IIJの技術研究所が開催する成果発表の一環「社内オープンハウス」

2026年07月10日 金曜日


【この記事を書いた人】
IIJ Engineers Blog編集部

開発・運用の現場から、IIJのエンジニアが技術的な情報や取り組みについて執筆する公式ブログを運営しています。

「IIJの技術研究所が開催する成果発表の一環「社内オープンハウス」」のイメージ

IIJには、次世代インターネットの新しい基盤技術を日本から創出することを目的として、新技術の研究開発を通じてIIJグループと社会に貢献するために設立された「IIJ技術研究所」があります。
https://www.iijlab.net/

技術研究所では、成果発表の一環として毎年「技術研究所 社内オープンハウス(以下オープンハウス)」といった社内イベントを開催しています。
本イベントはその名の通りオープンハウス形式で、指定された時間内であればいつでも自由に訪れて見学や質問ができます。
来場者の対象はIIJグループ社員で、技術研究所に所属するエンジニアが個々にブースに立ち、現在行っている研究内容をポスター展示やデモを用いて紹介します。

今回は、会場の様子や展示内容の一部を紹介したいと思います。

会場の様子

会場は、IIJ本社の技術研究所が入っている部屋のほぼ全面をイベントスペースにします。
そこに個々がブースを設置していきます。
今回は33ブースありました。

会場の案内図。色の塗られた英数字はブースを示しています。

オープンハウス主催者インタビュー

技術研究所の所長であり、本イベント主催者である長 健二朗にインタビューしました。

長 健二朗(技術研究所所長)

Q:オープンハウスはいつから行っているのですか。
A:2023年から始めて今年で4回目です。

Q:なぜオープンハウスを行おうと思ったのですか。
A:それまでは、成果報告会という形で、主だったプロジェクトの進捗報告をしていたのですが、それだと一方的に報告する形になってしまい対話が難しいし、紹介できるプロジェクトも限られてしまうと感じていました。また、研究所は2009年から2022年までIIJ-IIとして別会社だったのですが、その間に少しIIJから距離ができてしまいました。一方、IIJもずいぶん大きくなり、IIJに戻ってもなかなか馴染めない状況でした。そこで、もう少しお互いによく知る機会となるようにと社内オープンハウスを始めました。

Q:当時と比べて展示数や来場数など、なにか変化はありましたか。
A:展示数、来場者数ともに少しずつ増えています。最初は、発表する方も学会のポスター発表的に技術の詳しい説明が多かったと思います。また、来てくれる人も、すでに研究所と何らかの繋がりがある社員が特定の人と話すために来てくれる感じでした。ですが、社内オープンハウスの目的は、学会発表とは違い、成果の価値を示すことよりも、IIJ社員の皆さんに我々の存在や活動に興味を持ってもらうこと、また、我々が皆さんとのやりとりを通して研究開発のヒントを見つけることだと思っています。そこで、最近はもっと広く研究所を知ってもらおうと、各展示の簡単な紹介を用意して、体験や実物展示、デモや動画での説明などを交えるなど、分かりやすい説明をするように努めています。

Q:来場者にはどういったことを感じてほしいですか
A:自分にとって何か面白いものが見つかると嬉しいです。研究所をあまり知らない方には、こういう部署もあるんだと知って欲しいです。とくに、技術のことに詳しくない方には、社内の技術者と話す機会だと思って、気軽に覗きに来て欲しいです。技術系の方には、何か興味を持てるトピックが見つかれば嬉しいです。すでに我々の活動をご存知の方とは、対面でディスカッションすることで、相互理解が深まることを期待しています。

Q:今後の展望や、やってみたいことなどあれば教えてください。
A:インターネットのおかげで、ワクワクするような技術がこれまでにいっぱい生まれてきて、今後もいっぱい生まれてくると思っています。オープンハウスを、そのようなワクワクを社内の皆さんに伝えるイベントにしたいです。そのためには、我々自身がもっとワクワクして研究開発に取り組むことが大事だと思っています。

展示物の紹介

最後に、今回展示されていたものからエンジニアブログ編集部が選ぶ10点を紹介します。

ハードウェアセキュリティ

Secure Keyboardで大切な情報を守りましょう


オブラン ピエールルイ(技術研究所 システム研究室)

  • 説明:キーボードは、私たちが日常的にコンピューターとやり取りするために使う主要な入力デバイスです。私たちは、パスワードやクレジットカード番号などの機密情報を含む、さまざまな情報をキーボードで入力しています。しかし、悪意のある第三者(企業スパイや他の従業員など)が私たちの入力内容を記録し、その情報を不正な目的で利用することは比較的容易です。
  • ねらい:このプロジェクトでは、私たちがコンピューターに入力する機密情報を保護し、さまざまな脅威から守るとともに、意図した受信者(アプリケーションやウェブサイト)のみがその入力内容を読み取れるようにすることを目指しています。私たちは、インターネットの安全性はクラウドから始まるのではなく、まず私たち自身のデバイスの手元から始まると考えています。
  • IIJにとって:IIJのシステムは、あらゆる種類の悪意ある行為に対して安全でなければなりません。これは会社の持続的な発展にとって極めて重要であるだけでなく、新しいセキュリティ機構を開発することで、IIJに新たな市場機会をもたらし、イノベーション推進の理念をさらに発展させることにもつながります。

レジリエンス

インターネット接続における都市や国の依存関係の解明


田代 マルテ(技術研究所 技術研究室)

  • 説明:インターネットは、世界全体に広がる分散システムです。その物理的な構造は利用者からは見えませんが、ネットワーク運用において非常に重要な意味を持ちます。非効率なインフラは大きな遅延を引き起こし、ネットワークの耐障害性を低下させる可能性があります。さらに、近年の地政学的な出来事も、各国のインターネットインフラにおける地理的依存関係を研究する動機となっています。
  • ねらい:私たちは、ある国が他国の個々の都市にどの程度依存しているかを定量化することを目的としています。大規模なtraceroute測定データを用いて、ルーターインフラを物理的な位置に対応付け、ある国がどのように到達されているかを特定します。これにより、個別の国が特定の都市へ依存している状況を明らかにします。
  • IIJにとって:ネットワーク事業者は、堅牢なインターネットの構築に努めるべきです。本研究は、接続性が十分に分散されておらず改善の余地がある地理的なボトルネックを発見するのに役立ちます。

インフラ

自律分散エッジクラウド構想 Cloud-Morphing


長 健二朗(技術研究所)

  • 説明:研究所の掲げる次世代自律分散エッジクラウドのビジョン。環境に偏在する多様な資源を利用してマイクロサービスを実行、利用パターンに応じて動的に構成が変わっていくエッジクラウドの構想。擬似コストを用いた自律分散資源管理モデルの提案をしている。
  • ねらい:計算と通信が融合する自律分散クラウドのビジョンを構築し共有する。シンプルなモデルを使ってクラウドインフラを仮想化するアーキテクチャを提案する。
  • IIJにとって:インターネットの会社らしい自律分散型のエッジクラウドの構想を提示する。
エンジンルームの内側:Steamコンテンツ配信プラットフォームのインフラ調査


ヴィサル クリストフ(技術研究所 技術研究室)

  • 説明:本研究は、世界最大級のコンテンツ配信プラットフォームであるSteamが、グローバルに配置されたキャッシュサーバとサードパーティCDN間でトラフィックをどのように分配しているかを調査する。大規模なゲームリリース時のスパイクに対し、リージョン間で負荷をどうバランスさせ、Steamのキャッシュが飽和状態に達した際にCDNがどう機能するかを分析する。
  • ねらい:Steamが100GBを超えるゲームを同時に数百万人のユーザに配信する仕組みを理解する。ダウンロードサイズの大きい人気ゲームのリリース時には、トラフィック要求が平時の10倍に達することも珍しくない。ハイブリッドCDN手法を用いることで、耐障害性とコスト削減の両面で何が学べるかを探る。
  • IIJにとって:SteamのハイブリッドCDNモデルは、シンプルだが実用的な耐障害性戦略である。自社エッジインフラを主経路として維持しつつ、複数のCDNプロバイダをオーバーフローとして活用する。Steamは興味深い研究対象だが、その手法は放送業界がライブイベント向けに用いてきた手法と共通する。このアプローチは耐障害性の利点だけでなく、高額なCDNプロバイダを必要な時のみ利用し、平時は自社リソースで運用するというコスト面の利点も示している。
カザフスタンに行ってきたMDC模型がここに! 〜工作室活用事例〜


三宅 早智(ネットワークサービス事業本部 IoTビジネス事業部 技術部 センシングサービス課 兼 技術研究所 研究企画室)

  • 説明:IIJの見えにくいサービスや仕組みを、模型や試作で“見える形”にし、制作も支援する取り組みです。はんだごてや3Dプリンタなどを活用した試作が可能です。
  • ねらい:社内の企画・営業・研究におけるものづくりを支え、アイデアや技術を迅速に具体化できる環境を提供します。
  • IIJにとって:“見える・触れる”ことで説明力を高めるとともに、事業支援の強化と新しいアイデア創出を支えます。業務に加え、個人の発想からの試作も新たな価値の種となっています。

AIと人間

AI搭載のInternet Yellow Pagesで探るインターネットインフラ


フォンテュニュ ロマン(技術研究所)

  • 説明:IIJLABは、インターネットインフラに関する大規模なナレッジグラフであるInternet Yellow Pages(IYP)を運用しています。IYPには、ネットワーク間接続、地理情報、ホストされているサービスなど、数百万に及ぶインターネット関連リソースの情報が収録されています。これらの情報を統合されたプラットフォームとして整理することで、IYPはインターネットがどのような構造を持ち、どのように運用されているのかを包括的に把握できるプラットフォームを提供しています。
  • ねらい:Internet Yellow Pages(IYP)に蓄積されたデータから有益な知見を引き出すことです。Netflixがデータを活用してユーザごとに最適化されたレコメンデーションを提供しているように、私たちは関連する組織を特定し、隠れた関係性の発見、そしてデータに基づくおすすめ情報の提供を実現します。
  • IIJにとって:大量のインターネット関連データを実用的な知識へと変換することで、本プロジェクトはユーザが複雑なインターネットインフラのエコシステムを理解し、効果的に活用できるよう支援します。例えば、ネットワーク事業者は接続戦略の改善に役立てることができ、企業は新たなビジネス機会を発見することができます。
IYP MCP: インターネットイエローページを、LLMにも人にも活用しやすくする


ロイ ジュスタン ロビン(技術研究所 技術研究室)

  • 説明:IIJが開発したInternet Yellow Pages(IYP)は、インターネットに関する最も包括的な知識ベースの一つであり、ネットワーク運用者や研究者によって活用されています。しかし、その対象領域が高度に専門的であり、データが複雑なナレッジグラフとして格納されているため、利用は容易ではありません。ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)からアクセスできるようにすることで、IYPはより簡単かつ直感的に利用できるようになります。
  • ねらい:提案するIYP MCPにより、LLMがIYPから関連情報を取得し、インターネットデータについての質問に回答できるようにすることです。
  • IIJにとって:インターネットは、アプリケーション(動画配信、チャット)、ビジネス(IIJ、Netflix)、インフラ(海底ケーブル、アンテナ)など、複数のレイヤーにまたがって有機的に進化していて、ネットワーク運用者や研究者にとってさえ把握するのは難しくなっています。IYP MCP は、IIJが新規顧客の特定、新たなデータセンターへの接続・参入の検討、競合他社の分析といった意思決定を行う際の支援に活用できます。
「バランスのとれた」コーヒーはバランスがとれてるの?


井上 隆仁(技術研究所 研究企画室)

  • 説明:「バランスのとれたコーヒー」を試飲していただき、その風味評価をご自身の好きなコーヒーのタイプと合わせて記入していただきます。
  • ねらい:同じものを口にした時の風味の感じ方は人それぞれだということ、その違いは好き・嫌いの傾向が影響していることを確認し、風味の表現方法やデータ化の手法を探ります。
  • IIJにとって:感じた風味、もっと広げて感覚を言語化やデータ化ができれば運搬、蓄積、解析が容易になります。解析した結果を基にするとハズレのない生活を送れるようになります。既存の統計学などではなくAIがうってつけの領域でしょう。

ドローン

小さいドローンで遊ぼう!作ろう!


末永 洋樹(技術研究所 研究企画室 ※向かって右手側)

  • 説明:小さいドローンを紹介します!
  • ねらい:ドローンって通販で売ってたりするけど実際に買って遊ぶのにはハードルありますよね?実物を見てハードルを下げていきましょう!
  • IIJにとって:ドローンが絡むビジネスでは、実物の具体的イメージが大切です。大きな業務機を運用するのは大変ですが、小型機で感触を掴むこともできますので、どんなものかを肌感覚で理解してチャンスを探してみてください。

スペシャル

セルオートマトンは楽しからずや (Aren’t the cellular automata delightful?)


和田 英一(技術研究所)

計算機科学の話題のうちで, 基礎知識なしですぐにでも楽しめるのがセルオートマトンである. 今回は私の好きなセルオートマトン: Balzerの一斉射撃問題; Coddの自己増殖システム; Conwayのライプゲーム; Wolframの規則110を紹介する.オートマトンは, 有限個の内部状態を持ち, 入出力を備えている素子で,内部状態と入力の組合せにより, 出力と次の内部状態が決る.

セルオートマトンは, 比較的単純な(内部状態2〜8)オートマトンを直線上(1次元)や平面上(2次元)に並べたもので, 適切な遷移規則により, その状態パターンの時間的変化を調べると面白いことが分る.

セルオートマトンは, John von Neumannが, 1950年代に自己増殖機械の仕組みを研究中, 理論的枠組みの1つとして提案し, その後, 人工生命や動物社会のシミュレーションの基盤として広く使われた.

 

IIJ Engineers Blog編集部

2026年07月10日 金曜日

開発・運用の現場から、IIJのエンジニアが技術的な情報や取り組みについて執筆する公式ブログを運営しています。



・掲載されている情報は公開日時点の情報です
・記事に書かれている意見は、筆者個人の意見が含まれる場合があります
・記事の正確性には細心の注意をはらっておりますが、正確性・有用性につき保証するものではありません

Related
関連記事