今年もはじまった「夏の甲子園」。10年前から携わっているエンジニアにネット配信の変遷を聞いてみた。
2021年08月19日 木曜日
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地方大会が終わり、8月10日から2年ぶりの全国大会(第103回全国高校学校野球選手権大会)がはじまりました。IIJは地方大会に続き全国大会でも「バーチャル高校野球」の配信プラットフォームを提供しています。そこで今回は、2011年から本大会の配信に関わっているエンジニアに、これまでの配信技術の変遷と今年の意気込みについて聞いてみました。
登場人物の紹介
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高校野球のネット配信
──IIJが高校野球のネット配信に関わるようになったのはいつ頃からですか?
岡庭:2011年からで、今年10年目をむかえます。それ以前は、朝日放送さん(現:朝日放送テレビ)がネット配信に取り組んでいらっしゃったのですが、大規模な配信のためのサーバが必要だということで、2011年より配信用のサーバをIIJが提供しています。
当初ネット配信は全国大会の決勝戦だけでしたが、徐々に配信する試合数が増えてきて、今年は、全国大会の全試合と地方大会をあわせて、170以上の球場から約2400試合を配信(※)することになりました。
(※)知ってました?夏の高校野球、実は地方大会からネットで見られるんです。(IIJ Engineers Blog 2021年07月13日 火曜日)
10年間の変化
──10年間ネット配信をやってきて、何が変わったと思いますか?
岡庭:一番大きいのは配信するトラフィック(通信量)の増加ですね。2011年はピークでは 10Gbps 以下程度でしたが、2019年には 600Gbps超まで増加しました(編集部注:2020年は選手権大会が開催されませんでした)。
2011年頃は世の中でまだ大規模なネット配信イベントはあまり多くはなく、高校野球のネット配信も実験的な側面があったように思います。
トラフィックが増加した主な要因は、配信映像の画質を向上させた影響もありますが、何より視聴者数の増加が大きく影響しています。
ちょうどその頃からスマートフォンが普及し始め、スマホで動画を見る文化が徐々に広がっていったことも視聴者の増加に影響していると思います。高校野球は日中の配信で、必ずしも目の前にパソコンがある環境ではありませんからね。
私が関わっている配信サーバ(CDN)部分では、2011年頃からライブ配信に使われる技術の変化が起きています。それまでは動画配信専用の通信方式が主流でしたが、Smooth StreamingやHLSといったWebで使われる通信方式が動画配信にも使われるようになり、大規模な配信がやりやすくなりました。
また、朝日放送さん(現:朝日放送テレビ)の取り組みですが、ネット配信の途中に配信独自の広告を挿入する技術を取り入れるなど、ネット配信をビジネスとして定着させるための工夫をされていました。
視聴環境の変化や配信技術の進化、ビジネス化のための取り組みがうまく合わさって、10年間でここまで高校野球のネット配信が成長したのではないでしょうか。
この10年の 視聴環境や配信の技術の進化によって、トラフィックベースで60倍も配信の規模が大きくなっているんですね。
IIJにとって高校野球とは?
── IIJにとって夏の高校野球の配信はどんな存在・位置づけなのですか?
岡庭:夏の高校野球は出場する選手にとっても、主催者(朝日新聞社さん)にとっても年一度の大きなイベントだと思いますが、IIJにとっても一年がかりで準備する大きなイベントです。
配信の中心になるサーバ(CDN)部分もそうですが、サーバから出るトラフィックを適切に届けるためのネットワークも重要です。たとえば、配信用のサーバはIIJバックボーンネットワークの中心であるコアルータのすぐ近くに繋げたり、他のISPに流れるトラフィックがバランス良く流れるように他社との接続を調整したり。ネットワークを担当する部署は、毎年春ぐらいから準備を始めています。
岡庭:また、高校野球の配信にあわせて新しい設備を投入することもあります。例えば、10年間に配信サーバに繋げるネットワーク・インタフェースが1Gbps(GbE)→10Gbps(10GbE)→100Gbps(100GbE)と変わってきました。ネットワーク・インタフェースが広帯域になれば、その分サーバの台数を減らせるので是非使いたいんです。でも、10Gbpsや100Gbpsのインタフェースにきちんと安定してトラフィックを送り出せるのか──もちろん事前に十分にテストは行うのですが、やっぱり実戦で試してみないとわかりません。そういう新しい挑戦をする事も過去の大会でありました。
大げさかもしれませんが、毎年夏の高校野球の配信を行うことで得られた知見が、IIJのCDNの開発を支えています。2016年に設立されたJOCDN(※)ではTV局と一緒に大規模な配信にも取り組んでいますが、こうしたことができるのも高校野球の配信経験があってのものだと思っています。
私自身もエンジニアとしていい経験を積むことができています。
(※)JOCDN: IIJと放送事業者の共同出資で設立された動画配信プラットフォーム(CDN)事業者(https://www.jocdn.co.jp/)
一口に配信と言っても、様々な側面があり、それぞれ技術の進化があり、試行錯誤の取り組みを経て、今の大規模配信のカタチに至っているのですね。
今年の意気込み
──それでは最後に、今年の高校野球の配信にかける意気込みと工夫したポイントを教えてください。
岡庭:私が担当している部分はCDN周りなので、皆さんに見えるところではあまり変化はありません。ですが、インフラは結構変わっています。従来は高校野球の配信に向けて特別に手作業で準備した部分が多かったのですが、自動化・定型化を進めています。これは、大規模な配信が日常的になってきた事とも関係していますね。
今年の全国大会は無観客開催なので、皆さんはテレビやネットで観戦されているかと思います。「バーチャル高校野球」では、試合の配信以外にも朝日新聞社さん・朝日放送テレビさんが様々な情報を配信していますので、是非一度ご覧ください。
高校野球の総合情報サービス「バーチャル高校野球」の画面サンプル
関連リンク
- バーチャル高校野球
- 2021年高校野球のネット中継に動画配信プラットフォームを提供(プレスリリース)
- “熱闘の夏”をどこでもリアルタイムで!「バーチャル高校野球」ライブ動画配信の裏側(内容は2019年当時のものです)
- 知ってました?夏の高校野球、実は地方大会からネットで見られるんです。(IIJ Engineers Blog)