LTE Cat.1 bis ってなに? (いまさらLTE?)
2024年04月22日 月曜日
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本日発表したプレスリリースにて、「LTE Cat.1 bis」という通信方式が登場しています。
- IIJ、フルMVNOとしてSIMCom Wireless Solutions社通信モジュール「SIM7672G」を用いてIoT向けLTE通信方式「Cat.1 bis」の接続確認を実施 (2024年4月22日 プレスリリース)
「世間の注目が5Gに移っている中でいまさらLTE?」「bisってなに?」などなど、ちょっとわかりにくい所があるので、少し突っ込んで解説してみたいと思います。
LTEの通信カテゴリ
「Cat.1 bis」の「Cat」は「カテゴリ」の意味です。そして、「bis」は「改訂版」という意味です。古くからパソコンを触っている方なら「V.34bis」「V.42bis」といった規格名で目にしたことがあると思います。つまり、「LTE Cat.1 bis」は「LTEカテゴリ1の改訂版」という規格名です。
4G(LTE)・5Gの通信規格は随時改良が加えられています。その時々の技術と需要に応じて、いくつかの「UEカテゴリ」(端末カテゴリ)というものが追加されています。UEカテゴリの違いで一番わかりやすいのは、通信速度です。以下、一部を表で紹介します。
UEカテゴリ | 3GPP 規格 | 制定年 | 速度(下り/上り) | MIMO |
Cat.M (LTE-M) | Rel.12 | 2015年 | 1Mbps/1Mbps | 1 |
Cat.0 | Rel.12 | 2015年 | 1Mbps/1Mbps | 1 |
Cat.1 bis | Rel.13 | 2016年 | 10Mbps/5Mbps | 1 |
Cat.1 | Rel.8 | 2007年 | 10Mbps/5Mbps | 2 |
Cat.2 | Rel.8 | 2007年 | 50Mbps/25Mbps | 2 |
Cat.3 | Rel.8 | 2007年 | 100Mbps/50Mbps | 2 |
Cat.4 | Rel.8 | 2007年 | 150Mbps/50Mbps | 2 |
Cat.5 | Rel.8 | 2007年 | 300Mbps/75Mbps | 4 |
Cat.6 | Rel.10 | 2010年 | 300Mbps/50Mbps | 2 or 4 |
(このあともカテゴリはどんどん追加されています) |
※通信速度は規格上のもの。実際のサービスでは異なる値が設定される場合もある。
※3GPPは3G・4G(LTE)・5Gの規格を制定している団体
2007年に3GPP Release.8という規格で定義されたCat.1~Cat.5が、「元祖LTE」に相当するUEカテゴリです。これらは主に当時のスマートフォンで利用されていました。
3GPPの新しい規格が制定されると、カテゴリも追加されていきます。表では省略していますが、この後制定されたカテゴリでは新技術が投入され、通信速度が大幅に向上しています。
一方、この頃利用が本格化してきた、IoTに向けた通信規格も追加されました。2015年のRelease.12で追加されたCat.M(LTE-M)と、Cat.0がそれです。これらは、通信手順を簡略化して速度を低下させる代わりに消費電力を削減するといった、IoT向けのアレンジが加えられています。ちなみにIIJのSIMもLTE-Mに対応しており、IoT製品で利用されています。
- IIJ、フルMVNOとして「LTE-M」の接続確認を実施 (2018年11月 15日 プレスリリース)
そして、今回のテーマ「Cat.1 bis」は、LTE-Mよりもあと、2016年の3GPP Release.13で追加されました。文字通りCat.1の改訂版なのですが、主要な目的はLTE-Mと同様にIoT向けです。
Cat.1 bisはCat.1とほとんど同じなのですが、違いは一点「MIMO非対応」というところです。MIMOについては、ここでは「アンテナの本数」と解釈してください。「元祖LTE」のCat.1は「アンテナ2本」ですが、Cat.1 bisは「アンテナ1本」です。
実は、Cat.1は規格上通信機にアンテナを2本付けることになっているのですが、実際には片方のアンテナを外してしまっても通信自体は可能です。(もちろん通信性能は低くなります) その、アンテナを片方外した状態を正式に規格化したのが、Cat.1 bisだと考えても差し支えないでしょう。
3G停波と5Gに行けない理由
さて、IIJがこのタイミングでCat.1 bis対応を表明したのは、実は3G停波(終了)が関係しています。
世間でIoTという言葉が使われ始めたのは2015年頃からですが、実際にはそれ以前からモバイル回線のIoT的な利用は広がっていました。(当時はユビキタスという言葉がありましたね)例えば、自動販売機の在庫を遠隔から確認する装置や、物流トラックの位置の追跡などです。これら、LTE開始以前から使われていたシステムでは3Gが使われていました。
そして、2026年3月末に3Gでの通信サービスが終了(docomo網)するため、いよいよこれらのシステムを入れ替える必要が出てきたのです。
ここで「IoTといえば5Gが本命だし、4G(LTE)を飛ばして5Gに乗り換えては?」という事は当然考えます。しかし、IoTシステムを作っている立場では、今5Gに乗り換えるのはあまり現実的ではないのです。
今回入れ替え対象になっているシステムは、元々3Gを使っていたため、
- 通信速度はあまり必要ではない (数Mbps程度出れば良い)
- 通信遅延についてもあまり気にしない
- 元々あったシステムの入れ替えなので、「高密度」は対応不要
ということで、5Gの特徴である「高速」「低遅延」「高密度」を必要としていません。しかも、
- 通信モジュールはまだまだ価格が高い
- 消費電力の低減がまだ十分ではない
- RF(無線)の設計をやり直す必要がある (製品筐体の再設計)
- 3Gに比べてエリアが狭い
という5Gデメリットの方が強く出てしまうのです。
その一方、4G(LTE)は長年使われていたため、技術がこなれており、
- 3Gと同じ程度の速度は充分に出せる
- モジュール価格が安い
- 消費電力もかなり低減できている
- 3G並にエリアが広がっている
- あと10年ぐらいは利用できそう
という、メリットがあります。
つまり、IoT製品の3G通信モジュールを載せ替えるなら、5Gより4G(LTE)を選択する方が、今は現実的なのです!
LTE-Mじゃダメなの?
ダメじゃありません。3GからLTE-Mへの載せ替えも充分現実的です。
ただ、実は、LTE-Mにはちょっと困ったデメリットがあるんです。それは「エリアが(微妙に)狭い」ということです。
LTE-Mは、4G(LTE)のシステムに後から追加された規格なので、LTE-Mに対応するためには基地局をアップデートしなければなりません。日本国内ではキャリアの努力によりほとんどの基地局でLTE-M対応アップデートが行なわれているということですが、一部LTE-M非対応の基地局もあるようです。また、各キャリアは4G(LTE)を複数のBand(周波数帯)でサービスしていますが、LTE-Mで利用できるのはその中の一部となっているようです。
こうした事情で、エリアのキワのキワ……と言ったところで、「スマホでは4Gの電波を拾うのに、LTE-Mの端末で電波を拾えない」という現象が発生してしまいます。(案件でぶち当たりました)
そもそも、3Gと4G(LTE)は全く別個の設備なので、「3Gと同じエリアを4Gで保証する」
と言うことは不可能なのですが、「できる限り(3G並に)ひろいエリアで使いたい」というご要望に全力でお答えしようとすると、若干悩ましさがありました。
Cat.1 bisは、実は端末側のカテゴリであって、基地局側はごく普通の Cat.1のままです。つまり、LTE-Mのように基地局のアップデートも必要ありませんし、原則すべてのBandで通信が可能です。このため、4G(LTE)以降で最も広いエリアで通信が可能な規格と言えます。
LTE Cat.1じゃダメなの?
ダメじゃありません。エリアの問題だけならCat.1とCat.1 bisは同条件です。
ただ、この記事でも書いたとおり、本来のCat.1は「アンテナ2本」という規格です。規格に沿って開発すると、アンテナを2本取り付けなければなりません。
※IIJ開発の4G対応ルータ SA-W2L。本体右側に4G対応のアンテナが2本出ています。(左側のアンテナは無線LAN)
3Gは「アンテナ1本」という規格でしたので、3GからLTE Cat.1に載せ替えようとすると、アンテナを1本追加しなければなりません。これはRF(無線)の設計変更で、筐体の構造変更につながってしまいます。「なるべくそのままシステムを延命したい」という場合には、これはあまりうれしくありません。
Cat.1 bisは「アンテナ1本」の規格です。つまり、筐体の構造に手を入れることなく、3Gから4G(LTE)に載せ替えができるのです。
3Gからの載せ替えに、LTE Cat.1 bis という選択肢
このような理由で、これまで3Gで運用されていたIoTシステムの載せ替えとしてLTE Cat.1 bisは「ちょうどいいポジション」にいるのです。それが今回IIJがLTE Cat.1 bis対応を発表した理由です。
IIJとしては、もちろん5Gを含めた最先端の規格への対応も重要だと考えていますが、実際のIoTの現場で求められている課題を解決するのも重要だと思っています。様々な技術を駆使してIoTの利用を広げていきます。