Starlink(スターリンク)を7台束ねたら速度が上がるのか?確認しました!

2024年04月23日 火曜日


【この記事を書いた人】
谷口 崇

結構長くゲーム業界に出向していましたが、2022年秋に戻ってきました。ゲーム業界での経験も生かしながらIIJのエンジニアとしてちょっと面白いことを提供できていければいいなぁと思っています。格闘ゲームの世界チャンピオンになった従兄弟がいますが彼にゲームを教えたのは僕ではありません(笑)

「Starlink(スターリンク)を7台束ねたら速度が上がるのか?確認しました!」のイメージ

Starlinkは相当の性能をもった回線ですが、数百Mbpsという性能はダウンロード方向でありアップロードはそこまで早くはありません。

Starlinkについて説明している動画をみるとアンテナ理論値は540Mbpsのようです。実際に手持ちの環境で最近計測したときの最高値はダウンリンクが316Mbpsでアップリンクが33.9Mbpsでした。Starlink衛星がアンテナとの通信に使っているKuバンドの帯域はダウンロード方向に2GHz、アップロード方向に0.5GHzを割り当てています。これだと元々使っている帯域幅に4倍の差があり、アップリンク方向は誤り訂正などのオーバーヘッドもダウンリンクより多いでしょうから非対称になるのかなと思います。

衛星からGatewayへの通信に使っているKaバンドでは帯域の割り当てが逆転しています。アップロード方向に2.5GHz割り当て、ダウンロード方向は1.5GHzになっています。

 

アップリンクの性能がもっと欲しい!

動画配信の通信路にStarlinkを使う場合、アップリンク側の性能が大切になります。配信に使う帯域は数MbpsもあればフルHDでも十分視聴にたえる品質で送ることが可能です。しかし4Kや8Kといったより高解像度・高品質な映像を送りたいという要望は当然出てきます。

先日、KDDIからStarlinkを活用した南極からの8K映像リアルタイム伝送に成功とのプレスリリースがありましたし、アップリンクの強化は今後も必要そうです。

8台のStarlinkが白井データセンターキャンパスに集結

1台で足りないなら、Starlinkを複数台束ねて使えばもっと良い結果が出るのではないだろうか?というのが今回の実験です。

幸いIIJには何台かStarlinkがあるので白井データセンターキャンパスの駐車場に集結してもらいました。そして性能がどこまで上がるか実証実験を実施しました(元々設置していた第1世代のStarlinkもいるので写真には合計9台映っています)。

Starlinkを複数台設置するときの注意点

Starlinkのアンテナ同士は4m以上の距離をとることが推奨されています。実際この距離を守らないと動かないという事はありませんでしたが、高度550Km秒速7,800mで移動している衛星から地上に設置したアンテナにむけて通信しているわけですから電波の広がりや干渉を考慮し、間隔をあけて配置しています。

Peplinkについて

複数の回線を束ねて使うことはオープンソースのものでも実現できますが今回は株式会社CASOさんに協力いただいてPeplinkを使う事にしました。PeplinkはStarlinkの公式テクノロジープロバイダーでもありCASOさんはStarlinkソリューションを展開しています。

PeplinkにはLTEや5Gなどのモバイル回線のSIMを搭載して複数束ねる「マルチ回線ルーター」とStarlinkのようなEthernet機器を束ねる「バランスルーター」があります。今回はバランスルーターからBalance710をお借りしています。

テスト構成について

全体はこんな感じになりました。準備したStarlinkは8台ですがBalance710で使えるWAN回線は7回線までなので1台は予備としました。今回は高性能アンテナ3台、標準アンテナ4台で構成しています。

 

作業は3月中旬に行いました。非常に寒い日が続いていたのですが、このときは穏やかで風も少なく助かりました。

左の4台が標準アンテナ用の電源+Wi-Fiルータ、右の3台が高性能アンテナの電源です。全て有線接続でPepLinkに接続しています。

高性能アンテナのEthernetケーブルがゴツいです。赤いケーブルは配信機材に繋がっています。

実際どうだった?

7本ある回線を使ってさまざまな構成を作り動画配信をしてどのように再生されるか確認しました。このグラフはPeplinkの管理画面からみたそれぞれのWAN回線の利用状況と束ねた総量を表したグラフです。7台よりも4台の時の方が性能がでているようにも見えますが、最低でも50Mbpsぐらいは出ていて100Mbpsに迫る時もあり、束ねることには成功しているようです。

一方で動画の再生確認をすると25Mbpsぐらいまでの配信は大丈夫でしたが、それ以上になるとかなり厳しく視聴に耐えるものではありませんでした。SRT(※)はライブ中継を意識したリアルタイム性とパケットロスやジッターなどに伴う品質劣化に対応できるプロトコルではあるのですが、吸収しきれない変動があるようです。

※SRT (Secure Reliable Transport) は、映像制作現場などで利用される映像伝送プロトコルです。IIJはSRTアライアンスのメンバーで、ライブ中継の素材映像の伝送などに利用しています。(参考: Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.56 「東京・春・音楽祭」ライブ配信2022レポート)

今回は検証期間が1日しかとれず、設定の見直しなどは殆どできませんでした。またアップリンク方向しか試していなかったので、スピードテストなどで検証する事もできませんでした。

また機会を設けて、スピードテストやSRT以外の配信、HLS等での検証したいと思います。

谷口 崇

2024年04月23日 火曜日

結構長くゲーム業界に出向していましたが、2022年秋に戻ってきました。ゲーム業界での経験も生かしながらIIJのエンジニアとしてちょっと面白いことを提供できていければいいなぁと思っています。格闘ゲームの世界チャンピオンになった従兄弟がいますが彼にゲームを教えたのは僕ではありません(笑)

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