Maker Faire Tokyo 2019でイベント無線LANを提供してきましたレポート
2019年12月02日 月曜日
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【IIJ 2019 TECHアドベントカレンダー 12/2(月)の記事です】
こんにちは、IIJ 金子です。
本日は8月に行った、 Maker Faire Tokyo 2019 でのイベント無線LAN提供の様子についてお話します。
はじめに
以前本ブログの「Maker Faire Tokyo 2019 準備レポート 最終回」でもご紹介がありましたが、IIJは本イベントにてスポンサーとして出展するのみならず会場の一部エリアにおいて来場者の方を対象に公衆無線LANサービスを提供致しました。その様子については Maker Faire Tokyo 2019 開催後レポート(まとめ記事)でも軽く触れさせて頂きました。
本稿では、提供したネットワークの設計や構築・運用の様子を図・写真を交えつつお伝えできればと考えております。
これまでのイベント無線LAN提供
本題に入る前に、これまでIIJではさまざまなイベントで無線LAN提供を行ってきました。
その一部については、本ブログでも提供の詳細について紹介させて頂きました。
- JANOG41
- AsiaBSDCon2016, 2017, 2018
- JICS2017
- まるごとみやま秋穫祭
- コミケットスペシャル6
- 第18回文学フリマ
- など
これらのイベント無線LAN提供は、IIJがホストやスポンサーあるいは出展者として関わらさせて頂いた際にその一環として行ってきたという側面もあります。しかしそれのみならず「製品、サービスを実地でアピール」し、そしてなによりも「我々が開発したモノを我々自身で実地で試す」ということを一番の目的として実施してきました。
「自分が自社の製品・サービスの一番のユーザになる」というモットーを核として、より良いサービス・製品に向けた試行錯誤を盛り込みつつ、一方で来場者の皆様に安定したネットワークをお届けすることも両立させる。そういったモチベーションで、新しい技術要素や実験的な機能あるいはサービスのネタなどを盛り込み、我々が開発しているモノを実地でブラッシュアップする機会としても捉えこれらの構築活動に取り組んできました。
イベント環境での迅速な展開を可能にする SACM x SEIL, SA-Wシリーズ
こういった活動の中核として据えているのが、SEILシリーズそしてSA-Wシリーズ、そしてそれらを制御するSACMサービスです。
IIJでは中小規模のオフィスでお使い頂けるゲートウェイあるいは無線LAN アクセスポイント製品を開発しています。
これらの機器は単独で動作し直接的な操作が必要なネットワークアプライアンスとしてだけではなく、IIJが開発したSACM(Service Adapter Control Manager)というマネジメントシステムで集中管理するための”サービスアダプタ”としての仕組みを搭載しているという特徴があります。SACMを利用することで、リモートにある大量の機器でもコントロールパネル(WebUI)から一括で設定・監視・管理を行うことが可能です。
こういった一括管理のしくみは、イベント無線LAN環境のように広い会場にたくさんのルータやアクセスポイントをデプロイする場合にも有効です。後述するように会場内のゲートウェイやアクセスポイントのみならず、クラウド環境との疎通も一括して管理・構成することができます。こういった強みを活かして、先に挙げたような様々なイベントで無線LAN提供を行ってきました。
次節からは今回おこなったMaker Faire Tokyo 2019での提供の様子をお伝えします。
こんな感じでくみ上げていったのだなという雰囲気が伝われば幸いです。
設計
この節では今回の公衆無線LAN提供にあたっての設計について設計図を交えつつご紹介します。
なにはともあれまずイベント無線LANにおいて大事なのは、サービスの提供範囲・エリアを決めることです。今回のイベントでは配線やそのための時間といったリソースの制約から下記の2箇所、講演が行われる「メインステージ」と「Kids & Educationエリア」をターゲットとしてサービスを行うこととしました。
提供エリアが決まったら、次にその範囲を覆えるようにアクセスポイントの配置を考えます。今回、アクセスポイントとしてはSA-W2を利用しました。
配置にあたっては単純にAPが置ける場所というだけでなく、上図における円のようにAPとクライアントが一定の品質で通信できる範囲を合わせてエリアをカバーできるような配置を考えます。SA-W2に搭載されているのは全方向性アンテナであるため、ここでは半径10〜15m程度の円を想定しています。実際にはもっと遠くまで電波は飛んでしまいますが、無線LANとしては各APではこの範囲をターゲットとしてクライアントとの高転送レートでの通信をサポートできるようベース転送レートであったり、クライアントスクリーニング機能のRSSIといったパラメータを調整します。
こういった通信品質の面でベストな配置設計という観点も重要ですが、イベント本体の邪魔をせずかつ安全確保ができる設置設計という観点もそれ以上に重要です。イベント主催者様が利用するパーティションやセミナースペース向けの机・椅子、あるいは音響設備であったりスポンサー各社様のブースなど、会場にはさまざまな像作物や設備が立ち並ぶことになります。それらの間を縫いながら最適な配置の検討を重ねます。
アクセスポイントの位置が決まったら、次はPoEスイッチやインターネットに出て行くためのゲートウェイの配置、そしてそれらの間を結ぶケーブルの這わせ方を考えていきます。今回は大きく2つのエリアに対して提供することとなりました。このためそれぞれのエリアにてハブとなるポイントを設け、そこから分岐するような構成となっています。このハブポイントは電源が確保でき上流回線が引ける位置に制約されるため場所の確保にあたってはイベント主催者様との調整が必要です。
最終的なネットワーク図は以下の通りです。ゲートウェイにてVRRPで冗長を取っている以外は大変にシンプルな構成となっています。
今回はゲートウェイとして、最新機種である SEIL/X4 を用いました(SEIL/X4についてはエンジニアブログでも紹介させていただいておりますのでご参照ください)。
SEILシリーズあるいはSA-Wシリーズを用いてイベント無線LAN提供を行う場合には、このまたとない機会にあたってなチャレンジ要素を盛り込むという方針を掲げています。今回もその例に漏れず、片方(onsite-gw-01)では当時開発中であったNetFlow機能を載せたトライアル版を用いてトラフィック情報の収集をしつつ、もう一方(onsite-gw-02)では安定稼働のためにリリース版で堅実に組むといったメリハリを付けた運用を行っていました。
なお上図には現れていませんが、会場側機器以外にもIIJ GIOのクラウド上に構築したイベント無線LANクラウド環境が存在します。SNMPによるメトリック監視やsyslogの収集を行うサービス群、たとえばzabbixやElasticsearch、Kibanaなどはこの環境に常設・運用しています。
このクラウド環境のゲートウェイには会場側機器と同じくSACMで管理されたSEIL/x86を用いています。監視サービスと会場との疎通を取るためにIPsecによるトンネルを張り、syslogなどのマネジメントトラフィックはそこを経由して会場がどこであろうとデータが収集できるようにしています。このIPsecにはIIJで開発したフロートリンク機能を用いており、会場側がどんな環境であれフロートリンクさえ動けば設定をこねくりまわすことなく簡単に疎通が確保できるような構成をとっています。会場側と独立したクラウド環境とフレキシブルなIPsecトンネルを活用した構成により、会場へはサーバなど移動による故障が怖い機材を持ち込むことなく手軽にホットステージと本番との切り替えを行うことができます。
これらの構成にはSACMのテンプレート機能を活かしており、会場側でも上流がPPPoEであれDHCPであれモバイルであれ対応できる様々な会場環境を想定したテンプレートをこれまで作り上げてきました。それらを活用することで会場とクラウド環境のネットワークをまるっと通しで管理でき、簡単に疎通が確保できるというのがこのSACMを使った構成の強みでもあります。
事前現地調査
上述のように配置や配線、ネットワーク設計を通して本番までの詰めを行っていくわけですが、机上の設計でどれだけ完璧を目指しても現地に実際に展開する段になって初めて「やっぱりここは通せない」といった様々なトラブルや想定外に直面するものです。特に物理レイヤに近いものほどこの傾向にあります。こういったトラブル、想定外を早めに取り除きサービス提供がままならなくなってしまうリスクを減らすために、展開先の物理環境に対する事前の現地調査は欠かせません。今回も事前に電波環境の調査や、配線が可能な場所や障害の調査を行っています。
無線という目に見えないメディアでサービスをするにあたり、その場の電波状況を知っておくことは欠かせません。もちろん来場者の方々が持ち込むデバイスなど本番にならないと分からない変動要素も多々あります。しかしその場に設置されている公衆無線LANのアクセスポイントなどについては現地でサーベイをすれば把握することができます。また同じようにたくさんの来場者や出展者がいるようなイベントに潜り込めば、前者についても”人が多いとこうなる”といったおよその傾向については把握することができます。
そういった目的で、同じくビッグサイト西3, 4ホールで開催されていたとある展示会に事前に潜り込んで簡単なサーベイを実施しました。本番でも他のAPが使っていそうなチャネルを調べるため、会場内の主要ポイントにて各チャネルでのAPの数やエアタイム使用率を記録しました。本格的なサーベイの場合、地図と連動しつつ記録できるようなアプリケーションを用いますが、ここではUSBスペクトラムアナライザとスキャナーアプリケーションを組み合わせた簡単な仕組みで行っています。
計測ポイントは上記のC1といったマーキングがされている場所です。厳密に調べることではなく、掴みを得ることが目的であるためこのようにかなりざっくりしたポイント設定となっています。
下記は、ある計測ポイントでの計測結果です。
5GHz帯にて100-112チャネルの80MHz幅のAPがおり、W52あたりは出展者やモバイルAPなどで埋まっているのが見て取れます。W53やW56は比較的空いているようです。こういった電波状況の情報とSSIDやBSSID(MACアドレス)といった無線LANの情報とを突合すると、チャネル使用率を占めているのが施設が提供しているものやキャリアWi-Fiのように固定的なAP設備なのか、モバイルAPのような移動する設備なのかを識別することができます。
こういった情報をもとに運用上避けるべきチャネル、そしてそのエリアに置かれるAPで活用できそうなチャネルの範囲を決めていきます。
実際にはレーダー波によるDFS(Dynamic Frequency Selection)によりチャネルの移動が発生しうるため変動要素は残りますが、干渉について一番リスクの高い部分を把握しておくことで現地に入ってチャネルの調整を始めるといった作業をせずに済みます。
電波状況以外にも、会場での配線がどうできるのかといった環境把握も欠かせません。イベント無線LAN提供の際の配線は養生と合わせて床上にそのまま行うことが大半です。しかし今回は大きなホールの中央部も含めて配線しなければならず安全面の考慮も必要であるため、地下ピットを使うという方針を採りました。しかしピット内部がどうつながっており、どこから引き込みや落とし込みができるのかは地図データを見ていてもあまりピンと来ません。このため、事前調査で会場を見回った際には下記のようなピットの写真の収集や位置の把握も実施しました。
実は存在しないあるいは使えないピットがあったりすると配線設計に大きな変更が必要となります。前述の通りこういった「想定」と「現地」との差異を埋めるのが現地事前調査のポイントです。これ以外にも会場内の距離感、例えばピットと近くの壁との実際の距離を知るということも重要です。図面上では「この距離なら養生すれば歩行者向けの安全対策は大丈夫だろう」と想定していても、実際に見てみると「思ったより離れていて経路として良くないな…」と設計変更につながる場合があります。
現地で使えそうなリソースや配線経路についてもつぶさに見ていくことも現地調査では重要です。配線の多くは足下に行うため下に目線が向きがちですが、たまには目線を上に向けてみるといいことがあります。
今回の会場の天井部にはいわゆるキャットウォークがあります。また下の写真ではそこへ向かうための階段設備がせり出しているのが見て取れます。安全面での十分な考慮、そして施設管理者様との調整が必要ではありますが、こういった箇所にAPを設置可能な場合があります(実際にキャリアWi-Fiのアクセスポイントが設置されていました)。さすがに来場者の頭上直上への設置は危険ですが、活用できるリソースとして配線・配置手段の一助になる場合があるので現地調査時に少しでも気になったものはメモ・撮影しておくとよいでしょう。
今回は前日に再度現地調査が可能であったため、実際にピット蓋を開けてきちんと想定通りの経路でつながっているかの確認も行いました。
蓋を開けて使う箇所には上図のように、今回配線作業をお願いしたネットチャート社の持っていた「現用」シールでマーキングし、AP行きの線を出す場所にはそのホスト名を養生テープで書き当日に備えました。
またこのときピットの蓋を開けるのに必要な道具の情報も仕入れ、近くのホームセンターで急遽調達してきました。一番役に立ったのは手前の先端がカーブしたチゼルです。マンホールリフター(オレンジ色の取っ手の治具)なども用意しましたが、こちらは長さとフックの角度に難があり活用しきることができませんでした。
ピット蓋はマイナスドライバでなんとか開ける、施設管理者の方に借りるなどいくつか手を考えていました。しかし前日調査の際に実際にやってみたところ、これが意外と大変であることがわかりました。展開当日は配線作業が同時並行で走ることを考慮すると、マイナスドライバよりも簡単に開けられる道具があった方が効率が良いということが分かりました。JANOG41の際は「ショックレスハンマーとS字フックを持っておけばよかった」と書かせて頂きましたが、このように道具においても想定外が発生するものだと改めて認識しました。
ホットステージ
これまで述べてきたような設計の詳細詰めそして現地調査と並行して、催事日の2週間前あたりから「ホットステージ」と呼ばれる仮組みの期間が始まります。
実際に会場上流と同じフレッツ回線を用意して、全ての機材を一通り接続し設計がデプロイできることを確認します。
(ごちゃっとしていますが…)オフィスの片隅でこのように機材を積み上げ、機材間の接続環境を本番と同じ構成にした上で来場者を模擬したトラフィックが正しくインターネットまで抜けていくことを確認します。
ゲートウェイそしてAPの基本的な設定はSACM上でイベント無線LAN向けとして作り上げてきたテンプレートに沿って、イベントごと機器ごとのパラメータを埋めるだけで完了します。
あとはその間を結ぶスイッチを設定し、使うポートがそれぞれ正しい設定になっているか、APが正しく無線LANをサービスしているかを見ていきます。
APのそれぞれにきちんと接続でき、正しいアドレスが振ってくるかを確認するのは特に重要なチェック項目です。APは会場内に分散して配置されるため、実はそのうちのどれかがおかしいということに気づかずに展開してしまうと、特定エリア・APだけ通信しづらいといったトラブルに気づくのが遅れてしまいます。このためユーザセグメントと同じVLANにブリッジする、機器に固有のSSIDを設定してそれ経由で全数チェックを行うといった工夫をしています。ここで言う”機器固有のSSID”とは例えば”test-ap-01″、”test-ap-02″といったものです。これらは本番では隠すor無効化します。こういったものを用いて網羅的にテストすることで抜け漏れを防ぐことができます。
また時間があれば、全ての機材の電源を一旦抜去して立ち上げ直してみるのも良いでしょう。再起動後にネットワークが正常動作しないケースが稀にあり、現地に機材を持ち込んで火を入れたら「なんで上がってこないんだ?!」とてんやわんやする可能性があるからです。コンフィグの全部・一部保存し忘れ、なんらかのコンポーネントの依存関係が前提となっていたなど思わぬ伏兵が潜んでいる場合があります。こういった可能性の排除のためにも一度は落としてみるとよいでしょう。
会場側ネットワークができあがりつつあるタイミングで、クラウド環境上の監視サーバ群も設定し会場側機材との疎通やデータ取得ができているのを確認します。
今回の監視サービスでもJANOG41 Wi-Fiチーム報告書3(運用監視ツールの紹介)でご紹介したものと同じく、MachinistやSA-W2 無線LANコントローラ、elasticsearch+kibanaやzabbixなどを用いました。今回はSA-W2からIIJ Machinistサービスに対して直接クライアント数といったメトリックを送り可視化するといったことも行っていました。下記はイベント開始直前のクライアント数をMachinistのカスタムチャート機能にて積み上げ面グラフでプロットしたものです。
今回はDIYが主題のイベントということで、アクリル板を使ってSA-W2用の吊り下げ治具を作るといったことも行いました。
展開
事前調査を受けてブラッシュアップした設計、ホットステージで構築した”動くはず”の機器を実際に会場に持ち込んでサービスインするまでが「展開」のフェーズです。
展開(そして撤収)作業は時間制限がタイトなこともあり、タイムマネジメントが重要となります。今回の展開・構築作業はネットワーク機材設置と確認をIIJにて行い、配線作業はネットチャート社に協力頂きました。この2者が上手く連携して動けるよう、スケジュール(下図)についても設計・調整を行った上で展開に臨みました。
図中にもありますが、イベント無線LANの展開フェーズでの作業には大きく以下の5つの仕事があります。
- APの設置
- 配線
- コアネットワーク立ち上げ
- 疎通テスト
- 監視系サービスの正常性確認
これらの作業をサービスインまでに完了させる必要があります。
APの設置
AP設置の手軽さのため、これまで我々が携わってきたイベント無線LAN提供ではSA-W2を譜面台や椅子に設置するという方式を採っていました。
セミナー形式など着座の方が多い会場では十分なAP設置高を稼ぐことができ、部材も少なく済むため手軽な方式でした。しかしMaker Faire Tokyo 2019のような展示会場では、主たるユーザの方々は起立あるいは歩行中であることが大半です。良好な通信環境を実現するためには、譜面台よりももっと高い位置に設置することが求められます。今回は主催者様にポスター用L字フロアスタンドをご用意頂きました。それと組み合わせる治具を自作することで、最大2m強の位置にAPを設置することができました。一定重量以上の機材では安定性に問題がありますが、SA-W2は比較的軽量だったためちょうどこういった環境で用いるのに都合のよい設置治具となりました。
もともとフロアスタンドとはS字フックで取付をする予定でいましたが、実際に試してみると滑りやすく安定性に問題があることがわかりました。S字フックでは跳ねてしまったときに落ちる危険性や、角度が上手くつけづらいという問題がありました。このため、急遽細いタイラップを用意しそれを用いてスタンドと固定することにしました。以下はAPの背面から見た固定の様子です。S字フックを通すはずだった孔にタイラップを通し、さらにポスター用のクリップで固定しています。
NOCブースにてまとめてAPセット(AP+フロアスタンド)を作ったら、これを実際に設置する場所に持っていきケーブルと結線します。余剰ケーブルは邪魔にならないように、そしてなによりも万が一にも来場者の方が足を引っ掛けてケガをさせてしまうといったことがないようにスタンドの足下にコンパクトにまとめて固定しました。
スタンドを用いることでAPは以下の通り、2m強の高さに設置することができました。PoE用のイーサネットケーブルは、支柱に巻き付けることで見栄えが悪くならないようにしています。
一部APについてはさらに高さを稼ぐために、イベント主催者様側にて敷設された造作物にS字フックで取り付けていました。
SA-W2以外にも、中距離をカバーできるAPとしてGoNet Systems社のGoBeam8000を持ち込んでおりました。こちらについては、キャットウォーク行きの階段の支柱に間接的に取付を行いました。
配線
JANOG41に引き続き、配線作業はネットチャート社にご協力頂きました。
安全面の配慮から、今回の配線経路は下図にあるように地下ピット経由を主としています。このピットに800mに及ぶイーサネットケーブルを4時間で敷設するにはやはりプロフェッショナルのスキルが必要と考えたためです。
下記のようにピットから立ち上げたところを境に役割分担し、機器への接続についてはNOCメンバーにて行いました。
大部分をピット経由にすることで人の導線を可能な限り避けることはできました。しかしAPとピットからの立ち上げポイントとの間など、どうしても地上を這わさざるを得ない場所もあります。そういった場所では以下のように、養生テープを使った養生を施しました。虎柄テープをメインに用いていますが、特に人通りの多い場所ではテープだけでは弱い可能性を考慮してゴム製のケーブルプロテクタを利用しました。
コアネットワークの立ち上げ
APの設置・配線作業と並行して、別のチームではルータおよびスイッチといったネットワークのコア部分の立ち上げを行います。
まず取りかかるのは上流回線(今回はフレッツ)の疎通確認とスピードテストです。
この部分で性能が出てくれない、RTTが大きいあるいはパケロスが多いとなると会場側全体の性能に影響するため、回線品質は真っ先にチェックすべきポイントです。
また今回はVRRPのためにPPPoEを2セッション消費する設計となっています。これが実現できるかの確認のため、ゲートウェイ装置2台がそれぞれPPPoEセッションを張れているかも要チェックです。
万が一、1セッションしか張れなかった場合でも構成を大きく変えずに済むように疑似PPPoEサーバを立てて収容するといった次善の策も検討・準備をしていました(下図)。
SEILのPPPoEリモートアクセスサーバ機能を使うことで、onsite-gw-01, 02にはなんの変更もなく2セッション張れたかのように振る舞わせようというわけです。幸いにして用意頂いたフレッツ回線では2セッション張れたため、この構成を取らずに済みました。
ゲートウェイ部分ができあがり次第、直下の集約スイッチおよびPoEスイッチについても立ち上げ&結線を行います。ここでPoE給電が始まると順次APが上がってくるため、SACMの画面で異常な機器がないかもチェックします。
なお上図ではまだ立ち上げ作業中であるためごちゃっとしていますが、NOCブースも見世物であるため最終的には以下のように綺麗に整えておりました。
テスト&チェック
AP、ケーブルそしてネットワークが整いサービスインまであと一歩、最後は実際に会場でネットワークが使えることのチェックです。
NOCにネットワーク確認用のメンバーを残し、チェックするチームは会場の各地に散らばります。行うのは各APに接続できること、そして各エリアで無線LAN経由で通信できることのチェックです。スマホやノートPCなどのクライアント端末を片手に、ホットステージ同様にAP固有のSSIDに接続して正しく動作しているかを確認したり、公衆用のSSIDに接続してサービスが正しく使えるかを確認します。
単純に接続・通信を確認するといってもSSIDに接続してWebブラウジングをしてはいおしまいとは行きません。まず、正しいセグメントにつながっているか、想定されたアドレスが割り当たっているかを見る工程は欠かせません。稀にどこかの機器でVLANを設定し間違えていると、マネジメント用セグメントのアドレスが降ってきたりと取り違えがおきたりする場合があります。また無線LAN経由でインターネットに出て行けているかをきちんと確認することも重要です。特にスマートフォンでは”3G/LTEではなく無線LAN経由で通信していることが確認できる”手段を用いてこれを行う必要があります。稀に「通信できた!」と思っていても実は3G/LTE経由だった、ということがあります。大抵のスピードテストサイトではクライアント側のアドレスを表示してくれるため、下記のように一発走らせれば充分ではあります。
クライアント観点でのエンドツーエンド試験と並行して、改めて会場の電波状況のサーベイも行います。
今回は海に近いという地理的要因もあってか、一部チャネルにてDFSが頻発しているのが確認されました。事前現地調査でのサーベイ結果をもとに、チャネルについてはこのタイミングで再調整をかけます。
ここまでのテスト&チェックが完了すればいよいよサービスインです。
展開時の事件簿
サービスイン後のお話しをする前に、ここでは今回の展開時の「想定外」についてお話しします。
想像以上の暑さ
奇しくも展開日の8/2は好天の真夏日。そして搬入作業などのためシャッターが開放されており、直射日光こそないものの会場はほぼ外気温と同程度の室温となっておりました。このためNOCメンバーも配線チームも休憩をちょくちょく挟み体調、特に熱中症に注意しながらの展開作業となりました。
イベント無線LAN提供というと屋内に閉じた環境が多く、これまで作業環境の温度というのをそこまで気にしたことはなかったのですが今回はこれがダイレクトに響いた形となりました。配線作業チームには空調服を持っていらした方もおり、NOCメンバーの中ではこれを機に空調服を買ってしまおうかという話も上がっていたりしました。
イベント主催者の方は更に大変だったと思いますが、我々NOCとしても気温という要素について考慮すべきという学びを得た環境でした。
PoEインジェクタ+PoE受電ハブによる延長策 → NG
ネットワーク設計の部分で2つのハブポイントというお話しをしましたが、その間を結ぶケーブルにて長さという問題がありました(下図)。
素直に結線すると110m程度となり、イーサネットの規格上限である100mを超えてしまいます。中継用のスイッチを挟みこむ構成も考えましたが、電源の都合上これは取ることができませんでした。このためPoE受電ハブ(hubpoe-01)を挟み込み、NOC側のPoEインジェクタで給電することで駆動する構成を取りました。PoE受電ハブ自体は小形のため、ピット内に埋めてしまえば事実上ケーブルを延伸したのと変わらないと考えてのことだったのですが、これが失敗でした。
各ポイントでのAPの疎通テストを行っている時に、”なぜかメインステージに設置した(スイッチ配下の)APで異常にスループットが低いという報告が上がりました。
スイッチを取り外したり受電ハブを外しつつ切り分けを行った結果、原因は良く分かりませんがPoEインジェクタによりスループットが下げられていることが分かりました。
最終的にはPoE受電ハブおよびインジェクタを外し、RJ45 JJコネクタで直結しフレームエラーを許容する構成に切り替えました。
運用
サービスインした後は、設備やサービスの定期的な巡回チェックやNOCブースでの運用・監視を行いました。今回NOCブースは、宣伝スペースや無線LAN利用者の方々向けのサポートデスクも兼ねていたため張り付きで人を配置し対応にあたりました。
見回り
一度敷設した配線や養生は時間が経つにつれ劣化するものです。またイベント無線LAN環境は会場内に分散しているため、これらのチェックや補修のために見回り巡回は欠かせません。またユーザは無線という監視しづらいメディアを用いて通信しているため、この観点でもユーザと同じ場所・環境に赴いての通信テストを定期的に行うことが欠かせません。
定期的な巡回のためのシフト(下図)を組み、通信のチェックといったユーザ観点でのテストからケーブルの乱れや養生の不足・劣化といった物理インフラのチェックまでを持ち回りで実施しました。
結果についてはチャット経由でNOCメンバー内に共有および記録を行っています。
たとえば期間中、下記のようにAPの周囲に来場者の方が密集している場所がありました。
万が一にも転倒してケガ人を出してしまうことのないように、こういった場所には養生・固定の強化を追加で行い安全確保に努めています。
NOCでの運用・監視・展示
今回NOCが詰める場所、いわゆるNOCブースは展示もできる場所として割り当てて頂いておりました。これを活用し「見えるNOC」として運用監視をしつつそのネットワークの様子を来場者の皆様にお見せする活動を行いました。
IIJにてイベント向け公衆無線LANを提供している旨のパネルとともに、そのネットワークの構成や運用状態についてもディスプレイを持ち込んで可視化していました。向かって左の画面はSA-W2無線LANコントローラにてクライアント数分布のヒートマップ、左のディスプレイではSEIL/X4 NetFlow機能によるフロー情報です(下図)。
NOCメンバーではzabbixなどを用いたトラフィック量のチェックやSACMを用いた機器状態の監視以外にも、イベント無線LAN環境固有の需要として地理的なクライアント接続数の偏りやクライアント毎のトラフィックの可視化と監視を行っています。
これらの展示はMaker Faireの、ハードウェアを主体とした物作りとは若干色の異なる内容でした。しかしそんな中でも興味をお持ち頂いた多数の方にお立ち寄り頂きました。
運用しつつ、より多くの利用者を引きつけられるようにPOPの追加作成や改良なども行っておりました。
撤去
半日かけて構築し2日半にわたって運用していたネットワークもイベント終了とともに撤去・撤収を始めなければなりません。撤収についても前述の展開と同様にスケジュールを組み、チーム分けを行いデータ保全やコアネットワークの撤去、AP・ケーブルの回収などを並列して進めていきます。
特に会場にばらまいたAPについては、ケーブルや養生に用いたテープを含めて広いエリアから回収作業を行う必要があります。イベント主催や展示者の方々の撤収・撤去作業も並行して行われるため安全面には充分に注意しつつ作業を進めました。
最終的には前倒しで作業が進み、19:30には全ての作業が完了し退去となりました。
おわりに
本稿では、Maker Faire Tokyo 2019でのイベント無線LAN提供の設計や構築・運用の様子についてご紹介しました。
IIJでは前述の通り製品・サービスのよりよい形の模索のためイベント無線LAN提供における実証実験という取り組みをしております。
またいずれかのイベントでお見かけ頂いた際にも是非お役立て頂ければ幸いです。