IIJが提供する「プライベートバックボーン」って?

2024年10月01日 火曜日


【この記事を書いた人】
doumae

IIJ 技術担当部長 最近はインターネットの技術を紹介するのがお仕事です。元々プログラマ、サーバ・データセンター・ネットワーク・セキュリティ・モバイルといろいろやってきました。

「IIJが提供する「プライベートバックボーン」って?」のイメージ

本記事はプレスリリース「日本IBMとIIJが協業し、地域金融機関向けに「分散基盤共同プラットフォーム」を提供開始」の関連情報です。

IIJが企業向けに提供する通信サービスはいろいろあります。ところが、その中で一つ、非常に奇妙なサービスがあります。それが「IIJプライベートバックボーンサービス (略称PBB) です。

  • クラウドサービスを相互につなぐためのバックボーン
  • PBB単独では利用できない
  • インターネットじゃないらしい

なんだそれ?と思われるかもしれませんが、実はPBBIIJが提供するインターネット以外のネットワークサービスとして重要な意味があるんです。今回はそんなPBBを紹介します。

そもそも「バックボーンネットワーク」とは何か

ネットワーク関係の資料を見ていると、時々「バックボーンネットワーク」という言葉が出てきます。また、IIJWebサイトにも「バックボーンネットワーク」という図が掲載されています。

IIJバックボーンネットワーク

IIJバックボーンネットワーク

IIJでは、日本各地のお客様にインターネットをご利用いただいています。また、IIJが管理するサーバなどの設備も、様々な場所に分散しています。(千葉県白井市・島根県松江市をよくご紹介しますが、それ以外にも実はいろいろあります)

こうしたお客様やサーバの通信が集められるのが、IIJバックボーンネットワーク(略称IIJ BB)です。

IIJ BBは全国各地に設置したPOP (拠点となるデータセンターなど)を高速な光ファイバーで結んだネットワークです。お客様とIIJ BBのどこかのPOPを接続することで、お客様の通信はIIJ BBを経由して、IIJが管理するサーバや、他社ISPへと中継されていきます。

IIJ BBは、IIJがインターネット接続サービスを提供するためには欠かせない、まさに背骨(バックボーン)のネットワークなのです。

IIJバックボーンの役割

IIJバックボーンの役割

普通の企業にバックボーンは必要?

IIJのようなバックボーンネットワークは、IIJがインターネット接続サービスを提供しているから必要になるのではないか。一般企業にはこんなネットワークは不要ではないか」と考えられるかもしれません。

 

いいえ。一般企業でもバックボーンネットワークは必要です。

 

なぜでしょうか?それは企業でのネットワーク利用が複雑になっているからです。

まず、比較のために、少し前の、素朴な企業ネットワークの例を見てみましょう。

シンプルな企業ネットワーク

シンプルな企業ネットワーク

インターネットはまだメールなどの連絡手段としての利用が主で、それほど通信は多くありません。本社には社内利用のサーバが設置されていて、スタッフはオフィスのパソコンからサーバを利用します。また、本社以外の主要な拠点も本社のサーバを利用できるように、専用線やIP-VPNで本社と接続されていると言ったところです。この程度のネットワークであれば、それほど複雑だとは感じないでしょう。

ポイントは「本社を経由している」という点です。ただ、この場合、よくある「設備点検による計画停電」がある場合、関係ないはずの拠点の通信も影響を受けてしまいます。

 

では次に、2020年代の企業のネットワークの例を見てみます。

2020年代の企業ネットワーク

2020年代の企業ネットワーク

まず、そもそも仕事でネットワークを使うことが格段に増えました。朝オフィスに出社してパソコンの電源を入れると、データセンターに設置された社内サーバにアクセスします。

そしてスケジュールを管理するのにクラウド(SaaS)を使い、最新の業務システムもクラウド(IaaS)で動いています。これらのシステムは会社の隅々まで浸透していて、これまで社内ネットワークに繋がっていなかった小規模拠点、例えばアルバイトで回しているチェーン店のお店もネットワークに接続されています。そしてもちろんリモートワークで自宅やシェアオフィスからもこれらのネットワークに接続してくるスタッフがいるのです。

これらすべての通信が「データセンターを経由している」のがこの時代のネットワークです。

本社などの一拠点に置かれていたよりも、電源の環境は良いですし、空調も管理されることで安定性は増しましたが、データセンターが地理的に一点に集中しているという事、日本各地に広がる各拠点からデータセンターに接続する回線が長距離になりがち(コストが高くなりがち)という部分では不安が残ります。

そうなると、それぞれの拠点やクラウドからの通信を「日本全国で受け止める、我が社専用のバックボーンネットワーク」が欲しくなるでしょう。

これを実現するのが、「IIJプライベートバックボーンサービス」なのです。

プライベートバックボーンによる企業ネットワーク

プライベートバックボーンによる企業ネットワーク

 IIJでは、オフィスやデータセンターの接続、クラウドとの接続、リモートワークとの接続など、様々なタイプの通信サービスを提供しています。これらの接続サービスが入り口となって、お客様専用のプライベートバックボーンに通信が集約され、適切な出口から通信が出ていくのです。これにより、特定のデータセンターへの依存が解消されます。また、通信回線の接続距離も短くすることができます。

こうしたプライベートバックボーンを利用する場合、データセンターに設置される設備は「ある一拠点」としてバックボーンネットワークに接続されることになります。

このような「我が社専用のバックボーンネットワーク」があると、例えばこんなこともできます。

プライベートバックボーンによる東西ディザスタリカバリ構成

プライベートバックボーンによる東西ディザスタリカバリ構成

非常に重要性の高いシステムの場合、大災害に備えて東日本・西日本のデータセンターに同じ役割をするサーバを設置し、どちらかのデータセンターが被災したとしても事業を継続できるようにする、DR(ディザスタリカバリ)構成を取る事があります。

DR構成を組む場合、東日本・西日本のデータセンターの接続だけでなく、システムを利用する拠点やクラウドサービスのネットワーク接続なども東西のDRを意識した構成にしなければなりませんが、こういったケースでPBBを使うと、「広域ネットワークのDRPBBに任せよう」と考えることができ、非常にシンプルにネットワークが構成できます。

 

PBBとIIJサービスの接続

PBBとIIJサービスの接続

 

また、IIJプライベートバックボーンサービスは、IIJが提供する様々なサービス(セキュリティ・SaaSIaaSなど)とも繋がっています。たとえば、スタッフがインターネットを利用する際にマルウェアや不正サイトの脅威を防止するゲートウェイサービス(IIJインターネットアクセス・IIJセキュアWebゲートウェイ)PBBに繋がっていますので、プライベートバックボーン経由で安全にインターネットを利用することもできます。

どうですか?御社もプライベートバックボーンを使いたくなってきませんか?

IIJプライベートバックボーンサービスの面白いところ

さて、ここまで「IIJのバックボーンネットワーク」と「企業のプライベートバックボーン」を紹介してきました。実はこの二つは名前だけではなくて、密接な関係があるんです。

IIJは通信サービスを提供する電気通信事業者ですが、実際に拠点間を結ぶ光ファイバーは持っていません。こうした光ファイバーを持っているのは、主に「キャリア」と呼ばれる事業者です。日本では、NTTグループ・KDDIグループ・SoftBankグループが三大キャリアと呼ばれていますが、そのほかにも中堅のキャリアや特定地域に強いキャリアなど、様々な事業者があります。

異経路・異キャリア冗長

異経路・異キャリア冗長

IIJはこうしたキャリアから光ファイバーを借りて、自社のネットワークを作っています。ここでIIJ独立系通信事業者である事が生きてきます。IIJは二つのPOPを光ファイバーで接続するときに、二社以上のキャリアから光ファイバーを借りているのです。万が一、どこかのキャリアで大障害が発生して通信が途絶えたとしても、異なる会社であれば障害の影響を受けない可能性が高い、そういう考え方です。もちろんキャリアを分けるだけでなく、災害や事故の影響を受けにくくするために、地理的に異なるルートを通る光ファイバを選択しています。

IIJバックボーンネットワーク

IIJバックボーンネットワーク

こうした複数の光ファイバーを使って、IIJは仮想的なL2通信網(社内名称: WARP)を構成しています。IIJWARPを使って全国のPOPを結び、インターネットのためのバックボーンネットワークを構築しています。そして同時に、WARPの上に仮想的なL3通信網(社内名称: MATRIX)を構成し、インターネット以外のトラフィックを流すネットワークを構成しています。このMARTIXの一部として、お客様に提供するプライベートバックボーンを提供しているのです。

つまり、IIJプライベートバックボーンサービスのネットワークは、

  • IIJバックボーンと同レベルの品質を確保
    • 複数のキャリアの光ファイバーを利用し、キャリアの障害対策
    • 地理的に異なる地点を経由させた複数の光ファイバーを利用し、災害対策
  • IIJバックボーンとは区別されたお客様専用ネットワーク
    • 仮想通信網からIIJ用、お客様用にそれぞれ分割されたネットワークを構成

という特徴をもった、ユニークなネットワークなのです。

インターネット以外もやってます

IIJは「株式会社インターネットイニシアティブ」です。名前の通り、インターネットの為に設立された会社で、もちろん今でもインターネットはIIJの主要な事業です。ですが、今回紹介したように、インターネットの技術・設備を使って、インターネット以外のネットワークも手がけているのです。

是非、会社のネットワークのこともIIJに相談してください。

 

 

(今回の記事は同僚の片貝と一緒に書きました)

doumae

2024年10月01日 火曜日

IIJ 技術担当部長 最近はインターネットの技術を紹介するのがお仕事です。元々プログラマ、サーバ・データセンター・ネットワーク・セキュリティ・モバイルといろいろやってきました。

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