レースを支えるアンテナたち
2023年10月23日 月曜日
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はじめまして。2023年にIIJへ新卒入社した駆け出しエンジニアの織(おり)です。
モータースポーツ好きの私は、今年も2023年9月22日~24日に鈴鹿サーキットにて行われた Formula 1 日本グランプリ を観戦したので、今回はその観戦レポートをお届けする……のではなく、少し目線を変えて私が現地で目にしたレースを支えるアンテナたちを紹介します。
5G専用波(Sub6/ミリ波)アンテナ
まずは、我々が日々使用しているスマートフォンの通信を支えるアンテナの写真です。
NTTドコモは鈴鹿サーキットのメインスタンドに5G専用周波数帯、いわゆるSub6/ミリ波の基地局アンテナを設置しています。
NTTドコモ、au/KDDI、ソフトバンク、楽天などの通信キャリアは通信規格(4G/5G)ごとのサービスエリアマップを公開しており、以下の画像・リンクはNTTドコモの鈴鹿サーキットでのサービスエリアマップです。
確かに、グランドスタンドのみミリ波を示す紫色で覆われていることが分かります。
サービスエリアマップ | 通信・エリア | NTTドコモ (docomo.ne.jp)
2023年10月8日時点での上記ドコモエリアマップのスクリーンショット
ここで少し無線周波数について解説します。
電波は共有の財産であるので、それぞれが好き勝手な周波数で好き勝手な用途に使用することは禁止されています。
日本国では総務省が周波数ごとに用途を割り当て、事業者は総務省に免許申請をしたうえで電波を使用することができます。
総務省 電波利用ホームページ|周波数割当て|周波数の公開 (soumu.go.jp)
以下の表は日本国で通信キャリアに割り当てられている周波数帯と、移動体通信システムの世代(4G/5G)との関係を示したものです。
下記の総務省HPを参照し、一部抜粋・省略し、上表を作成
表の上部にあるように、周波数が低い(波長が長い)ほど遠くまで届くものの、使用できる周波数幅が狭いため一度に運べるデータ容量が少なくなります。
反対に、周波数が高い(波長が短い)ほど広い周波数幅を使用できるため一度に運べるデータ容量が大きくなるものの、電波が届く範囲が狭くなります。
そのため、700MHz/800MHz/900MHz帯は電波が届きやすく、利用者にとって繋がりやすさに直結する貴重な周波数帯のため「プラチナバンド」と呼ばれています。
また、3.7GHz/4.5GHz/28GHz帯は新たに5G専用に割り当てられて周波数帯で、3.7GHz/4.5GHz帯は6GHzより少し低い周波数帯のため「Sub6」、28GHz帯は波長が約10mmであることから「ミリ波」と呼ばれています。
送受信する周波数が高い(波長が短い)ほどアンテナが短く、小さくて済むので、このアンテナはSub6/ミリ波のものであると推測することができます。
また、通常アンテナはスマートフォンなどの通信デバイスの間にできるだけ障害物が生じないように、高い位置に設置するのが一般的ですが、スタンドの周りは障害物がないためこのようにアンテナを低い位置に設置しても問題ないのだと思われます。
移動基地局車
続いても通信キャリアの設備紹介です。
基地局を設置・管理する通信キャリアはエリアごとのキャパシティを予想し、そのキャパシティを収容できるエリア設計を行っています。
しかし、イベントなどで一か所に多くの人数が集まると、既存の基地局では無線通信を収容できなくなり、アンテナピクトは立っているのに通信しづらくなってしまいます。
これは、最近都心部や主要駅などで生じている「パケ詰まり」と同じ原因によるものです。
実際、鈴鹿市の人口は約20万人に対しF1決勝日の来場者数は10万人以上と、多くの人々が一か所に集まりました。平常時を想定したエリア設計のままではキャパシティ不足になってしまいます。
そこで活躍するのが移動基地局車です。
花火大会やライブ、レースなどのイベント会場へ移動基地局車が出動し、臨時の基地局を配置することで無線通信のキャパシティを確保しています。
NTTドコモ、au/KDDI、ソフトバンクの3キャリアは事前にイベント対策情報を公開しています。
- NTTドコモ:エリア対策強化イベント | 通信・エリア | NTTドコモ (docomo.ne.jp)
- au/KDDI:イベント対策 | エリア | au
- ソフトバンク:イベント対策 | スマートフォン・携帯電話 | ソフトバンク (softbank.jp)
今回のF1でも上記3キャリアがイベント対策を行っていて、サーキットにはたくさんの移動基地局車が出動していました。
その一部の写真がこちら。
移動基地局車設置の様子はau/KDDIの記事がとても参考になるので、気になる方はチェックしてみてください。
11万人のイベントにau 5Gを!「コミックマーケット99」の電波対策に密着|KDDI トビラ
場内無線LAN
続いては、鈴鹿サーキットが整備している場内無線LANアクセスポイントの写真です。
このように屋外向け無線LANアクセスポイントがフェンス沿いにたくさん設置されています。
無線LANアクセスポイントは4G/5Gなどの移動体通信基地局に比べて電波の出力がとても小さいことや、大人数の通信デバイスを収容するためにたくさんの台数が必要なのです。
また、これだけアクセスポイントの台数が多いとアクセスポイント同士でチャンネルが重複して電波干渉してしまわないように、適切なチャンネル管理が必要です。
日本において、無線LANは以下4つの周波数帯が利用可能です。
下記の総務省HPを参照し、一部抜粋・省略し、上表を作成
2.4GHz帯はBluetoothや電子レンジなどと同居、5.3GHz帯(W53)/5.6GHz帯(W56)は気象レーダーや無線標定と同居しているため、それぞれのチャンネル毎に注意事項・制約があります。
特に5.3GHz帯(W53)/5.6GHz帯(W56)については気象レーダーや無線標定の方が優先度が高く定められているため、無線LANアクセスポイントがそれらの電波を検知したらチャンネルを停止・変更する必要があります。
この機能をDFSといいます。DFSについては以前の記事に詳しく書かれているので詳しく知りたい方はチェックしてみてください。
IIJ飯田橋オフィスでDFSはどれくらいおきているのか? | IIJ Engineers Blog
F1レース用仮設システム
最後に、F1の主催者が仮設したF1レース用無線システムの紹介です。
F1マシンには1台につき複数のオンボードカメラや300を超えるセンサーが搭載されており、1レースあたり500GBにおよぶマシンの詳細なテレメトリデータをリアルタイムで送信しています。
これらのデータはチームが戦略を練るために使用されるだけでなく、TV放送やF1公式アプリにも使用されています。
F1マシンは全20台が最高速度300km/hほどで走行するため、高速ハンドオーバーやドップラー効果問題への対応が必要です。
F1の主催者は専用の無線システムを開発・運用していて、1周約5.8kmのコース上に30本以上もの仮設アンテナを設置しています。
まとめ
以上、レースを支える無線システムの紹介でした。
いろいろなアンテナを見ると、アンテナの種類からどの周波数帯のアンテナだろうか、アンテナの向きなどから何の用途に使用されているアンテナだろか、と予想するのが楽しいのは私だけではないはずです。
特に携帯電話用のアンテナは見つけやすい位置にあることが多いので、身近な基地局を探してみるのも面白いかもしれませんね。