社内生成AI基盤はどう作られたのか ― IIJグローバルの挑戦
2026年06月03日 水曜日
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こんにちは、IIJ Engineers blog 編集部です。今回は久々のインタビュー記事です。
生成AIを業務で活用することは、あっという間に当たり前になりました。みなさんの会社でも「全社員がCopilotを使いこなせる環境を、1年以内に整えよ」「わが社の情報を熟知していて、しかも安心して使える〇〇GPTを作ろう!」という号令がかかっていませんか?
IIJのグループ会社、IIJグローバルソリューションズ(以下、IIJグローバル)では、世の中の流れに先駆けて自社専用の社内生成AI基盤 「GSCopilot」を2023年にリリースしました。現在、GSCopilotは社内に根付いており、Microsoft Copilotと共存しながら社員の業務環境をよりよいものにしています。
このアクションができた背景には、ChatGPT以前から続くAI・XRの試作開発、技術への強い興味、作ったものを使ってもらうための地道な社内PR活動がありました。社内でAI利活用の基盤を整えている方、利用推進を担当している方、ぜひご一読ください。
お話を聞いた人
山本 光良さん
2012年IIJグローバル入社。IBM出身でネットワークスペシャリストとして長年活躍し、CCIE終身称号やIPA試験委員などの実績を持つ。現在はAIおよびDXのR&Dを牽引し、先見性と構想力でプロジェクトを導くエンジニア。
吉野 利明さん
2018年IIJグローバル入社。電機メーカー出身でソフトウェア開発一筋、BASICからC#まで幅広く対応する熟練のプログラマー。山本さんによると「圧倒的な実装力とスピードで、一人でプロダクトを作り切るエンジニア」
これまでの実験の蓄積×凄腕のエンジニア
―従業員数約500名のIIJグローバルが自社専用の生成AI基盤を構築するのは、なかなかアグレッシブな話だと感じました。誰が言いだしたのか、なぜそれができたのか、経緯を教えていただけますか?
山本: IIJグローバルでの生成AI導入は、単なる流行への反応ではなく、以前から続けてきたR&Dの延長線上にあるものです。我々はChatGPT登場以前から、実は相当量の試作開発をしていました。
2010年代後半に取り組んでいたテーマとしては
・自然言語による技術QA検索
・音声の文字起こしと翻訳
・会議向けリアルタイム字幕表示
・モバイル向け音声翻訳
・アバター連携
・VR/XRを使った遠隔会議システム
などがありました。当時は、会話AI、画像AI、音声AI、自然言語処理などが、今ほど一体化されておらず、それぞれ別の技術として向き合って、一つずつ形にしていく必要がありました。
― いきなりできたわけではなく、できるだけの技術の蓄積があったんですね。これ、どんな体制で取り組んでこられたのでしょうか。
山本:私が「研究の方向性を考える人」で、吉野さんが「形にしていく人」です。社内の他の人たちにスポットで手伝ってもらったこともありますが、基本的には二人三脚です。私が発想を組み立て、何を試すべきかを見極める役割です。そして吉野さんが、構想をソフトウェアに落とし込む役割です。吉野さんは凄腕中の凄腕なので!
山本: たとえば、Azureや各種クラウドサービスを使ったプロトタイプ開発、音声や翻訳APIの活用、フロントエンドとバックエンドを組み合わせた試作など、社内生成AIを作るなら必要そうな技術的な要素が、2010年代からIIJグローバルの社内には蓄積されていました。だから2022年にChatGPTが登場したとき、我々は「何を作るか」を考えれば、形にできる状態に近かったわけです。
吉野:(無言でにっこり)
― ですね!
GSCopilotは何ができるのか
― ところでGSCopilotは、具体的にどんな機能があって何ができるのでしょうか?
吉野:GSCopilotは、見た目としては生成AIチャットに近いUIを持っています。実際には複数の用途を担えるよう拡張されています。
標準的なチャット機能
吉野:ここは一般的な生成AIの利用感に近く、日常的な要約、整理、アイデア出し、文案作成などに使えます。また、モデルの特性に応じて使い分けできるようにしています。
新しいLLMが常に最適とは限りません。トークンウィンドウやコスト、処理したいデータ量によって向き不向きがあります。
「大きな入力を処理したい」「長いトランスクリプトを扱いたい」といった現実の要件に合わせて、選択肢を持てる設計になっています。
AIアシスタント機能
吉野:いわゆるコードインタープリター/Advanced Data Analysisの機能も実装されています。
ExcelやPDFなどのファイルを入力して、要点をまとめる、データを整理する、加工して返す、必要な処理を内部でプログラムを作成して、実行して結果を返す…といったことが可能です。
「AIが裏でプログラムを書いて処理している」機能で、単なる会話相手ではなく、作業実行環境として使うことができます。
トランスクリプト機能
吉野:音声データを文字起こしし、必要に応じて話者分離も行える機能もあります。会議音声からトランスクリプトを作り、そのまま要約や議事録化につなげられるので、業務利用として重宝されます。
社内情報検索機能
吉野:登録した社内データをもとに回答する、RAG型の検索機能も実装されています。
一般的なWeb検索ではなく、指定した社内文書群を対象に答える仕組みで、社内ナレッジ活用の土台になります。
今ではMS CopilotやBox Hubsなど類似機能を持つサービスも増えていますが、GSCopilotでは早い段階からこうした発想で機能を取り込んでいました。“社内チャット”を超えて、社内業務に必要なAI実行基盤へ広げようとしていることが分かります。
Teams連携も実装しました。新しいツールを使ってもらうには、「便利であること」だけでなく、利用しているツールからシームレスな場所から使えることが重要です。Teamsの中にAIが“いる”ことで、問い合わせや要約、ちょっとした壁打ちという点でかなり自然になります。
― 吉野さん、これだけの機能を持つ仕組みを、ほぼ一人で開発・運用できてしまうのは、技術力はもちろん、モチベーションという面でもすごいと驚きました。どこにその、モチベーションの源泉はあるのでしょうか。
吉野:単純に、動くモノを作るのが好きなんです。誰かの考えた面白そうなモノを、自分の手で作ることがずっと好きで、ずっとやってきて、気づけば現在といったところです。
社内での普及活動は、社員巻き込み型で
― すごいものを導入しても、なかなかそれが普及しない。どこの会社にもあるお悩みだと思うのですが、IIJグローバルではどうやって「GSCopilot」を社内展開したのでしょうか。
山本:2023年4月、社内向けに「ChatGPTの衝撃」という講演を行ないました。メッセージは明快で、生成AIは一過性の話題ではなく、働き方そのものを変える可能性があるという1点でした。社内浸透にあたっては、経営陣も強く取り組みをサポートしてくれました。
社内展開の際に重視したのは、単に便利そうだからではなく、社員が早く触れて、使い方を学び、業務に組み込める状態を作ることでした。
目指したのは、大きく2つです。
- まずは汎用的な社内チャット基盤を作ること
- その上で、業務特化の機能へ広げていくこと
まずは社内向けに安全に使える生成AI基盤として、Azureを活用した構成で設計・開発を開始しました。トライアル版を限定メンバー向けに公開し、検証と改善を重ねたうえで、2023年10月には全社リリースを完了させました。
― 多くの会社では、生成AIとセキュリティ、自社情報の保護に関する議論が、今も重ねられています。IIJグローバルはそのあたり、どうしていったのでしょうか?
山本:いくら便利でも、業務データを安心して投入できなければ使いどころは限られます。
GSCopilotでは、社内で利用できる生成AI基盤として、セキュアに使えることを大前提とし、詳細は内緒ですがそれを実現しました。良いツールでも、使うたびに「これは入力していいのか?」と考える必要性を残してしまうと、利用は広がりません。
― まずは安全安心を担保したんですね。そして次のフェーズで利用の動機付けをするのだと思うのですが、具体的にはどうやったのでしょうか。
山本:おっしゃる通り、ツールはリリースしただけでは使われません。単に「使ってください」といってもなかなか人は動かないので、GSCopilotでは使い方そのものを社員と一緒に発明するアクションを意識しました。
まずは2024年、社内でGSCopilotの活用アイデアを募り、社員投票で競う「アイデアバトル」を全社で実施しました。そして2025年は「業務で役立つプロンプト作成研修」など、生成AIの使い方の型を学び、生産性向上につなげる研修を企画・実施しました。さらに選抜メンバーによるGSCopilot実践プロジェクトを走らせ、最終的にはAI活用を牽引するGS AI Forceとして任命するなど、利用推進を多面的に進めています。結果、利用者数は段階的に増加し、今では社員の大半がこれを利用するようになりました。そして、現在では業務委託の皆さんにも利活用していただいています。社内生成AIの価値は「作ったこと」よりも、「実際に使われるようになったこと」で初めて意味を持つということを、現在は実感しています。
― お話聞かせていただき、ありがとうございました!
IIJグローバルソリューションズとは
IIJグローバルは、最前線のテクノロジーと知見を活用して、最善の解決策を提供し続けるため、「最前をゆく」、「最善に導く」という2つのメッセージを統合したブランドスローガン「SAIZEN⁺」(サイゼン)を掲げております。今後も様々なネットワーク・セキュリティソリューションの提供を通じて、お客様および関係者の皆様に「SAIZEN⁺」の価値をお届けしてまいります。



