IoTで”見守る”という選択肢:位置情報可視化でできることを考えてみた~IIJっぽくないけど、こんなこともやってます~
2025年09月10日 水曜日

CONTENTS
はじめに
位置情報の活用と聞くと、トラックの運行管理や資産の所在確認など、業務効率化のイメージが強いかもしれません。実際、GPSを使った位置管理は物流業界をはじめ、さまざまな分野で広く利用されています。
一方で、近年では「人の見守り」に位置情報を活用する取り組みも増えています。共働き家庭の増加や地域コミュニティの希薄化などを背景に、子どもや高齢者の安全を遠隔から支えるニーズが高まっているためです。
こうした社会的な流れの中で、IIJではIoTと位置情報を組み合わせた見守りシステムの開発・運用に取り組んでいます。インターネットを通じて人の安全を支えるという観点では、私たちの技術が活かせる領域でもあります。
本記事では、位置情報を活用した見守りの仕組みや、ジオフェンスによるエリア監視の技術、そして実際の利用されている例について、技術的な視点からご紹介します。
ジオフェンスでできること
ジオフェンスとは?
ジオフェンスとは、「Geo(地理)」と「Fence(囲い・境界)」を組み合わせた言葉で、地図上に仮想的な境界線を設定し、その範囲に対象が入ったり出たりしたことを検知する技術です。
この技術は、日常生活のさまざまな場面で使われています。たとえば、以下のような活用があります。
- 家電の自動制御
スマートフォンの位置情報を使って、自宅に近づいたらエアコンや照明を自動でオンにする。 - 交通システムでの案内表示
バスや電車が特定の停留所に到着した際に、駅構内の案内表示や乗り換え情報を切り替える。
この技術を見守りに活用した場合は、「公園の敷地内」などのエリアを設定し、子どもがその範囲を出たら通知を送る、といった使い方ができます。
緯度経度からのエリア判定の仕組み
ジオフェンスは、GPSから取得した緯度・経度情報をもとに、事前に定義されたエリアとの位置関係を判定します。
判定ロジックは、計測した緯度・経度と、事前に定義したエリアの緯度・経度のベクトルの外積を求めることで、エリア内に含まれているかどうかを判定しています。
エリアの判定方法
例として、エリアは4つの頂点 a,b,c,d で構成される四角形とし、対象点を e とします。各辺に対して、以下の2つのベクトルを定義します:
同様に、辺 bc,cd,da に対してもそれぞれ外積を計算します。すべての外積の符号がすべて正であれば、点 e は四角形の内側にあると判定できます。
ジオフェンスイメージ図
判定方法を応用することで単純な四角形だけでなく、多角形や複数のエリアを組み合わせた判定等の柔軟な設定が可能です。これにより、実際の利用環境に即した見守りが実現できます。
利用シーンの想定
今回はジオフェンスとIoTの技術を公園での見守りに活用するシーンをご紹介します。
たとえば、広い公園で子どもが遊ぶ際に、保護者がその安全を見守る場面を想定してみましょう。
子どもには小型のIoTトラッカーを身につけてもらい、保護者はスマートフォンを使って位置情報を確認します。
あらかじめ公園の敷地に合わせてジオフェンスが設定されており、子どもがその範囲を出ると、管理画面上に通知される仕組みです。
このような使い方により、保護者は離れた場所からでも子どもの現在地を把握でき、安心して遊ばせることができます。
システム構成と使用機器の紹介
IIJのインフラを活かした構成
本見守りシステムは、IIJが提供するクラウドを基に構築されています。IoTデバイスから送信される位置情報は、IIJの閉域ネットワークを通じてセキュアにクラウドへ送信され、リアルタイムで可視化されます。
使用しているセンサーや通信機器
本システムで使用している主な機器は以下の通りです:
- ウェアラブルトラッカー:
腕時計側のトラッカーで、お子さんの腕に装着し使用します。トラッカーでは位置情報に加え、心拍数・表面温度・転倒検知といった生体情報も同時に計測可能です。 - LoRaWAN®ゲートウェイ:
ウェアラブルトラッカーで収集されたデータは、LoRaWAN®通信でゲートウェイに集約され、クラウドへ送信されます。LoRaWAN®について詳しく知りたい方は、以下のブログをご参照ください。
https://eng-blog.iij.ad.jp/archives/29823
可視化画面の紹介
保護者側は、スマートフォンやPCのWebブラウザ上から閲覧できます。対象者の現在地が画面内の地図上にマーカー(青い円)で表示されます。あらかじめ設定されたエリア(ジオフェンス)に基づいて、対象者の位置を監視しています。対象者がそのエリアを出ると、管理画面上にアラートが表示される仕組みになっており、保護者がリアルタイムで状況を把握できます。
実際の画面イメージ
利用されている例:深沼うみのひろばの紹介
本技術を利用した仕組みが、宮城県仙台市若林区にある「深沼うみのひろば」に導入されています。
この施設は、仙台市沿岸部の再生を目指すプロジェクトで整備された、誰もが安心して過ごせる遊び場です。広い敷地内での安全確保を目的に、IIJの位置情報可視化システムが導入されました。この取り組みでは、位置情報に加えて心拍数などのバイタルデータも取得しており、子どもたちの転倒や熱中症の兆候をいち早く検知することで、より安全で安心な活動環境の提供に役立てています。
おわりに:IIJが”見守り”に取り組む理由
IIJでは安心・安全な社会づくりを目指して、IoTの活用を進めています。今回ご紹介した位置情報可視化システムは、子どもや高齢者の安全を守るだけでなく、施設運営の効率化や保護者の心理的負担軽減にもつながるものです。
IIJの強みは、通信事業者としての閉域ネットワーク網と、セキュリティに配慮されたクラウド環境です。これにより、見守り対象の位置情報等のプライバシーに関する情報が漏洩することなく、安全に管理されます。今後もこうした取り組みを通じて、「技術で人を支える」ことを実現していきます。