ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とIIJの関わり
2021年06月01日 火曜日
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エンジニアブログでははじめまして、冨米野です。私はIIJで長年ネットワークやインテグレーション案件を扱ってきたのですが、いま力を注いでいるのはクラシック音楽です。
いろいろなご縁があって、IIJはクラシック音楽との関わりがいくつかあります。毎年春に開催している東京・春・音楽祭は、IIJの創業者であり会長である鈴木 幸一が実行委員長を務めていることもあり、今年は全公演のオンライン配信を担当しました。もう一つの大きな取り組みが、私が担当しているベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と、そのオンライン事業を担当するベルリン・フィル・メディア(以下、BPM)とのコラボレーションです。この記事ではBPMが本日発表した、4K映像+ハイレゾ音源によるコンサートの配信について、IIJの関わりを紹介したいと思います。
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とIIJの関わり
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は皆さんご存じの通り、世界最高の長い歴史あるオーケストラの一つです。ですが、ベルリン・フィルは優れたオーケストラという事だけでなく、貪欲に新しい技術に取り組むコンテンツホルダーという側面もあります。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の子会社であるBPMは、自ら「デジタル・コンサートホール(以下、DCH)」を立上げ、ベルリン・フィルのコンサートを全世界に向けてインターネット配信する取り組みを続けています。そして、IIJは、2016年より ベルリン・フィル・メディアのストリーミングパートナーとして、同社が運営するベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の映像配信サービス「デジタル・コンサートホール(DCH)」をサポートしています。
BPMはIIJがパートナーになる以前からDCHを運営していたこともあり、彼らは彼らで独自の配信インフラを運用しています。現在でもDCHは彼ら自身がインフラを運用しているのですが、そのインフラはIIJとのパートーナーシップにより、技術的にも強化されています。その背景には、BPMとIIJのパートナーシップに基づいて実施された実験による様々な知見が生かされています。
BPMとIIJの取り組み
4K+ハイレゾ
CD以上の音質を持つハイレゾ配信は、IIJがすでに実現していました。また、より高品質な映像である4Kについても、すでにIIJで配信を行った実績はあります。しかし、その両者を組合わせた配信というのは、IIJだけでなく世界的にもまだ実績が無い状態でした。
こうした高音質、高画質なコンテンツを配信する際には、収録したオリジナルのコンテンツの処理で映像と音声の処理にかかる時間の差が大きくなります。コンテンツの品質が高くなればなるほど、映像の処理と音声の処理で時間差は大きくなるのです。高品質での配信の場合、この「音声と映像の同期」が高いハードルになります。
最近は皆さんもTV会議を利用されることが多いかと思います。ああいった会議システムでは実は、音声と映像の同期はあまり重視されていません。実際、会議中に映像の中の唇の動きと聞こえてくる音声のタイミングに違和感を覚えた方も少なくないと思います。映像制作の現場ではこうした状況を「リップシンクが取れていない」と言います。リップシンクが取れていないと違和感はあるのですが、TV会議は会議自体が進行することが重要なので、少々のズレは気にしないことが多いようです。
しかし、BPM、そしてベルリン・フィルはそこに厳しい要求を突きつけます。これはある意味当然です。スフォルツァンドにめがけてコンダクターが激しくタクトを振り下ろす様と、それに応えた楽団の演奏がずれていては興ざめも甚だしい。それでは世界最高のコンテンツとは言えなくなります。
もちろんそんなことはIIJのエンジニアも承知しており、音声と映像の同期を取る事ができるように備えをしていたのですが、実際に機材を持ってドイツ・ベルリンに赴き配信実験を行ってみたところ、BPMからの答えは「Nein(ダメ)」でした。ハイレゾ音声・4K映像それぞれの変換に時間がかかり、映像と音声を組合わせたときのズレが解決し切れていなかったのです。
BPMからの指摘を受け、現地に飛んだIIJエンジニアは彼らの違和感がなくなるようになんとか音声と映像を調整しました。そうしたピンチを切り抜けてどうにか世界初の4K映像・ハイレゾ音源の生中継を成功させることができたのです。
DCHのハイレゾ化
こうした取り組みを通して、IIJは世界最高のオーケストラが求める配信のレベルを体感し、また、BPMは高品質なコンテンツのインターネット配信における課題とその解決を目にすることとなりました。
今回ハイレゾ化されたDCHは、引き続きBMPが運用するインフラから配信されていますが、BPMとIIJの取り組みによって得られた知見が反映されています。IIJが取り組んだチャレンジがこうした形で実用化されたことを、とても誇りに感じています。
これからもIIJは、世界最高のオーケストラと一緒に、新しい未踏の技術にチャレンジしていきたいと考えています。