ソーラーパネルで動かないLoRaWAN®基地局!?

2021年01月14日 木曜日


【この記事を書いた人】
m-ohnishi

2016年にIIJにJoin。現在はLoRaWAN(R)とカメラを中心としたIoT企画を担当しています。農業IoTとカメラの融合でみんなを楽しく楽にすることを日々考えています。

「ソーラーパネルで動かないLoRaWAN®基地局!?」のイメージ

IoTビジネス事業部のm-ohnishiです。

前回のブログ「ソーラーパネルで動くLoRaWAN®基地局のその後」は前々回から7か月も空いてしまいましたが、今回は2か月ぶりの再会です。またソーラー基地局ネタなの?とお腹いっぱいの方もいらっしゃるかもしれませんが、今回は同じ基地局ネタでもソーラーパネルは使わない屋外用基地局のお話です。

それってどういうこと?と思われた皆様は期待してお読みいただければと思います。

屋外用基地局を一時的に使いたい

ソーラーパネルで動くLoRaWAN®基地局をスマート農業向けにDIYで設置してみた(前編)」でご紹介した「水田水管理ICT活用コンソーシアム」では、LoRaWAN®を活用して水田の水管理を省力化・自動化する取り組みを行ってきました。水田の水管理に使用する水田センサーは水位だけでなく水温も測定できますが、実はセンサー部を水中でなく気中に設置すれば気温の測定も可能です。また、センサー部は防水対応していますので、地中に設置すれば地温も測定可能です。

某農業経営体から野菜の露地栽培で土壌の太陽熱消毒がきちんと行われていることをLoRaWAN®センサーで確認できないか?とのご相談をいただき、LP-01が露地栽培での地温測定に使えることが実証できれば、水稲のシーズンオフに通年で使用できるという良いユースケースになりそうなので、実証にご協力いただく形でセンサーをご利用いただくことにしました。地温を測定するセンサーとして水田センサーLP-01の他、測定値の比較用にプローブ型温度センサーLAS-604V2も設置していただくことにしました。まずは実証圃場での本番利用前にLP-01とLAS-604V2のセンサー部を地中に埋めた状態で測定値を比較し、いずれも問題なく測定できることを確認しました。その後実証圃場に移設したのですが、屋内設置した基地局からの距離が遠かったため、通信に問題が生じました。アンテナの高さが1.5m程度と高いLP-01ではある程度の抜けはあっても実用上問題ない程度に測定データが取得できましたが、アンテナの高さが50cm程度と低めに設置したLAS-604V2ではほとんどの測定データが欠落してしまいました。

残念ながら基地局用の電源が取れる場所が実証圃場の近くになく、基地局をより条件の良い場所に移設することができませんでした。簡単に移設できるポータブル型のソーラー基地局が作れればと考えてカウスメディアさんにも相談しました。しかし、基地局本体とバッテリーの収納ボックスに装着できる大きさのソーラーパネルは20Wパネルが限界で、通常のソーラー基地局用の100Wパネルの1/5の発電量のため、十分ではないとのことでした。

いっその事ソーラーパネルなしにしては?

今回は測定データが時々欠落することを承知で、LP-01だけ使っていただくということで農業経営体にはご理解いただきました。ただ、今後同様に露地栽培で使いたいというお話を頂いた場合に、現在提供可能な屋内用基地局とソーラー基地局だけでは対応できないケースが発生しそうです。そのために屋外で一時的に使用できるポータブル基地局を用意しておきたかったのですが、上で述べたようにソーラーパネル付きは難しいことがわかりました。

ソーラーパネルがつけられないのであれば、いっその事なしにした場合にどうなのかを考えました。もともとソーラー基地局は梅雨の長雨や冬の積雪などによる日照不足を考慮し、ソーラー発電が全く行えない場合でも1週間程度稼働できるように設計していました。また、水稲に関しては水管理が自動化できた場合でも、稲の生育状況や雑草の生え具合などの目視確認のため、週に1回程度は見回りを行うというお話を農業経営体から聞いていました。露地栽培でも同様であれば、見回りの際に充電済みのバッテリーと交換していただくことで、ソーラーパネルなしのポータブル基地局でも移動の手間を増やすことなく利用していただくことができそうです。

以上を踏まえて、真剣にソーラーパネルなしのポータブル基地局を検討することにしました。

バッテリーの持ち時間は?

バッテリーは充電無しで使用できる時間が長ければ長いほど交換頻度が減らせて良いのですが、容量が大きくなると価格が高くなります。ソーラー基地局と同じ鉛蓄電池は容量が大きくても安価ですが、容量が大きすぎると重すぎて交換しにくくなります。価格と重さのバランスを考慮し、バッテリーはソーラー基地局と同じ55Ahのバッテリーを採用することにしました。約16kgと重いですが、ハンドルがついているので一人でも交換可能です。

なお、鉛蓄電池はリチウムイオン電池に比べて安価ですが、過放電するとサルフェーションという電極の劣化現象が発生しやすくなり、満充電時の容量が減ってしまいます。過放電は低電圧保護回路を組み込むと抑制することができるので、低電圧保護回路を搭載し、基地局本体へのUSB給電にも対応した安価な部材を検討することにしました。USB給電だけなら車用のシガーソケットアダプタを加工する方法もありましたが、低電圧保護回路を搭載するという条件を考慮し、ソーラーパネルは接続しませんが、ソーラー基地局と同じ充電コントローラーを採用することにしました。液晶パネルでバッテリー電圧も確認することができるので、バッテリーの残量をある程度確認することもできそうです。

バッテリーの持ち時間を試算するにあたってカウスメディアさんに確認したところ、低電圧保護回路も含めた影響を考慮すると、充電コントローラーからの給電で実際に使える容量は最大でも仕様上の80%程度になるとのことでした。それを踏まえて

  • バッテリーの最大容量:55(Ah) x 12(V) = 660(Wh)
  • 最大出力効率:80%
  • 基地局消費電力:3(W) ※ある程度負荷を加えた状態での実測値よりやや大きめの値

として計算すると、バッテリーの満充電時の持ち時間は最大176時間、1週間強となります。

1週間以上持つのであれば、毎週決まった曜日に見回りなどで現地に行く際に交換していただくことができそうなので、十分に実用になりそうです。また、並列に2つのバッテリーを接続すれば持ち時間は倍になりますので、半月程度持つことになります。想定通りにバッテリーが持つかどうかを確認するため、実際にこれらの部材と基地局本体を組み合わせ、センサーデータを受信しながら稼働時間を確認しました。結果としては259時間(10日と19時間)連続稼働しました。おそらく基地局本体の消費電力が計算上の値よりも小さかったからだと思います。

バッテリーはある程度残量がある状態で充電し直したほうが劣化が抑えられることも考慮し、当初の想定どおり1週間に1度の交換で対応していただくことにしました。

安全性も確保しないと

バッテリーをユーザーに頻繁に交換してもらうことになるため、簡単かつ安全に交換できるようにする必要があります。特に安全性については、以前にソーラー基地局の設置を行った際に不注意で電極に取り付け前のバッテリーケーブルの先端が反対側の電極に接触してショートしてしまい、火花が出たことがありました。交換後の使用済みバッテリーは次の交換用に充電器で満充電になるまで丸一日充電しておく必要がありますが、通常のワニ口クリップの充電器ではバッテリーの電極を露出させる必要があり、充電の際にもショートする恐れがあります。同様の事故が発生しないように、カウスメディアさんと相談して以下の対策を行うことにしました。

  1. バッテリーケーブルには逆つなぎ防止コネクタを取り付ける
  2. バッテリーの電極にゴムカバーを取り付ける
  3. 逆つなぎ防止コネクタを取り付けた充電器を用意する

1については、ケーブルの先端が露出していると電極に接触する恐れがあるので、コネクタを取り付けて露出させないようにしました。また、+とーを間違って挿さないように+とーの2本が一体で+ケーブル同士とーケーブル同士でないと接続できない逆つなぎ防止コネクタを採用することにしました。こちらのコネクタであれば不注意でショートさせることはありません。オスのコネクタをメスのコネクタに差し込めば爪で固定されますので、工具を使わずに取り付けられるようになり、設置や交換時間の短縮にもなりました。

2については、ソーラー基地局で採用したパイプカバーだとバッテリーを交換する際にハンドルと干渉してしまうので、薄いゴムパイプを熱加工して電極を覆うように取り付けることにしました。ゴムパイプの開口部から少し電極が露出しますが、ゴムパイプの縁が少し高くなっていますので、濡れた手などが直接触れる恐れはありません。1の逆つなぎ防止コネクタの採用と合わせて、これで交換や充電の際にショートさせる心配は完全になくなったと思います。

3については、1の対策でバッテリーケーブルに取り付けたものと同じ逆つなぎ防止コネクタを充電器にも取り付けることで、つなぎ間違いを防止するとともに、確実にケーブルを接続して充電中に意図せず充電器が抜けることがないようにしました。

通信性能を実測しました

以上でポータブル基地局の構成はFIXしましたが、バッテリーケース内に基地局本体とアンテナを収納するため、アンテナの高さが低くなり、ソーラー基地局よりも通信性能が低くなるはずです。実用上問題ない程度の通信性能が得られるかが気になり、先日、現地に行く機会があったので、今回製作したポータブル基地局の通信性能を実測してみました。測定は前回のブログでご紹介したものと同様の電波サーベイツールを約1.5mの高さの車の屋根の上に置いて行いました。

以下の表にその結果をまとめます。ポータブル基地局は小型でどこでも設置できるので、センサーを使用する圃場の中心に設置することを考慮し、半径500m程度をカバーできれば十分だろうと考えていました。実際には予想を超えて1km以上安定して通信することができました。LP-01の場合はアンテナが同程度の高さですので、平坦な場所では半径1km程度まで安定して通信できると思います。

ポータブル基地局
測定地点 距離 成功率 RSSI(dBm) SNR(dBm)
1 150m 100% -93.0 9.1
2 400m 100% -95.1 9.7
3 680m 100% -102.9 6.4
4 1000m 100% -102.9 6.4
5 1250m 90% -108.6 2.4
6 1750m 0%

販売しちゃいます

機能性と安全性、通信性能に問題がないことが確認できたので、販売することにしました。以下の写真の部材がパッケージに含まれる部材です(基地局本体は含みません)。盗難対策用にソーラー基地局と同じバッテリーケース固定用のダイヤルロックとステンレスチェーンも付属することにしました。フェンスがある場合はフェンスにステンレスチェーンを巻きつけて固定してください。フェンスがない場合は地面に輪っか付きの杭を打ち込んでステンレスチェーンを輪っかに通して固定してください。

バッテリーケースはソーラー基地局用と同じもので、バッテリー交換頻度を減らすためにバッテリーを並列に2個接続してもすっぽり収納できる大きさです。

基地局本体は下の写真のようにバッテリーの上にアンテナを立てた状態で置きます。バッテリーケースは蓋を閉じてもアンテナと接触しない高さになっています。

充電器と交換用の予備バッテリー1個を含めても通常アンテナ版のソーラー基地局DIYパッケージよりも安価になる予定です。同等容量のリチウムイオンバッテリーを採用した場合はさらに10万円近いコストアップが見込まれるため、鉛蓄電池の採用によって安価にパッケージ化できました。既に水田水管理用にソーラー基地局を使用中で、シーズンオフに露地栽培などでポータブル基地局を使用される場合、基地局本体だけでなくバッテリーが予備バッテリーとして使い回せれば、充電器と交換用の予備バッテリーは不要になり、さらにコストを抑えることができます。

ソーラー基地局のバッテリーについても、カウスメディアさんと相談の結果、安全性と設置性を改善するとともにバッテリーの使い回しを考慮してポータブル基地局と同様の改良を行う予定です。

近日中にカウスメディアさんのこちらの販売ページで販売しますので、ご興味がある方は時々チェックをお願いします。

m-ohnishi

2021年01月14日 木曜日

2016年にIIJにJoin。現在はLoRaWAN(R)とカメラを中心としたIoT企画を担当しています。農業IoTとカメラの融合でみんなを楽しく楽にすることを日々考えています。

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