iPhoneと「APN構成プロファイル」の迷宮
2025年09月09日 火曜日

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今年もモバイル業界がざわつく季節がやってきました。
IIJmioを含めたMVNO各社の通信サービスでiPhoneを利用する場合、「APN構成プロファイル」なるものをインストールしなければなりません。ただ、このAPN構成プロファイルは少々奇妙な挙動があります。新しいiPhoneの登場前に振り返っておきましょう。
- iPadでも一部共通する部分もあるのですが、iPhoneと挙動が異なります。記事が長くなるので、別の記事で改めてご紹介したいと思います。
- Androidを搭載したスマートフォン・タブレットは、普通に設定すれば普通に動くので今回は取上げません。
iPhoneで携帯電話網を使うためのステップとAPN

iPhoneで携帯電話網を使うためのステップ
携帯電話ショップでiPhoneを購入すると「使える状態」でiPhoneを渡されることが多いので、こういったステップは意識しないかもしれません。ですが、実はバックヤードでショップのスタッフさんがSIMの取り付け作業を行なっています。
また、ここで出てくる「APN」は、超ざっくりと「データ通信のために必要な設定」と覚えておいてください。音声通話(電話)をするだけならAPNの設定は不要なのですが、データ通信をしようと思うと、APNの設定が必要になります。
この「契約」「SIMカード(eSIM)」「APN」はセットになっています。このセットと異なる組み合わせにしてしまうと、通信ができません。

契約-SIM-APNの組み合わせ
さて、ここで問題になるのが、APNの設定方法です。iPhoneでは、契約(キャリアかMVNOか)によって、APNの設定方法が異なるのです。
キャリアの場合 (サブブランド含む)
docomo, KDDI(au), SoftBank, 楽天などのキャリアの契約では、実はAPNを設定する必要がありません。これは、iOS (iPhoneを動かすソフトウェア) の中に、APN設定があらかじめ準備されているからです。これをiOSの「キャリア設定」と呼びます。
SIMカードにはそれぞれIMSIと呼ばれる固有の番号が割り振られています。iPhoneにSIMカードを取り付けた際に、iPhoneがこのIMSIを識別して、適切なキャリア設定を適用します。このキャリア設定ファイルの中では、APNの設定と合わせて、iPhoneの設定画面から「APN設定」を隠す指示が書かれています。
このため、キャリアの契約ではSIMカードを挿すだけでAPN設定が自動的に完了します。 (逆に設定を自分で変更することができません)

キャリアのSIMではiPhoneのキャリア設定が有効になる
MVNOの場合 (ライトMVNO)
日本のMVNOのほとんどは「ライトMVNO」という方式をとっています。IIJmioでもほとんどの品目でライトMVNO方式を使っています。(例外は次の項目に書きます)
ライトMVNO方式では、MVNOがSIMカード(eSIM)を管理することができません。このため、キャリアがSIMカードをMVNOに貸し出し、MVNOはそれを自社の契約者に又貸しするということになっています。

ライトMVNOのSIM
つまり、MVNOの契約者が利用するSIMカードは、そもそもはキャリアが管理しているものなのです。このため、SIMカードのIMSIも、キャリアの番号が割り振られています。
このSIMカードをiPhoneに取り付けた場合、iPhoneは「キャリアのSIMカードが取り付けられた」と判断してしまい、「キャリア設定」が有効になります。
その結果、iPhone内では自動的にキャリアのAPNが設定されてしまいます。このため、「MVNOのSIM」と「キャリアのAPN」という組み合わせになってしまい、通信ができません。

MVNOのSIMをiPhoneに取り付けた場合キャリアのAPNが設定されてしまう
さらに悩ましいことに、「キャリア設定」には、iPhoneの設定画面から「APN設定」を隠す指示が含まれているため、手動でAPNを変更することもできなくなっています。
ここで登場するのが「APN構成プロファイル」です。
APN構成プロファイルは、キャリア設定の指示を一部上書きすることが可能です。これを使って、キャリア設定に含まれているAPN設定を上書きすることで、iPhoneに正しいAPNを設定させることができるのです。

APN構成プロファイルによりキャリア設定のAPNを上書きする
これが、MVNOの通信サービスを利用する場合にAPN構成プロファイルが必要になる理由です。
フルMVNOの場合
さて、先ほどMVNOの説明の中で「例外がある」と書きました。
実は、「フルMVNO」という方式を使っている場合、MVNOが自分でSIMカードを管理することができます。フルMVNOが管理するSIMカードにはフルMVNOが管理するIMSIが割り振られているので、iPhoneは「これはキャリアのSIMではない」と判定します。結果、「キャリア設定」が有効にならず、APNの設定や設定画面を隠すような指示も行なわれません。
IIJmioの場合、データ通信専用eSIM品目のみ、フルMVNO方式となっています。この品目のeSIMを使った場合「キャリア設定」は有効にならないので、iPhoneの設定から手動でAPNを設定することになります。……が、それはちょっと面倒ですので、IIJがeSIMを発行するときにeSIM内に仕掛けを作って、APN設定が自動で行なわれるようにしています。(これは「キャリア設定」とは全く別の仕組みです)
IIJmioの他の品目でもフルMVNO方式を期待されるかもしれませんが、現状のIIJのフルMVNO設備では音声通話(電話)ができないため、一部品目のみでの採用となっています。
すでに結構長くなっていますが、ここまでは本題を説明するための事前準備でした。
ここからがこの記事の本題です。
誤ったAPN構成プロファイルをインストールした場合の挙動
ここまでの説明の通り、「APN構成プロファイル」はあくまで「APN」を設定することが目的です。また、APNはデータ通信のための設定です。
ところが、誤ったAPN構成プロファイルをインストールすると、対象のSIMで音声通話もできなくなる現象が発生しています。
たとえば、SIMカードがIIJmioのもの、APN構成プロファイルとして他MVNOのものをインストールすると、アンテナピクト表示が「圏外」の表示になり、通常の音声通話ができなくなってしまいます。(衛星経由の緊急通報のマークは常時表示されるようです)

SIMとAPN構成プロファイルが対応していない場合
例ではIIJmioのSIMにmineoのAPN構成プロファイルをインストールしていますが、mineoのAPN構成プロファイルに不備があるわけではありません。(別の組み合わせでも発生します)
この場合、誤ったAPN構成プロファイルを削除すると、音声通話ができるようになります。(データ通信にAPN構成プロファイルが必要なSIMの場合、正しいAPN構成プロファイルのインストールも必要です)
※本件、VoLTEで使用する隠しAPN “ims” との関係が気になりますが、現時点で関連性は確認できていません。
SIMカードを差し替えた場合のAPN構成プロファイルの挙動
iPhoneを利用開始した後に、SIMカードを差し替えることがあるかと思います。
- 携帯電話会社を変えた
- 海外旅行のために、海外で調達したSIMカードを取り付けた
- iPhoneに複数のeSIMプロファイル※を保存しており、利用するプロファイルを切り替えた
(※iPhone用語では「モバイル通信プラン」と表記)
こうした場合にSIMを差し替えても、差し替え前のAPN構成プロファイルの設定は有効になったままです。差し替え後のSIMカードに対応したAPNが、差し替え前のAPNと異なる場合、そのままでは通信ができません。
この場合は、iPhoneの設定からAPN構成プロファイルを削除する必要があります。
また、差し替え後のSIMでもAPN構成プロファイルのインストールが必要な場合、削除後に改めて正しいAPN構成プロファイルをインストールすることが必要です。
参考: [iPhone]APN構成プロファイルの削除方法を教えてください【ギガプラン・mioモバイル】
このケースでよく引っかかるのが、海外旅行などで一時的に異なるSIMカードを取り付ける場合です。海外ではAPN構成プロファイルを削除して現地のSIMを使い、帰国後、いつものSIMカードに再度交換したときにAPN構成プロファイルのインストールを忘れていて、通信ができなくなってしまう。そんな状況を度々伺っています。
DualSIMでのAPN構成プロファイルの挙動
最近のiPhoneは、SIMカードとeSIM、もしくはeSIMとeSIMという組み合わせで、複数のSIMを同時に有効にすることができます。これをDualSIMと呼びます。
DualSIMではSIMカードは次のように使い分けられます。
電話の着信 | 両方のSIMで着信を待ち受けできる |
電話の発信 | 発信時にどちらのSIMを使うか選択できる |
データ通信 | あらかじめ選択した片方のSIMでデータ通信を行なう |
このDualSIM状態でのAPN構成プロファイルの扱いはどのようになるのでしょうか?この場合にどのような挙動になるのが正しいのか、Appleから正式な解説は出ていないのですが、IIJが様々なパターンで実験を行なったところ、どうやら次のような挙動をするらしいことが分かっています。(あくまで実験で確認した範囲では、です)
- 一台のiPhoneにAPN構成プロファイルは一つしかインストールできない
- APN構成プロファイルが設定するAPNは、APN構成プロファイルをインストールしたタイミングで、iPhoneの設定で「モバイルデータ通信」に使用すると選択されていたSIMに対して設定される
これが具体的にどのような影響を与えるのか、いくつかのパターンを例に挙げて紹介します。
キャリアのSIMとAPN構成プロファイルが必要なMVNOのSIM(IIJmio)を同時に利用する場合
たとえば、以前から使っているキャリアの契約をそのままeSIMとして使い、データ通信用にIIJmioのSIMを追加する場合などが考えられます。ここでは次の組み合わせを想定します。
- 音声通話: キャリアのeSIM
- データ通信: IIJmioの音声通話対応SIM (APN構成プロファイル必要)
ここで問題になるのは、APN構成プロファイルのインストールのタイミングです。
APN構成プロファイルによるAPN設定は、インストールのタイミングで「モバイルデータ通信」に選択されたSIMに対して行なわれます。そのため、SIMを取り付けた後に「モバイルデータ通信」としてIIJmioのSIMを選択してから、APN構成プロファイルをインストールしなければなりません。
さらに、一台のiPhoneには一つのAPN構成プロファイルしかインストールできないため、すでにAPN構成プロファイルがインストールされている場合は、それを削除しておく必要があります。先にインストールされているAPN構成プロファイルがIIJmioのものだった場合でも、一度削除しなければなりません。

DualSIMでの設定方法 (キャリアSIM+IIJmio)
「モバイルデータ通信」で選択するSIMを「IIJmioのSIM」に変更せずに、APN構成プロファイルをインストールした場合、キャリアのSIMは「圏外」となり、IIJmioのSIMでもデータ通信が利用できない状態になってしまいます。
さらに、この状態になってしまうと、「モバイルデータ通信」で選択するSIMをキャリアのSIMに戻しても「圏外」の状態は回復しません。回復するためには、一度IIJmioのAPN構成プロファイルを削除して、正しい手順でAPNの設定を行なわなければなりません。

インストール手順を間違えて圏外表示になってしまった
APN構成プロファイルが必要なSIMを複数同時に利用する場合
IIJmioと他のMVNOのSIM(eSIM)を併用して、電話番号を二つ使いたいということもあるかと思います。
この場合の注意点は、一台のiPhoneには一つのAPN構成プロファイルしかインストールできないこと、です。2枚のSIMが両方ともAPN構成プロファイルが必要なのに、一つしかAPN構成プロファイルをインストールできないのは問題のように思えますが、実は大丈夫です。
そもそも、iPhoneで2枚のSIMが同時に使われるのは、音声通話(の待ち受け)だけです。こちらはAPNの設定は不要です。データ通信については、どちらか片方のSIMしか使いませんので、データ通信に使う方のSIMに対応したAPN構成プロファイルをインストールしておけば良いのです。

「モバイルデータ通信」で選択したSIMに対応するAPN構成プロファイルをインストール
ただし、データ通信に使うSIMを時々切り替えて使う場合は要注意です。iPhoneの設定で「モバイルデータ通信」で選択したSIMを変更した後に、毎回SIMに対応したAPN構成プロファイルをインストールし直す必要があるのです。
対象のSIMに対して以前APN構成プロファイルをインストールしたことがあっても関係ありません。「モバイルデータ通信」で選択したSIMを変更したら、APN構成プロファイルをインストールしなおす。これが鉄則です。
IIJmioのSIMからIIJmioのeSIMに変更する場合
DualSIMではありませんが、意外なところで引っかかるパターンなので取上げておきます。
現在IIJmioのSIMカードを使っていて、何かの都合でeSIMに変更するということがあるかもしれません。以前からIIJmioを使っているので、もちろんAPN構成プロファイルはインストールしていると思います。
ここで、変更したeSIMもIIJmioのものなので、APN構成プロファイルの再インストールが不要だと考えても不思議ではないのですがSIM交換の手順によってはAPN構成プロファイルの再インストールが必要になります。

SIMの交換手順によってAPN構成プロファイルの再インストール有無が変わる
この図のように、SIMを交換する過程で一時的にDualSIM状態になる場合、eSIMの設定後にAPN構成プロファイルの再インストールが必要になります。もちろん、一台のiPhoneには一つのAPN構成プロファイルしかインストールできない原則も適用されますので、正しい手順は次のようになります。
- IIJmioのAPN構成プロファイルを削除する
- IIJmioのeSIMを設定する (モバイルデータ通信として選択する)
- IIJmioのAPN構成プロファイルをインストールする
反対に、IIJmioのeSIMからIIJmioのSIMカードに変更する場合も同様です。
IIJmioのタイプD・タイプAを切り替えるときに、同時にSIM・eSIMを変更しようとする場合はご注意ください。
SIMの組み合わせによる設定手順はIIJmioのホームページで紹介
この記事で紹介していない組み合わせでSIMを使いたいという方もいらっしゃるかと思います。その場合は、是非IIJmioホームページ内の「初期設定手順 – デュアルSIM対応端末にて、デュアルSIM機能を利用する場合 –」をご覧ください。どういった組み合わせでSIMを使いたいのか、その組み合わせを選択すると、適切な設定手順をご案内できるようになっています。

DualSIMパターンを選択
また、今回の記事でも紹介しているとおり、iPhoneでは頻繁に「APN構成プロファイル」をインストールし直す必要があります。その際には、是非IIJmioの公式アプリ「My IIJmio」をご利用ください。My IIJmioのiOS版には、APN構成プロファイルのインストールのための機能が内蔵されています。アプリをインストールしておけば、インターネット接続ができない場合でもアプリからAPN構成プロファイルのインストールができます。
参考: APNの設定手順

MyIIJmioアプリからのAPN構成プロファイルのインストール
IIJでも実験で確認しています
ここまで長々とiPhoneとAPN構成プロファイルのことを説明してきました。
ここに挙げたとおり、iPhoneでのAPN構成プロファイルの挙動は直感的ではないところがあり、「正解」の手順を知っていないと、スマートフォンに詳しい人でも引っかかってしまうようなところがいくつもあります。
実のところ、これらの手順はAppleから公開されているわけではありません。IIJのテクニカルサポートチームが、実際に実機で様々なパターンを試してみて見つけた手順なのです。
テクニカルサポートチームではこれまでの経験を元に「おそらくこうすれば動く」という想定をたてながら実験をしていますが、それを裏切る挙動を示すこともあります。また、実験を何度も繰り返していると、同じ手順でも挙動が異なることもあります。我々が見つけられていない条件があるのか、それとも、単にiPhoneの動作が不安定なのか、はたまたバグなのか、実際のところは分かりません。
近々新しいiPhoneが登場し、またすでに販売されているiPhoneにも新しいiOSが配信されます。IIJのテクニカルサポートチームでは、新しいiPhone・新しいiOSについても継続的に実験を行なっていく予定です。
テクニカルサポートチームからの最新情報は、IIJmioのXアカウント@iijmioに投稿しますので是非こちらをフォローしておいてください。