農業IoT始めました

2017年12月11日 月曜日


【この記事を書いた人】
齋藤 透

自社開発ルータ「SEIL」や集中管理システム「SMF」などの開発を手がけ、2015年から電力小売自由化に向けたプロジェクトに参画。2017年から農業IoTを始める。その他にもSDNや認証、LPWAなど面白そうな技術にとりあえず首を突っ込んでいます。

「農業IoT始めました」のイメージ

IIJ 2017TECHアドベントカレンダー 12/11(月)の記事です】

IIJの齋藤と申します。農業の話をします。

IIJで農業?

IIJ IoTサービスが始まり、色々な案件が増えてきました。その中で、たまたま農水省の方からお声がけがあり、「無線でセンシングできる安い水田センサを作りたいんだけど、IIJさん興味ありますか?」という話から、農業IoT参画への道のりが始まりました。

水田というのは、日本でもっとも規模の大きい農業分野です。最初は素人でしたが、調べていくうちに、色々と面白さ(と、難しさ)が分かってきました。ものすごくざっくり分類すると、水田で米を作るのに必要な作業は以下に大別されます。

この中でも、ドローンや大がかりな機械に頼らず、センサを中心として効率化可能なのが、水管理です。米作りにおいて、水管理は極めて重要です。実際の水管理のスケジュールは(これもだいぶざっくりですが)以下のような流れになります。時期によっては水を入れたり抜いたりしないといけません。もちろん、田んぼによって水の減り方も違いますし、雨や風など気象条件も考慮に入れる必要があります。

これってどういうことかというと、「IoTによって解決すべき課題が目の前にあり、実現すべき手段も明確」ということです。巷のIoT業界では、「PoC貧乏」なる言葉も良く耳にします。とりあえず予算つけてみたけど、結局何がしたかたったのか良く分からない「IoTって言いたかっただけちゃいますの?」という案件ではなく、こと農業については課題が非常に明確です。農家の方に話をきいても、次から次へと要望が出てきます。そういう意味では非常に楽しい分野なんだということに気づきました。

ただ、農業用語についていくのが当初は大変でした。。

研究委託事業を受託

委託事業の正式名称は、平成28年度農林水産省補正予算事業「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)」となります。IIJは研究コンソーシアム「水田水管理ICT活用コンソーシアム」を形成して研究課題「低コストで省力的な水管理を可能とする水田センサー等の開発」に応募し、採択。平成29年度から3年間の計画で農研機構生研支援センターの支援を受けて研究開発を進めることになりました。

この研究課題での公募要領は、ざっくり言うと「水管理に係るコストを1/2程度削減する」というものです。このコストは金額面もそうですし、時間面も対象です。これを実現するため、以下の4つを開発していくことになります。

水田センサーの開発

  • 水位と水温を測定可能
  • 販売価格1万円程度

自動給水弁の開発

  • 重力式低圧パイプライン向け
  • 販売価格3~4万円程度

無線基地局の設置

  • 2km以上通信可能
  • メンテナンス・設置が容易

アプリ

  • システムに容易にアクセスできるスマートフォン等のデバイス用アプリ

上記は、研究公募課題からの抜粋ですが、「販売価格が明記されている」点がポイントです。言い換えると、現状の農業IT用の各種センサデバイスは、どうしても高価なものが多く、農家が気軽に購入できるようなものではない、というところが問題になっているわけです。

コンソーシアムで活動

本研究活動は、IIJだけではなく、農業に知見のある多くの皆様に参画いただき、研究コンソーシアムを構成しています。コンソーシアムのメンバとそれぞれの役割は以下の通りです。農業経営体(農家)さんが直接入っているのがポイントです。我々が製品開発している中で、ユーザとなる人と直接一緒に仕様を考えるという経験はこれまでほとんど無かったので、とても新鮮です。定例会は、IIJの飯田橋オフィスでやったり、静岡県の農林事務所でやったりと、様々です。

会社
担当
IIJ 水田センサーの開発、LoRa基地局及びクラウドインフラ提供
(株) 笑農和 自動給水弁の開発、アプリの開発
(株) トゥモローズ、
静岡県、
農業経営体
センサーの最適配置、水管理コストの測定等の現地実証及び研究

我々が製品開発している中で、ユーザとなる人と直接一緒に仕様を考えるという経験はこれまでほとんど無かったので、とても新鮮です。

水田水管理システムの構成

開発するシステムの全体像はこのようなイメージです。今回は、LPWA技術としてLoRaWANを採用することにしました。また、水田センサを300個、給水弁を100個作ります。全体で400個のデバイスを作るというかなり大がかりな実証実験となります。データを蓄積するバックエンドシステムには、IIJ IoTサービス、LoRa基地局からはバックホールとしてLTE回線を用いています。

デバイス開発の道のりとオープン化へ向けて

何と言っても、「水田センサの販売価格1万円」「自動給水弁の販売価格3~4万円」というのは非常に厳しいハードルです。もちろん、ただ安く作ればいいというものではなく、水田という極めてアナログな環境で、安定して精度の高い測定が可能である必要がありますし、それなりに耐久性も求められます。

ということで、たとえばこんな感じで地道に実験しながら、開発しています。「泥水でもきちんとはかれる水位センサ」もしご存じでしたらむしろご紹介いただけると嬉しいです。

そして、開発したシステムについては、何らかの形で標準化を目指したいと考えています。地域のITベンチャーや、自治体、大規模営農法人の方々とも連携し、エコシステムを構成していくのが目的です。

newspicks でコメントたくさんいただきました

つい先日、IIJでIoTの事業説明会を記者の方向けに行った際、農業の取組を紹介したところ、それが記事になりまして、newspicks やTwitter等でも非常にたくさんのコメントをいただきました。切り取り方が「もうからないのが一番の問題だ」という記事だったため、ちょっと色々と賛否両論出てしまう形になってしまいましたが、本業の方からも非常に有意義なコメントをいただけて、私としてはラッキーでした。やはり関係者の問題意識は非常に高いということが分かります。

ただ、我々としてもすぐに儲ける何かを作るということではなく、じっくり時間をかけて、本当に意味のある技術開発をしていく必要があると考えています。個人的には儲けるためではなく、農家の未来のためにやっている、という気持ちが一番のモチベーションです。

また、もし、オープン化の促進や地域での展開に興味がある方がいましたら是非弊社までお気軽にご連絡ください。

齋藤 透

2017年12月11日 月曜日

自社開発ルータ「SEIL」や集中管理システム「SMF」などの開発を手がけ、2015年から電力小売自由化に向けたプロジェクトに参画。2017年から農業IoTを始める。その他にもSDNや認証、LPWAなど面白そうな技術にとりあえず首を突っ込んでいます。

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