最近よく聞く「データセンター」ってなに?
2024年05月02日 木曜日
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最近ニュースなどで「データセンター」がよく取上げられます。実は、この記事を書いている私自身も、TV番組に出演してデータセンターの解説をしていました。
- 千葉・印西市に世界が注目 データセンター集結の理由は【Bizスクエア】 2024年3月28日放送(TBS)
- 池上彰のニュースそうだったのか!! 2024年5月4日放送【1時間9分あたり~】 (テレビ朝日/TVer)
この番組で取材を受けたのは「IIJ白井データセンターキャンパス」(千葉県白井市※)です。
※印西市・白井市にまたがる千葉ニュータウンの一角に立地
番組中でもいろいろご説明しているのですが、この記事では基本に立ち戻って「そもそもデータセンターって何なの?」についてご紹介したいと思います。
実はみんな使っている、サーバ・クラウド・データセンター
スマホでネット動画を見る、ゲーム機でオンライン対戦をする、パソコンで作った文書を誰かにメールする。おそらく皆さんこんな使い方は普通にされているかと思います。こういうとき、私たちの手元のスマホなどが、インターネットを通して、どこかにある別のコンピュータ(サーバ)と通信をしているということは、みなさんなんとなく感じているのではないでしょうか?
では、その「サーバ」はどこにあるのか?普段これを意識している方は少ないのではないでしょうか。そのサーバの置き場所が、この記事のテーマ「データセンター」なんです。データセンターは「コンピュータ(サーバ)を設置する専用の施設(建物)」と覚えておいてください。
ちなみに、このブログ記事が保存されているサーバも、とあるデータセンターに置いてあります。ですので、この記事を読んでいる人は皆さん、実は(間接的に)データセンターを使っていることになります。
「そういうのはクラウドを使うのでは?」と思われた方、とても鋭いです。最近インターネットではこうした用途にクラウドを使うことがとても増えています。
では、そのクラウドって一体なんでしょうか?クラウドというのは、ある会社が管理しているコンピュータ(サーバ)を貸し出すサービスのことです。貸し出すといってもその方法はいろいろで、「仮想サーバ」として貸し出すこともあれば(IaaS)、「電子メール機能」のように何か特定の機能として貸し出す(SaaS)こともあります。
この貸し出すためのサーバも、実はデータセンターに置かれているのです。
最近は全世界的にクラウドの利用が増えていて、貸し出すためのサーバもどんどん増えています。そのサーバを設置するためのデータセンターも次々に建設されています。
日本でもここ数年いくつものデータセンターが建設されています。ニュースでは、Amazon・Microsoft・Googleと言った外資系のクラウド事業者がこれらのデータセンターを使うらしい、と話題になっています。また、外資だけでなく、NTTグループ・SoftBankグループや、さくらインターネット、そして私たちIIJも、新しいデータセンターの建設や増床(拡張)を行なっています。
データセンターって秘密の場所では?
冒頭でも紹介したとおり、私は先日TVの取材で自社のデータセンターの中をご案内しました。その番組への反応を見ていると「データセンターってセキュリティ上秘密の場所では?TVで撮影して良いの?」と気遣ってくださっているものがありました。
そのご指摘の通り、データセンターは、大切なコンピュータが設置されている施設なので、安全性を確保するためにいろいろな事を秘密にしています。あらかじめ認められた人以外は敷地内に入れませんし、普段は写真撮影もお断りしています。
TVや新聞・雑誌などの取材は、あくまで例外としてご案内しています。実は、あらかじめ「ここまでは撮影されても大丈夫」という基準が決めてあり、その範囲内で撮影していただくように、スタッフが常時付きそって案内しています。
そこまでして撮影させなくても……と思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが、私たちは、データセンターの事を秘密にしすぎる事によって、「データセンターって、得体のしれない施設」と思われるなど、周辺にお住まいの方に不安を与えるようなことは避けたいと思っています。とはいえ、たくさんの方を施設の中にお招きするのは物理的に困難なので、TVや新聞の報道で施設のことを解説いただけるチャンスがあれば、なるべく協力するようにしています。
(ちなみに、データセンター所在地の地元の議員さんが視察にいらっしゃったこともありました)
最近のデータセンターのトレンド
IIJは1990年代からデータセンターに取り組んできました。そうした取り組みの中から感じる数年のトレンド「大型化」と「省エネ」「再エネ」について紹介します。
大型化
インターネットの利用が増え、大量のサーバが使われるようになりました。そのため、サーバを設置するデータセンターも大型化しています。
どのぐらい大きいの?というのを数字で表すために、業界では「敷地面積」と「受電電力」がよく使われます。たとえば、IIJ白井データセンターキャンパスは敷地面積約4万平方メートル、受電電力50MW(メガワット)という規模です。
IIJ白井データセンターキャンパス | 比較対象 (参考) | |
敷地面積 | 約40,000平方メートル | 東京ドーム 約47,000平方メートル |
受電電力 | 50MW (メガワット) | 一般家庭 (30A契約) 約17,000軒に相当 |
※白井データセンターキャンパスは順次建物を増設しており、数字は最大拡張時の予定
白井データセンターキャンパスは業界内でもかなり大きい方で、「ハイパースケールデータセンター」に分類されます。ただ、もっと巨大なデータセンターもあります。日本最大と言われているデータセンターは、27万㎡の敷地に14棟の建物を建てる計画だそうです。これは業界内でもちょっとびっくりする規模感です。
敷地が広いだけでなく、電力の使用量が増えていることも最近のトレンドです。これは、設置するサーバの台数が増えただけでなく、サーバが高性能になった結果、一台あたりの消費電力も増えていることが影響しています。
さらに、最近はAIで使われる「GPUサーバ」がよりたくさんの電力を消費するようになりました。
たとえば、2010年頃のサーバは、1台あたり約250W。これが40台集まって約10kWという電力消費でした。一方、2023年に出荷されたAI用GPUサーバは、1台で10kW近くの電力を消費します。圧倒的に消費電力が増えているのです。
こうしたこともあって、データセンターが消費する電力が環境に与える影響が無視できなくなってきました。
データセンター業界でもこの問題は真剣に受け止められており、企業の社会的責任として対策が進んでいます。電力消費については、「省エネ」と「再エネ」の二つの取り組みが大きなポイントになっています。
省エネ
データセンターで電力を消費するのはサーバばかりではありません。実は、サーバを冷やすための空調装置でも大きな電力を消費しているのです。
皆さんも、パソコンやスマホを使っている時に、本体がほんのり暖かくなっていることにお気づきと思います。サーバは消費電力が大きいので、激しく発熱します。データセンターにはこのようなサーバが大量に設置されているので、部屋に強力な空調装置を取り付けて、部屋ごとサーバを冷却する必要があります。
以前は、パッケージエアコンと呼ばれる、業務用の大型エアコンが使用されていましたが、残念ながらこのタイプの空調機はかなり電力を消費します。たとえば、250Wのサーバの発熱を冷却するのに、空調機自体も250W程度の電力を消費することもありました。
そこで、この空調の電力をいかに削減するかというのが、工夫のポイントです。
IIJでは、2010年より独自に「直接外気空調」という方式を開発し、データセンターに採用しています。これは、屋外の空気(外気)を直接建物内に取り込んで、サーバの発熱を冷却するという方式です。この方式を採用することにより、空調で消費する電力を40%削減することができました。
再エネ
また、データセンターで消費する電力を、CO2(二酸化炭素)の発生が少ない、「再エネ(再生可能エネルギー)」由来の電力に切り替えることで、環境に与える負荷を軽くしようという試みも広がっています。
こうした非化石エネルギーで最も身近なのが、太陽光発電です。IIJでもデータセンターの敷地内に太陽電池パネルを設置し、発電を行なっています。しかし、太陽電池で発電できる電力量は案外少なく、データセンターで消費する電力の数%程度しかまかなえません。
そこで、IIJでは電力市場を通して、様々な電力会社が販売している再生可能エネルギー由来の電力を購入して利用しています。
このように、データセンターが過度に環境に負担を与えないようにする取り組みが、業界のトレンドとなっています。その中でもIIJは先進的な取り組みをいくつも行っています。
IIJのデータセンター技術のページでは、この記事に書き切れなかったことも含めて紹介していますので、是非ご覧ください。
実はすごい、IIJのデータセンター
ところで、IIJの白井データセンターキャンパスですが、先日栄誉ある賞をいただくことができました。
この記事でも書いたとおり、現在のデータセンターでは「空調」がとても重要になっています。その空調についての学術組織「空気調和・衛生工学会 (空衛学会)」において、白井データセンターキャンパスが「第62回学会賞技術賞」を受賞いたしました。
- 第 62 回学会賞技術賞および同奨励賞受賞者一覧 (公益社団法人 空気調和・衛生工学会)
- 白井データーセンターキャンパスの全体計画と運用検証 (推薦文)
本論文は、白井データセンターキャンパスの空調設備を担当した高砂熱学工業(株)様が、IIJ・IIJエンジニアリングとともに応募したものです。
この推薦文に受賞理由がまとめられています。とてもざっくり要約すると。
- 直接外気空調・冷房併用を前提とし、空調最適化した建物設計
→建物がすごい!
- エネルギー消費の低減を考慮した空調機設計
→空調がすごい!
- 空調効率の向上のための、ICT設備担当・空調設備担当の協調
→人がすごい!
- サーバ消費電力と連携した空調制御方式の実現による低消費電力化・制御の安定化
→制御がすごい!
これらの点に着目し「デジタル社会に不可欠なデータセンターにおけるエネルギー多消費という課題に対し、郊外型データセンター建物の最適解を示した事例として、社会のカーボンニュートラル化に大きく貢献する業績であると考えられる。」と評価いただいたものです。
こういった形で評価をいただくことは、長年データセンターにかかわってきたIIJとしても大変光栄です。ですが、これで安心しているわけにはいかないと考えています。
これからAIの利用が拡大し、ますますサーバの消費電力が増えることが予想されます。そうすると、これまでの空調・冷却技術ではサーバの冷却が追い付かなくなることが予想されます。
IIJでは、これまでの「部屋ごと冷やす」空調から転換して、「サーバを直接冷やす」水冷システムへの移行が必要だろうと考えています。水冷技術自体は1980年代から実用化されていたのですが、スーパーコンピュータなどの特殊なコンピュータでしか利用されていませんでした。これを、クラウドで使われるような一般的なコンピュータで利用するにはいくつかハードルがあり、これを解決しなければならないと考えています。
IIJはデータセンターの技術開発と運用の両方に力を入れ、持続的なインターネットの発展に貢献していきたいと思っています。
IIJのデータセンターについての取り組み (参考リンク)
- データセンターにおけるIIJの技術や取り組み (IIJのデータセンター技術・施設の紹介)
- IIJとデータセンターの変遷〜この30年を振り返って (Internet Infrastructure Review Vol.62)
- IIJ、データセンター利用者への環境価値付き電力の供給に向けた非化石証書の直接調達を開始 (IIJプレスリリース)
- PFN、IIJ、JAISTが共同で超高効率AI計算基盤の研究開発を開始 (IIJプレスリリース)