「気づいたら夢中になっていた」を、意図してつくる ― ワークショップデザインの舞台裏
2026年08月27日 木曜日
CONTENTS
IIJの佐藤雅子です。
私は現在、社外・社内で研修やワークショップの企画・実施・運営を行っています。
ワークショップデザインで大切にしていること
私自身、参加者としてワークショップに加わったとき、気づいたら夢中になっていて、あっという間に時間が過ぎていた、そんな経験をしたことがあります。
なぜあれほど引き込まれたのか。振り返って感じるのは、参加者同士の関わりの中から、一人では決してたどり着けなかったアウトプットが生まれていく、その面白さだったのだと思います。これこそがワークショップの魅力だと考えます。
面白いのは、その「思いがけず生まれた」ように感じる瞬間が、実は偶然ではなく、生まれやすいように設計されているということです。参加者にとっては自然な流れでも、その裏側には綿密な仕掛けがあります。
研修講師としてのトレーニングを受けた経験はありましたが、「あの夢中になる場」を自分でデザインできるようになりたいと考え、青山学院大学ワークショップデザイナー(WSD)育成プログラムで理論と実践を学びました。
この経験を踏まえ、私がワークショップで大切にしているのは、次の4つです。
- ゴール・目的に合わせてプログラムに落とし込む
- 段階的に学べる流れを設計し、自然な参加を促し参加意欲を高める
- 対話が起きる仕掛けをつくる
- 実際の業務・次のアクションにつなげる(学んで終わりにしない)
今回は、情報システム関連部門で働く皆さまに、日々の活動や組織運営のヒントとなる情報をお届けする取り組みであるIIJ 情シスBoost-up Projectの一環として実施したワークショップを例に、これらをどのように実践しているかをご紹介します。
開催したワークショップ
情シス・DX部門のためのファシリテーション実践ワークショップ
~関係部門を動かす会議術を身につける~
情シス・DX部門は、社内の橋渡し役として、さまざまな立場の関係者を巻き込みながら物事を前に進める役割を担います。そこで本ワークショップでは、ファシリテーションの基本スキルを押さえたうえで、情シス・DX部門で起きがちなシーンを題材にしたロールプレイングを行いました。これにより、関係者の巻き込みや合意形成を進める実践力を養うことを目指しました。
情シス・DX部門の皆さま20名にご参加いただき、4時間の集中プログラムとして開催しました。

1.ゴール・目的に合わせてプログラムに落とし込む
まず徹底するのが、参加者の実態や課題を知ることです。
IIJ 情シスBoost-up Projectでは、情シスの現場に迫る独自の調査レポートを公開しており、そこから情シスの皆さまのお困りごとを深く読み込みます。あわせて、申し込み時の事前アンケートにも目を通します。
こうして把握した実際の業務・シチュエーションを想定して、テーマ設定や説明内容を決めていきます。この自分ごと化できる設計こそが、参加者が前のめりになり、気づけば夢中になっていく土台になります。
2.段階的に学べる流れを設計し、自然な参加を促し参加意欲を高める
プログラムは、ロールプレイングという実践にたどり着くまで、少しずつ準備が整っていくように流れを組み立てます。
- はじめにグループ内で、自分の「会議をうまく進めるのが難しい場面」を共有する
例:意見が出ない、話が脱線する、時間内に結論が出ないなど - それを意識しながら、ファシリテーションの説明を聞く
- ロールプレイングの前に、自分の「会議をうまく進めるのが難しい場面」を踏まえて、説明した「ファシリテーターの目指すこと」の中からやってみることを決める
例:全員参加、相互理解、時間管理など
さらに、ロールプレイングの前には、私が実際にホワイトボードを使って書き方や進め方を実演します。こうして、無理なくロールプレイングへ入っていけるように準備を整えます。
そして、ロールプレイングそのものも、次のようなステップで進めます。
- グループ内で1人ずつ交代しながら、ファシリテーター役として会議を運営する
- 各自で振り返る
- グループで振り返りを共有する
グループで共有する前に、まず個人で言語化する時間を設けているのも、段階設計の工夫の一つです。安心して発言できる状態をつくることで、対話が生まれやすくなります。
こうした段階設計は、ワークショップ全体に組み込んでいきます。オープニングからクロージングまでの一つ一つの時間を、綿密なスケジュールと運営シナリオに落とし込み、当日はQ&Aや参加者の様子を見ながら、その場での働きかけも重ねていきます。
<運営シナリオ>
| 少し深堀り:この設計を支える2つの学習理論 |
|---|
| 段階的に流れを組み立てる背景には、2つの理論があります。 一つは「社会構成主義学習観」です。他者との関わりの中で、少しずつ学んでいく、という考え方です。今回の設計でも、自分の課題を意識する→ファシリテーションの説明を聞く→ロールプレイングでやってみることを決めるというように、段階的にロールプレイングへ導いています。 もう一つは「経験学習」です。経験と省察により学習していくという考え方です。ロールプレイングの後に振り返るワークを取り入れています。 理論を知らなくても場はつくれますが、理論を知っておくことで、どこを工夫すればより学びが深まるかの見立てがしやすくなります。 |
3. 対話が起きる仕掛けをつくる
「対話しましょう」と言うだけでは、対話はなかなか生まれません。
そこで、グループワークでは、考えを整理するワークシートや、考えを付箋に書いて共有できる仕掛けを用意し、自然と対話が起きるようにします。
書いて、貼って、動かす——ちょっとしたことのように思えますが、この即興性・身体性をともなう協働が、自然に参加を促し、ワークショップならではの対話につながっていきます。みんなで付箋を並べ替えながら「こうするとうまく会議が進められそう」などと話すうちに、学びが深まっていきます。
ちなみに、お菓子を置いて、初めて同席した方とも話しやすい雰囲気をつくる、といった小さな工夫もしています。

4.実際の業務・次のアクションにつなげる
学んで終わり、参加して終わりにはしたくありません。最後に、明日からの一歩につながるように、全体を通しての振り返りも丁寧に設計します(この振り返りは、「少し深堀り」に記載した経験学習にあたります)。
最後の振り返りでは、グループで「やってみると決めたことはどうだったか」「やってみて気づいたことは何か」「明日からの会議でやってみたいことは何か」を共有してもらいます。
そして大切にしているのが、そこで生まれた気づきを、そのまま現場へ持ち帰れるようにすることです。
用意したのは、「全体を通して気づいたこと、明日から試してみたいこと」というタイトルを印字した、持ち帰り用のワークシートです。グループでの振り返りで使った付箋を、そのままこのシートに貼ってお持ち帰りいただきます。「3.対話が起きる仕掛けをつくる」で対話のツールだった付箋が、ここでは持ち帰りのツールに変わるのです。職場に戻ってから見返し、明日からの会議で試していただけるようにしています。
<持ち帰り用のワークシート>
実施してみて
ロールプレイングを重ねるごとに、参加者の皆さんの様子が変わっていきました。説明で伝えた「ファシリテーターが目指すこと」を、参加者自身が自然と体現し始めたのです。
- 気づけばホワイトボードのそばに全員が立ち上がり、議論が始まる
- 付箋を使ったり、図式化したりと、議論を可視化する工夫がどんどん生まれる
- 携帯のアラームをセットして、自分たちで時間管理をしながら進めていく
参加者の皆さんはいつの間にかワークに没頭し、対話を通じて、学びを実務に活かすための気づきを持ち帰ってくださいました。狙いどおりの手応えを感じられる場になったと思います。実際、当日の満足度は94.7%、業務への有用度は100%という結果でした。
参加者アンケートでは、ワークショップという“場”そのものへの声も多くいただきました。
- 最初は不安だったのですが、ワークショップを通じて、同じ悩みを持っている方がいたり、気づきを得たりすることができました。
- テーマ云々ではなく、他社の方々と意見を述べたり議論できると、非常に勉強になると改めて思いました。
- 他企業の方と合同で受けることができて、モチベーションをもらいました。説明が丁寧でわかりやすく、運営のサポートもすぐ来てくれて良かったです。
テーマは回によって変わりますが、同じ情シス・DX部門という立場だからこそ、共通の悩みに深く共感し合い、対話の中から一人ではたどり着けなかった気づきや学びを持ち帰るという体験は、どの回にも共通しています。
こうした“場”を、これからも大切につくり続けていきます。情シス・DX部門の皆さまは、ぜひ次回、この場でお会いできればうれしいです。
これから目指していきたいこと
今回ご紹介したのは、数あるテーマのうちの一つにすぎません。現場が抱える課題は、組織や部門、チームによってさまざまで、決まった正解があるわけではありません。
だからこそ私が大切にしたいのは、その一つ一つに丁寧に向き合いながら、冒頭でお伝えした「気づいたら夢中になっていた」——あの場を、意図してつくり続けることです。学んで終わりにせず、現場で本当に使える学びを届けられるよう、これからもワークショップデザインを磨いていきたいと思います。
