Starlink(スターリンク)の遅延を日本とアメリカとドイツで長期収集しています
2023年01月17日 火曜日
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皆さんはStarlink(スターリンク)をご存知でしょうか?通信衛星を使ってインターネットに繋ぐ事ができるサービスです。我々は海外で活躍する技術者の協力も得て、日本、アメリカ、ドイツの3か所でStarlinkのネットワーク調査を進めています。
前回は各所からtracerouteをつかってインターネットへの経路などを確認しました。今回はそれぞれの場所の回線品質を調べてみたいと思います。長期収集する事で変動などが観測できたら面白いかなと思っています。
前回の内容も併せてご覧ください。
「スターリンクって何?」といった方向けに解説動画を公開しています。
気になる方は、ぜひこちらもご覧ください。
スターリンクの設置環境について
設置場所は仲間が無理なく作業できる範囲でお願しています。日本ではIIJ管理下の広い駐車場が確保できている場所を間借りしました(会社に理解があるので助かります)。アメリカは社員が住んでいるアパートのベランダに設置しました。ドイツも社員が住んでいるアパートのベランダです。
可視性レポートで確認すると、日本はベストに近い環境ではないかと思います。
ドイツは日本と比較するとギザギザが増えていますが、障害物としては認識していないようです。建物の屋根とかの木がギザギザになって見えているのですかね?なんか魚眼レンズで空を見ているような雰囲気です。
アメリカは、少しでも視界を確保するためにエアコンの室外機の上に設置していますが一部が障害物で塞がれてしまっています。アパートの隣に建物があるそうです。
このような状況なので品質的には有利な順に日本→ドイツ→アメリカという感じになるのではないかと予想されます。また日本とドイツはG1のアンテナ、アメリカがG2のアンテナになのでそこでも差がでるかもしれません。
回線品質の計測方法について
計測にどんなツールを使うか悩んだのですが、無駄に帯域を消費する通信速度の計測ではなく、遅延を計測できればいいだろうと考えsmokepingを使う事にしました。
smokepingはping をつかって遅延情報を蓄積してもやもやした感じのグラフを作ってくれます。もやもやが目立ってきたり黒くなってくると品質が悪くなったのでは?と直感的に感じる事ができます。smokepingは他にも色々は使い方があるので興味がある方は検索して調べてみてください。
どこを計測したのか?
最初はSpaceX内のネットワーク機器、地上局ゲートウェイのIPアドレス 100.64.0.1 がいいのではないかと考えました。しかし実際に計測するとパケロスが発生したりまともに計測できない現象が発生しました。深くは追っていないのですが、ネットワーク機器に対するICMPなどは機器の安定性を考慮してQOSで制限している事もあるので計測対象としては適切ではないようです。そこでこれまで何度も活用させてもらっているGoogleのパブリックDNSサービスのIPアドレス 8.8.8.8 で計測する事にしました。
何を計測していることになるのか?
日本のスターリンクからとある1時間を計測した結果は以下のとおりです。1回の計測は20回のICMP echo(すなわちping)を8.8.8.8に対して実施しています。実施間隔は300秒でこれはsmokepingのデフォルトの設定になります。20回のpingでパケロスが何回発生したかで色分けされ、遅延の平均とばらつきが縦軸にプロットされます。
これはGoogleのパブリックDNSサーバのping反応を調べているわけですが、Google側のサーバは一定の品質だと仮定すればサーバに至るまでの回線品質を間接的に計測している事になるかなと考えました。この計測では30msから40msの間で推移しており、Starlinkの仕様どおりの性能が出ている事がわかります。
計測結果について
次に年末年始(12/29日〜1/7日の10日間)それそれの地点から8.8.8.8に対して計測した結果が以下になります。
日本(東京)ですが、最も安定しているようにみえます。遅延の最悪値も60ms程度に抑えられています。少し色にムラがある所がありますが、speedtestを断続的にプログラムを組んで実施していたタイミングがあるのでその影響かもしれません。
次にアメリカ(サンノゼ)です、可視性レポートにあるとおり環境としてはかなり不利な事が計測結果からもわかります。パケロスもしており、特に1/5日あたりからさらに悪くなっているように見えます。
ドイツ(デュッセルドルフ)は安定しています、しかし遅延の最悪値が東京より若干悪いようです。
長期計測による変動の考察
計測値としては2022年の夏あたりから計測しているものがあります。サンノゼでの計測で約4ヶ月分です、計測が止まっていた時期もあります。このデータは計測条件が同じではないので参考程度で考えてください。都合の良い解釈かもしれませんが、品質の悪化と改善を繰り返しているようにも見えます。最も顧客の増加が多いであろうアメリカで毎週のように衛星追加によるインフラ強化が行われる事で品質を保っているのではないかと思いました。将来はより性能が高い通信衛星の投入・スターシップによる衛星の大量投入、利用が加速しても追いつけるだけの能力をSpaceXは持っているのではないかと期待できます。
前回ブログの反響について
Twitterなどで色々な反響をいただきありがとうございます。知らなかった有用な情報もあり大変感謝しております。個人的には宇宙全般の最近の活性化に少しでも参加できたらとの思いで、これからも関わっていきます。
思えば小学校の頃は学研の図鑑でスペースシャトルを知り、高校の頃はコロンビアの初打ち上げをテレビで興奮して見ていました。高校の文化祭ではスペースシャトルの耐熱タイルを同期の友人が何かのツテで借りる事ができてそれを展示したりとこの手の事が好きなんだなと思います。