人工衛星はなぜ地球に落ちないのか- 人工衛星としてのStarlinkを知る
2026年07月31日 金曜日
CONTENTS
はじめに
夜空を見上げていると、点のような光がすーっと一定の速さで横切っていくことがあります。
小さい頃の私はU.F.Oだと思っていましたが、大体は人工衛星です。
そして近年、その人工衛星の数を一気に押し上げているのがStarlinkです。 夜空に浮かぶ小さな光がStarlink衛星である可能性も、年々高まっています。
私は大学院で宇宙分野の研究をしていて、今年度IIJに新卒入社しました。
IIJ技術研究所の社内オープンハウスに参加した際、Starlinkの調査・検証を続けている「Starlinkマニア」の弊社の谷口とお話しする機会がありました。その場で「興味があるなら書いてみなよ」と背中を押していただいたことが、本記事を書くことになったきっかけです。
Starlinkマニア | IIJ Engineers Blog
連載の予定
今のところ、次のような内容を考えています。
- 人工衛星はなぜ地球に落ちないのか(本記事)
- 軌道を表すパラメータ
- Starlink衛星が地球を取り囲む構造
- 打ち上げから所定の軌道に入るまでの流れ
- SpaceXは大量のStarlink衛星をどう管理しているのか
まずはStarlinkがどういうサービスなのかを簡単に確認しておきましょう。
Starlinkとは
Starlinkは、SpaceX社が提供している衛星インターネットサービスです。
2019年に最初の運用衛星が打ち上げられて以来、その打ち上げペースは他に例を見ないもので、この記事を執筆している2026年7月時点で1万機以上が打ち上げられています。
Starlinkの大きな特徴は、衛星が静止軌道衛星よりもはるかに低い軌道を回っていることです。
高度は約550kmで、2026年からは480km前後へ順次移行が進められています。
例えば気象衛星「ひまわり」は高度約3万6千kmを回っています。
それと比べると、Starlink衛星はとても地上に近い場所を飛んでいることが分かります。
地上に近いほど電波の往復距離が短くなるので、低遅延を実現できます。
その代わり、1機がカバーできる範囲は狭くなります。
地球全体を隙間なく覆うには膨大な数の衛星が必要になるわけで、これが「1万機以上」という数字の理由です。
ここからはStarlinkに限らず、人工衛星全般に関する話題に入ります。
なぜ衛星は地球に落ちてこない?
地球の重力はリンゴや人間、地球上に存在するすべての物体を地面に縛りつけています。
ではなぜ、夜空に浮かんでいる人工衛星は落ちてこないのでしょうか。
素朴な疑問ですが、この訳を筋道立てて説明できる人は意外と少ない気がしています。
よくある勘違いが「宇宙には重力がないから」というものですが、これは正しくありません。
Starlinkが飛んでいる高度550kmでも地表の約85%の重力が残っていて、重力に縛られているからこそ衛星は宇宙空間に吹っ飛ぶことなく地球の周りを回っています。
ではなぜ落ちてこないのか?
答えを先に言ってしまいますと、衛星は落ちないのではなく、ずっと落ち続けています。
矛盾しているようですが、順を追って考えてみましょう。
思考実験
まずは数式を一切使わずに思考実験をしてみましょう。
とても高い山の上に大砲を構えて、水平方向に弾を撃つことを想像してみてください。
初速が遅いと、弾は少し飛んだ後に放物線を描いて地面に落ちます。少し大きめの初速だと、より遠くまで飛んでから落ちます。
さらに速いと、もっと遠くに落ちます。
ここまでは直感的に分かるかと思います。
弾がある程度遠くまで飛ぶようになると面白いことが起きます。
弾は落ち続けますが、同時に地面も同じだけ遠ざかります。
なぜならば地球は丸いからです。
ある速度では弾が落ちていく曲がり具合と、地球の丸みがぴったり一致します。
このとき弾は、永遠に落ち続けながら、決して地面に届きません。そのまま地球を一周して、撃った場所へ戻ってきてしまいます。
人工衛星とは、この「ちょうどいい速さで撃たれた弾」に他なりません。
地表面から打ち上げられた後は、ただ落下し続けているだけというわけです。

運動方程式から考える
では「ちょうどいい速さ」とは、具体的にどれくらいなのでしょうか。
ここからは数式を使って求めてみます。
まず確認しておくと、軌道上の衛星にはたらいている力は、地球からの重力だけです。
ではなぜ衛星は地球にまっすぐ落ちず、円を描き続けられるのでしょうか。
物体が円運動を続けるには、常に円の中心へ向かって引っ張る力が必要です。
これを向心力と呼びます。
ハンマー投げ選手がワイヤーを内側へ引っ張り続けているのと同じです。手を離せばハンマーは飛んでいってしまいます。
質量 m の物体が半径 r の円を速さ v で回るとき、必要な向心力は以下の式で表されます。
F = mv²/r
もうひとつの力は万有引力、つまり重力です。衛星が受ける重力は以下の式で表されます。
F = GMm/r²
ここでMは地球の質量、Gは万有引力定数です。
衛星の場合、この重力がそのまま向心力の役割を果たしています。
別々の力が2つあるのではなく、重力=向心力ですから以下の等式が成り立ちます。
mv²/r = GMm/r²
この式を v について解きます。両辺に r をかけ、m で割ると、
v² = GM/r
v = √(GM/r)

ここで注目したいのは、vの式には衛星の質量 m が入っていないことです。
これは、1トンの衛星と1gのネジで同じ高度を回るのに必要な速さは変わらないことを意味します。
もうひとつ読み取れるのは、r が大きいほど v は小さくなることです。
つまり高い軌道ほど遅く、低い軌道ほど速く回ります。
第一宇宙速度
さて、この式に具体的な数字を入れてみましょう。
まずは地表すれすれ(r = 地球半径 R ≒ 6370km)を回る場合です。
地表での重力加速度 g = 9.8 m/s² は GM/R² に等しいので、これを使うと式はぐっと簡単になります。
v = √(GM/R) = √(gR)
= √(9.8 × 6.37×10⁶)
≈ 7.9 km/s
秒速7.9km。時速に直せば約2万8千kmです。
これを第一宇宙速度と呼び、地球を周回するために最低限必要な速さを意味します。
名前だけは聞いたことがある、という方も多いかもしれません。
余談ですが「第一」宇宙速度というだけあって、第二、第三宇宙速度もあります。
| 速度名 | 速さの値 | この速さを超えるとできること | 具体例 |
| 第一宇宙速度 | 7.9km/s | 地面に落ちることなく地球を周回できる | Starlink |
| 第二宇宙速度 | 11.2 km/s | 地球の重力圏を脱出して、太陽系を漂うことができる | 小惑星探査機 はやぶさ2 |
| 第三宇宙速度 | 16.7km/s | 太陽の重力すらも振り切り、無限の彼方へ | ボイジャー1号 |

さらに余談になりますが、ボイジャー1号は1977年の打ち上げから35年後の2012年8月、太陽圏境界を越え、恒星間空間に入りました。
NASAによれば、ボイジャー1号がオールトの雲に到達するのは約300年後、さらにそこを抜けるのは約3万年後とのことです。3万年後も人類は存在しているのでしょうか…。
ちなみに第二・第三宇宙速度の式はエネルギー保存則を使って導けますが、余談すぎるので本記事では省略します。
Starlink衛星の速度
次に、冒頭で触れたStarlink衛星の高度550kmでも周回に必要な速度を計算してみましょう。 r は 6370 + 550 = 6920km なので、
v = √(GM/r) ≈ 7.6 km/s
第一宇宙速度より少し遅いのは、先ほど導いた「高い軌道ほど遅く回る」という理屈通りです。
とはいえ秒速7.6kmは、時速に直すとおよそ2万7千km。
新幹線の最高時速がだいたい300 km/h ですから、その90倍。
東京–大阪間の直線距離を1分かからず駆け抜け、1時間半で地球を一周する速さです。
まとめと次回予告
長くなりましたが、本記事のまとめです。
- 衛星は地球に落ちないのではなく、落ち続けている。
- 衛星に必要な速さは v = √(GM/r)で、衛星の重さには依存しない。
- 地表すれすれの軌道に必要な速さが秒速約7.9kmで、これを第一宇宙速度と呼ぶ。高い軌道ほど必要な速さは小さくなる。
衛星の運動は、原則的には「高度」と「速さ」だけで決まります。
しかし現実の衛星軌道は多様です。
赤道に沿って回るものもあれば、極を通るものもあります。
きれいな円ではなく、細長い楕円を描くものもあります。
次回はそうした軌道の種類と、軌道を表すパラメータについて調べます。
最後まで読んでいただきありがとうございました!