さらにその後の新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響

2021年04月05日 月曜日


【この記事を書いた人】
長 健二朗

IIJ 技術研究所に所属。インターネット計測とデータ解析などの研究に取り組んでいる。

「さらにその後の新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響」のイメージ

はじめに

前回の報告では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で昨年3月に大きくトラフィックが増えた後、4月にはあまり状況に変化がなかった事を伝えました。それからずいぶん間が空いてしまいましたが、今回は年度初めという事もあり、この1年あまりのフレッツトラフィック状況を振り返っておきます。

長期トレンド

図1は、IIJの固定ブロードバンドサービスの月毎の平均トラフィック量の推移を2017年1月から2021年3月まで示したものです。トラフィック量は2020年1月のダウンロード量を1として表しています。IIJのブロードバンドサービスは、アクセス回線にNTT東西が提供するフレッツを利用していて、IPv6 IPoEを除いた従来からのPPPoE分は細線で示しています。

図1 ブロードバンド月平均トラフィック量推移

図1から、昨年3-5月はトラフィック量が急増している事がわかります。しかし、これは一時的な上振れで、その後は元の増加曲線に戻って順調に伸びているように見えます。新型コロナウイルスの感染拡大と関連づけると、昨年の3月から5月は、全国の学校の一斉休校とそれに続く緊急事態宣言で在宅時間が増えてインターネット利用が急増した時期です。6月に入って通勤通学が再開されるに従ってトラフィック量も減少します。その後、7月には再度増加に転じて、11月には5月を超える量になっています。月毎の増加ペースには多少波がありますが、昨年7月、11月、今年1月と感染再拡大で在宅時間が増えるとトラフィックも増えているようです。ダウンロード量の年間増加率は、2019年が24%で、2020年が38%となっています。年率38%はかなりの増加ですが、2015年の47%より少ない数字です。

IPoEに関しては、コロナ禍でPPPoEでの輻輳が目立つようになり、それを避けてIPoEへ移行する利用者が増えていて利用拡大が加速しています。IPoEのトラフィック量は1年でほぼ倍増していて、ダウンロード全体に占めるIPoEの割合は2021年3月には27%になっています。

時間別トラフィック推移

ここからは、トラフィック傾向の変化を見るために、PPPoEとIPoEに分けて、平日と週末の時間別トラフィックの推移を見ていきます。ここで取り上げるのは以下の7つの週です。一斉休校が始まる前の2020年2月25日の週、最初の緊急事態宣言下の4月20日の週、緊急事態解除後の6月22日の週、感染第2波が落ち着いてきた8月31日の週、感染第3波が始まりかけていた11月16日の週、2回目の緊急事態宣言下の2021年1月18日の週、そして、首都圏の緊急事態解除後の3月22日の週です。ここでは、週の各時間の平均トラフィック量を、月曜から金曜の平日(休日は除く)と土日の週末に分けています。下側の波線はそれぞれの週のアップロード量ですが、今回はダウンロード量に注目して話を進めます。

図2 PPPoE 平日時間別トラフィック量

図3 PPPoE 週末時間別トラフィック量

図2にPPPoEの平日トラフィック量を示します。まず、昨年の2月(青)と4月(赤)を比較して最初の緊急事態宣言の影響を見ると、昼間のトラフィックが大きく増えていて、また夜のピーク時間帯でも増加しています。緊急事態宣言が解除された6月(薄緑)には昼間の増加分が1/3ぐらいに減少していますが、ピーク時間帯ではほとんど減っていません。その後、昼間のトラフィックは徐々に増えていますが4月のレベルには届いていません。また、ピーク時間帯の伸びも僅かです。直近の3月(緑)では、昼間は昨年4月(赤)より少なく、夜のピーク時間帯には少し多くなっています。

図3のPPPoEの週末トラフィック量は、平日に比べ変化が少ない事が分かります。週末の昼間の在宅率はリモートワークや休校よりも天気が大きく影響します。例えば、今年の1/23-24(橙)は悪天候で自宅でのインターネット利用が増え、4/27-28(緑)は関東以西で桜が満開となり人出が増えた結果トラフィックは少なめです。夜のピーク時間帯のトラフィック量については平日とほぼ同じです。

図4 IPoE 平日時間別トラフィック量

図5 IPoE 週末時間別トラフィック量

一方、IPoEは利用者数が大きく増えてきている事もあって少し様子が異なります。図4のIPoEの平日トラフィック量を見ると、昨年4月(赤)の昼の割合が多い事を除けば、全ての時間で順調に増加している事が分かります。図5のIPoEの週末トラフィック量では昼間の天気の影響がPPPoEより強く出ています。

図6 フレッツ合計平日時間別トラフィック量

図7 フレッツ合計週末時間別トラフィック量

最後に、PPPoEとIPoEを合算したフレッツ合計トラフィック量を見ておきます。図6のフレッツ合計平日トラフィック量は昨年6月以降IPoEの伸びに牽引されていて、昼間のトラフィック量もこの3月(緑)で昨年4月(赤)を超えました。図7のフレッツ合計週末トラフィック量もPPPoEの変動が少ないためIPoEの変動を反映した推移となっています。

まとめ

昨年の3-5月は、人の移動が止まって在宅率が上昇した結果、平日昼間のトラフィックが大きく増えました。しかし、この期間を除くとトラフィック量は概ね成長曲線に乗って順調に伸びています。つまり、コロナ禍でトラフィック増加は年率40%程度に上昇したものの、当初危惧された劇的な増加にはならず、堅調な増加を続けています。

また、IPoEのトラフィックが大きく伸びている事から、トラフィック需要のポテンシャルはまだまだあるものの、PPPoEのボトルネック等の制約で本来の伸びが抑えられている事が窺えます。今後もIPoEの利用拡大が続くと思われます。

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長 健二朗

2021年04月05日 月曜日

IIJ 技術研究所に所属。インターネット計測とデータ解析などの研究に取り組んでいる。