COVID-19のラストマイル遅延への影響

2020年12月01日 火曜日


【この記事を書いた人】
Romain Fontugne

I'm a senior researcher at IIJ-II, leading the Internet Health Report project.

「COVID-19のラストマイル遅延への影響」のイメージ

IIJ 2020 TECHアドベントカレンダー 12/1(火)の記事です】

※本記事は、原文「The Impact of COVID-19 on Last-mile Latency」の日本語訳です
また、この研究の背景は別記事「アクセス網はどれぐらい輻輳しているか?」で解説しています

ラストマイル回線は、ブロードバンド接続の要となるユーザ宅と最寄りの局舎を繋ぐ回線を指し、一般にラストマイル部分の通信性能が、ユーザの体感品質に直結します。我々の最近の研究(Fontugne et al. IMC’20)では、ラストマイル遅延の調査として、646のAS(Autonomous System)に置かれたRIPE Atlasプローブから計測したtracerouteのデータセットを使って、日常的に性能低下を示している箇所を調べました。その結果、通常時はラストマイルで日常的に輻輳を起こしているASは全体の10%に過ぎないものの、COVID-19感染拡大後には輻輳しているAS数が55%も増えていることが分かりました。このステイホームによる性能低下は、個人ユーザ向け大手ISPや一部の国や地域で顕著に現れています。

個人ユーザ向け大手ISPにおけるラストマイルの輻輳

図1は、二つの大手ISP、米国のComcast(AS7922)と日本のOCN(AS4713)について、ラストマイルのキューイング遅延を示しています。X軸は1日における時間をUTCで示し、Y軸はラストマイルのキューイング遅延の中央値をミリ秒単位で示しています。コロナ以前の通常のラストマイル遅延を示すため2019年の3月と6月と9月の3つの期間と、COVID-19の影響を示す2020年4月の計4つの期間を比較しています。

図1: RIPE Atlasのtracerouteデータから集計したラストマイルのキューイング遅延の中央値

2019年には、どちらのISPとも夕方のピーク時間帯にわずかに遅延が増える1日周期のパターンとなっています。Comcastの2020年のラストマイル・キューイング遅延は明らかに、量的には僅かではあるものの増加しています。さらに、午前中から夕方にかけての時間帯に遅延のピークがシフトしています。OCNについてもパターンが変わっていますが、より特徴的なのは、夜のピーク時間帯のライトマイル・キューイング遅延が大幅に増加している点で、ラストマイルで輻輳が発生していると考えられます。これはOCNに限ったことではなく、IIJ(AS2497)を含むいくつかの日本のISPで同様の現象が観測されていて、日本は今回の調査で一番大きく影響を受けていた国でした。

日本のラストマイルでの輻輳状況

図2: MLabのNDTデータによるOCNのスループット中央値とパケットロス

そこで、ステイホーム期間の性能低下が本当に起こっていたか確認するために、MLabのNDTというスループットテストのデータセットを使って検証しました。図2は、OCNのユーザのスループットの中央値を、COVID-19感染拡大前の2020年1月と緊急事態宣言下の4月およびその解除後の6月を比較しています。顕著な違いは、従来からの夜(11:00-14:00 UTC/20:00-23:00 JST)のスループット低下に加えて、緊急事態宣言下の昼間(オレンジ線の5:00-9:00UTC/14:00-18:00JST)に落ち込みができていることです。この二つの時間帯は、図1右プロットのAtlasデータのラストマイル遅延増加や図2右プロットのMLabデータのパケットロス増加が観測された時間帯と合致します。注目すべきは、これら3つの指標における昼間の値が、感染拡大前の夜のピーク時間帯の値と同レベル以上になっていることです。
我々の論文では日本のISPについてより詳しく調べています。そこでは、CDNのログデータを使って異なるタイプのアクセス網を比較し、問題の原因がPPPoEを使ったレガシーな共有インフラにあるという状況証拠を示しています。一部のISPの固定ブロードバンドのピーク時間帯のスループットは、定常的に4G/LTEモバイル通信以下の値となっていました。

ニューノーマル

驚いたことに、感染拡大以降に一部で性能が向上しているのが観測されています(例えば、図2のグリーン線)。これらは、とりわけ日本では東京オリンピックの準備の一貫として計画されていたネットワーク増強が功を奏したとも考えられますが、より広くには、この厳しい状況に臨機応変に対応したネットワーク運用者の努力の賜物だと言えます。この感染拡大によって、インターネットがその適応型のデザインとそれを支える人々の連携によって、たとえこのような未曾有の状況でも機能し続けることが証明されました。さらに、多数の最新研究や運用レポートが、感染拡大によってインターネットがさらにレジリエントになったと伝えています。

“あらゆる試練が私をいっそう強くしてくれる” ニーチェ

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Romain Fontugne

2020年12月01日 火曜日

I'm a senior researcher at IIJ-II, leading the Internet Health Report project.

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