Retr0bright でキーボードを漂白する
2021年07月29日 木曜日
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私が使っているキーボードは、私が新人の頃に IIJ の先輩社員の誰かからもらった、ぷらっとホームの「FKB8579」です。しかし、だいぶ長く使い続けているせいか、年季が入ってきていてキートップが黄ばんできてしまっています。自分は喫煙しないし、光に当たった結果の「日焼け」だと思っていましたが、調べてみると、どうやらプラスチック製品によく使われている ABS 樹脂の添加剤による「暗所黄変」という化学変化が起きているようです。
巷ではこの化学変化を元に戻す、「Retr0bright(レトロブライト)」という手法があるらしく、YouTube で調べればたくさん出てきます。前々から、まとまった時間でキーボードを分解掃除したいな、と思っていたので、ついでに Retr0bright で漂白もしてみました。
用意するもの
ダイヤテック FKP01 |
キートップを引き抜くのに使う | 家電量販店で 500円前後 |
適当な歯ブラシ |
キートップ掃除用 | 家にあった適当なもの (実質 0円) |
漂白するのに使う |
近所のスーパーやドラッグストアなどで 150円前後 |
|
タッパーや洗面器 |
漂白液に浸けるのに使う | 掃除用のものが家に転がっていた |
日光 | 紫外線が出るブラックライトでも代用可 | 0円 (プライスレス) |
手順
1. キーボードのキートップを外す
キートップをマイナスドライバーで外す方法も探せば出てきますが、このキーボードはすでに終売しており、もう二度と手に入らないので(※1)、キートップを安全に外せるキープラーで丁寧に外します。ご覧の通り、かなり黄ばんでいます。
大きめのキー(Control、Shift、Return)には針金のような部品(スタピライザー)と、スペースキーにだけ細かいバネが付いていましたので注意して取り外します。これらの部品は、作業中になくさないようにチャック付きの透明なバッグに入れておくと良いでしょう。
ちなみにこの「FKB8579」、ケーブルがキーボード側ですぐに外せるようになっていて、PC 本体から外す必要がありません。こういうメンテナンスしやすいところもポイント高いです。20年以上前の製品なのに、なぜ他社は真似しないんでしょう?
2. キートップを水洗いする
水をはった洗面器に入れただけでも軽くホコリが浮いてくるので、数回水で洗い流します。
うっかりキートップを排水溝に流さないように慎重に扱います。
3. キートップを中性洗剤でブラッシングする
洗剤を使ってキートップを一つ一つブラッシングしていきます。
中性洗剤でちょうどいいのが、お風呂用洗剤のバスマジックリンでした。
こうしてキートップを一つ一つブラッシングしていると、ヒヤリハットしたり、オペミスしたりした思い出が蘇ってきます。何度、この Return キーで怨念込めたメールを送信し、障害対応をしたのだろうか。
4. キートップをすすぐ
洗剤を洗い流します。ここでオペミスしてキートップを排水溝に流さないように慎重に扱います。
ちなみに、この写真はじつは 2回目(後述)で、1回目のときにキーボードを洗っている途中、キートップを排水溝に流しそうになると学んだので、100円ショップで入手した穴あきのかごを写真のように活用しました。
5. ワイドハイター EX パワー原液に浸して日光(紫外線)に当てる
紫外線と界面活性剤が触媒になって、過酸化水素と反応させる原理のようです。
ここで 480ml のワイドハイター EX パワーを原液のまま全て使います。
なお、紫外線量の多い夏の時期だと早く反応が進むらしく 1日程度の照射でよいそうですが、じつはこの写真は年末年始に実施したもので、冬の間は紫外線量が少なく、しかも太陽の南中高度も低くて日照時間がかなり短いため、12/31〜01/06 の 7日間掛けました。天気予報を見て、晴れが長く続きそうな日を選んでおくと良いでしょう。
時間が経つと水分が蒸発しますので、1日に 1回くらいキートップが浸かる程度に水を足します。
6. キーボード底面をキレイに掃除する
キートップを日光(紫外線)に照射している間に、キーボードの底面をキレイに掃除しておきます。
今回のようにキートップを外しての掃除は初めてでしたので、ちょっと引くくらいホコリが溜まっていました。エアーダスターや綿棒、濡れティッシュなどを使って丁寧に清掃します。このとき、子どもが赤ちゃんの頃に使って余っていた、おしりふきが破れに強くて、いい感じに濡れているので使いやすかったです。
本当は分解して基板以外を全て水洗いしたかったところですが、ネジ穴らしきものが見つけられなかったのでここまで。
7. 何度かすすぎをしてキートップを拭う
照射が終わったらワイドハイター EX パワーを洗い流し、キートップを 1つ 1つタオルなどで拭っていきます。
ちなみに、すすぎをするときに泡まみれになって、何度かキートップを流しそうになるので最大限の注意を払います。
8. キートップをキーボードにセットする
大きめなキーに付いていた小さな部品から装着すると組み立てやすい。
ここで 1つでもキーが足りないと大捜索になるので、最後の一瞬まで緊張です。
9. 比較画像
自宅でも使っている同じ型番のキーボードを並べてみました。
写真だと分かりにくいですが、漂白していない(上)キーボードと、Retr0bright した(下)キーボードと比較すると、漂白された効果が一目瞭然です! 最初に撮影しておくべきでしたが、最初は下のキーボードのほうがもっと黄色かったのだ…!!
追加実験
(1) 2021年 5月
天気の良い日が続きそうな大型連休 05/01〜05/04 の 4日間、偶然、USB タイプの FKB8579 が入手できたので、上の比較用で使ったキーボードでも実施してみました。紫外線注意報も出ていて、まさに Retr0bright 日和です。(本当は 05/05 も日光に照射したかったところ、この日は当初の天気予報が外れて曇のち雨に)
スペースキーの色をカラースケールで見ると、見事に色が抜けているのが分かります!
さすがワイドハイター EX パワー、驚きの白さだ!
過酸化水素水をこんなに安価に入手できて、ついでに除菌もできることが知れ渡ってしまった以上、全国のドラッグストアからワイドハイター EX パワーの爆買いが始まるのも、もはや時間の問題である。
(2) 2021年 7月
またもや天気の良い日が続きそうな 4連休。絵に描いたような、見事な Retr0bright 日和です!
※1で社内でいただいたキーボードを丁重に Retr0bright しました。
真夏の強い紫外線を浴びて、もはや新品同様の輝きを取り戻しています!
保存状態にも依るかもしれませんが、目視で確認する限り、合計 3回実施した中でもっとも白さを取り戻しています。やはり、紫外線量の多い夏の時期に実施するのがベストのようです。
まとめ
アメリカ西部のカウボーイたちは、馬が死ぬと馬はそこに残していくが、どんなに砂漠を歩こうとも、鞍は自分で担いで往く。馬は消耗品であり、鞍は自分の体に馴染んだインタフェースだからだ。
いまやパソコンは消耗品であり、キーボードは大切な、生涯使えるインタフェースであることを忘れてはいけない。 — 東京大学 和田英一 名誉教授の談話
これは、Happy Hacking Keyboard(※2) の開発者であり、IIJ-II 研究顧問でもある和田先生のお言葉です。
自分とパソコンをつなぐ、重要なインタフェースだからこそ、キーボードは自分に馴染んだものを大切に末永く使いたいものです。
みなさまも夏休みの自由研究にキーボードの Retr0bright、いかがですか?(※3)
注意点
ABS 樹脂そのものが直射日光で劣化が進むという情報もあります。あまりやりすぎると、今度はボロボロになってしまう可能性もあるかもしれません。大切なものを Retr0bright する場合は、まずは影響の少ないカバーや小さな部品など、目立たないところでお試しすると良いでしょう。
また、ここで紹介したような分解清掃は、ほとんどの場合、メーカーのサポート・修理を受けられなくなります。自己責任のもとでご実施ください。
注釈
- 二度と手に入らないはずのキーボードですが、この記事を社内ブログで公開したところ、複数の社員の方から「もう使っていないからあげるよ」という嬉しいお声掛けをいただきました。社内に記事を書くだけで FKB8579 が集まってくる IIJ、さすが弊社。[↑]
- 今回のネタが Happy Hackig Keyboard ではなくてスミマセン! でも、私も一応 HHKB Lite2 は持ってるし、一時期は使っていたから、このキー配列が好きなんですよ。どうしてもカーソルキーが欲しかったのと、打ち心地が FKB8579 のほうが好みだった、というだけで…![↑]
- ABS 樹脂は身の回りの様々なところに使われていますので、ここで紹介したキーボードだけでなく、例えば、お風呂の給湯器のコントローラー部分や、インターホン、古くて変色してしまったおもちゃなどにも応用できます。[↑]