提供する「BLE IoT スターターパッケージ」は、利用者がこのような難解な仕様を読み解く必要はありません。
IoTゲートウェイ側でBLEセンサーの機種ごとに自動的に計算を行い、人間が読める数値に変換した上でIoTのデータとして利用することが可能です。

特徴3:遠隔地から設定が可能

IIJ IoTサービスの「デバイスコントロール」機能を使用すると、モバイル回線経由でIoTゲートウェイの設定画面を表示することができることは、冒頭にお伝えしました。
これは何を意味するかと言うと、IoTゲートウェイの機器が手元に無くても設定が行える、ということです。
例えば、遠隔地の無人の施設にIoTゲートウェイを設置している場合でも、モバイル回線経由で設定画面を開くことができ、手元のPCから設定変更やアプリケーションのアップデートなどを行うことができます。

さいごに

ここまで紹介したとおり、「BLE IoT スターターパッケージ」は簡単にIoTを開始したい場合の手段として最適です。また、PoCで試すような場合や小規模での利用はもちろん、規模が大きい案件でも低コストで導入できます。ぜひご活用ください。


  1. カスタムモデルである Acty-G3e は台数(MOQ)やリードタイムなどの諸条件が伴います。[↑]
  2. BLEセンサーの通信仕様は、メーカーが提供する仕様書やデータシートなどに記載されていることが多いですが、仕様が非公開の場合や、NDA(機密保持契約)を結ぶことで仕様が開示されるような場合もあります。[↑]

snara

2021年07月15日 木曜日

2016年からIoTサービスの開発・運用に従事。埼玉県出身・埼玉県在住、埼玉を愛す男。好物は十万石饅頭。週末は愛車を丸1日乗り回すくらいの車好き。

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