IIJとインターネット
2019年12月07日 土曜日
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【IIJ 2019 TECHアドベントカレンダー 12/7(土)の記事です】
こんにちは、ネットワーク技術部の蓬田 裕一です。
今回はIIJとインターネットとの関わりについてご紹介したいと思います。
みなさん、インターネットつかってますか?このブログをご覧になるためにもスマホやPCからインターネットへ接続していると思います。
本当に普段の暮らしに密着し、私たちの生活にも趣味にも欠かせなくなったインターネットってなんだろう?
そんな答えの一つを掴んでいただけたら幸いです。
インターネットってなに?
インターネットが便利すぎて調べ物をするときはすぐにググっちゃいますよね。というわけで早速みんな大好きなWikipediaで検索してみましょう。
インターネットとは、インターネット・プロトコル・スイートを使用し、複数のコンピュータネットワークを相互接続した、グローバルなネットワーク(地球規模の情報通信網)のことである。 出典 from Wikipedia インターネット
これだけでは何がなんだか具体的には分かりませんが、ここでいう複数のネットワークを相互接続した地球規模の通信網であるというところはまさにその通りなのです。
インターネットへ参加しているネットワークにはAS(Autonomous System)番号とよばれる背番号が世界共通で割り当てられており、接続には必須となっています。
「え、私AS番号なんて持ってない」と思われたあなた、なかなか鋭いですが、あなたも必ずどこかのAS番号持つ組織に所属し、インターネットへ接続しています。その組織があなたの通信をインターネットへと運んでいるのです。
IIJも企業や個人をインターネットへ接続するお仕事、ISP(Internet Service Provider)事業を営んでいます。 それは、インターネットの一角を担っているからできることであり、みなさんの代わりにデータを他のネットワークに届けたり受け取ったりする役割を果たしています。これを「インターネットへの接続性を提供する」といいます。みなさんがインターネット使用料として毎月支払っているISP料金はまさにこの接続性を提供するためにかかる料金なのです。 普段の生活からは少々わかりづらいですよね、ですが我々にとっては設備を維持するためにとても重要な費用なのです。
話は逸れましたが、インターネット接続にはあとIPアドレスというインターネット上の住所情報が必要になります。このIPアドレスを経路情報(複数のIPアドレスをアドレスブロックとして集約し、そのアドレスブロックへたどり着くための道順を経路情報として表します)として集約し、プロトコルとしてはBGP(Border Gateway Protocol)という経路情報の交換の仕組みを使ってお互いのネットワーク情報をやり取りしています。
「相互接続をする」とはBGPでお互いのネットワークを接続するということになるのですが、特筆すべきこととして、経路を交換し通信するためにはお互いのネットワークを物理的にケーブルで接続しなければいけません。「え、IIJさんはインターネットに参加しているすべてのネットワークと物理的に接続しているの?」と思われたあなた、なかなか鋭いですが、YesともNoとも取れます。もちろん、すべてのASと物理的に接続はしていませんが、全てのASの経路情報(フルルート)を持っています。そしてインターネットは自分たちと物理的に接続していない宛先についても他社のネットワークを経由しながら通信をすることが可能です。世界中のASが同じプロトコルを使用し、決められた方法に従っているため実現できていることなのです。 改めて思いを馳せると壮大ですごいことだと思います。
そして実はこれが、インターネットの素晴らしいことでもあり、困ったことでもあるのです。
IIJとインターネット
IIJもインターネットという巨大な仕組みに参加し、みなさんの通信を運ぶお仕事をしています。そして、みなさんの通信を運ぶ上で品質を常に気にしています。
インターネットの品質の考え方として、動画を見ていて突然とまってしまったり、SNSに投稿するためにいつまでも写真のアップロードが終わらなかったり、VPNがよく切れたり、というような事象が見られるといわゆる品質が悪いということになります。品質が悪くなる原因はいくつかあるのですが、一般的には以下のようなことが考えられます。
- 通信帯域が足りない
- 実際に故障している
- 最適な通信経路ではない
1.については通信機器にしても、回線にしても1秒間に運べる通信量が決まっています。転送能力を超えた通信が発生した場合は処理が遅れたり、パケットを破棄したりするので、正常な通信が出来なくなります。帯域不足が起こらないように適切な増強を日々検討、実行しています。
2.については機器の故障や不具合で正常に通信が出来ない場合を指します。IIJのネットワークも故障に備え自動で通信を迂回する仕組みや設備を冗長構成で構築する等して品質を担保しています。
- については今回のブログの内容に関連してくるため、少し詳しく説明していきます。
インターネットの通信には常に送信元IPアドレスと宛先IPアドレスが存在しています。送信元から宛先までの経路を選択することをルーティングと呼び、ネットワークを語る上では欠かせない要素となります。 ルーティングの本質は膨大な経路情報から宛先までの最適な送信先を見つけることです。ただ、先程の3.で述べている最適な経路を選択しているにもかかわらず、実際には品質が悪い状況が発生してしまいます。 もちろん経路情報がそもそも間違っており、正しい宛先を選択できないということは発生しうるのですが、ニュアンスは少し違います。 どういうことかというと、ルーティング的には最適な経路を選択しているが、物理的にはすごく遠い場所を経由している状況が発生してしまうことがあります。他ASとはお互いに物理的に接続しているため、その接続点の場所や距離が要素として関わってきます。
実際にあった話では、IIJを経由すると中国との通信が遅いとクレームが入ったことがありました。切り分けを行っていくと、中国への通信がなんとアメリカを経由していたということがありました。地図上では日本と中国は隣国で、直線の距離だと東京-上海間は1700kmほどだそうですが、アメリカを経由すると16000kmほど足されることになっていました。事象が発生する理由としてはいくつか考えられます。もともとは対象ASへの最適な経路として日本国内の接続ポイントが選択されており、通常の通信は遅延が少なく行えていましたが、メンテナンス等で日本での接続が切断され、最適な経路が再選択されアメリカ経由になったという場合です。IIJ内部での経路調整に不都合があればIIJ自身で適切な修正を行います。しかしながら、対向ASの制御により対向ASからIIJへの通信に不都合がある場合もあると思います。そういった場合は、対向ASへ制御の調整をお願いすることになります。経路選択は最適でも遅延が発生する、まさにインターネットを感じられる事象だと思います。
他ASとの接続
そこで重要になってくるのが他ASとの関わりです。ここではその接続方式についてお話しします。
一般的にインターネットに参加している組織の接続形態として、トランジット(Transit)とピア(Peer)があります。 それぞれ簡単に説明すると、トランジットとは接続する側がお金を支払い、接続される側がフルルートを渡し、接続される側の全通信を運ぶという役務を負うという関係です。接続料金がかかるため実際にビジネスにもなっており、IIJもインターネット接続事業者に対してトランジット接続をサービスとして展開しています。
変わってピアとはAS同士が対等な関係で接続料金をお互いに支払わずに接続する形態のことを言います。実際には物理的に接続するために回線などが必要になるのですが、それらを折半するなどして相殺しています。ピア接続はお互いのAS間のトラフィックのみを交換することが目的となります。なので、ピアするだけではインターネットすべてへ通信することはできませんが、直接経路交換を行うことにより、インターネット的に距離が近くなる、通信経路のコントロールがやりやすくなる、ピア先の組織との連携ができる等IIJバックボーンネットワークの品質向上のために一役をかっています。
そんなピア接続はもちろん各ASと個別に回線や設備を用意して接続(PNI、Private Network Interconnectと呼ばれる)してもよいのですが、やはり都度接続相手毎に準備していては手間やコストがかかってしまいます。そのため現在のインターネットにはピアをするための専用ネットワークであるIX(Internet eXchenge)を運営する組織が世界中に存在し、より簡単に相互接続が実現できる環境が整えられています。
IXはインターネットの重要な構成要素なのですが、存在意義やメリットが見えづらいと思うので、少し説明します。接続する事業者側の接続目的は、もちろんピア接続によりインターネットトラフィックを交換するということになります。IX自体もトラフィック交換を目的にネットワークが作られているため、大容量のネットワーク帯域設計やトラフィック交換に最適化されたネットワーク設計を考えており、接続事業者も安定的にトラフィックを捌くことができます。更に先程述べた各事業者との接続も事業者毎に回線を用意するのではなく、IXのピアリングネットワークへの接続さえ用意すれば、参加ユーザ全てへ疎通が確保され、BGPで経路交換をすることが可能になります。しかしながら、接続すればトラフィックが流れるというわけではなく、他ASとのBGPでの経路交換は必要となります。
IIJの対外接続
続いてIIJの他ASとの接続状況についてお話しします。
IIJも例に漏れず他ASとトランジット接続やピア接続を行っており、他ASとはIIJのインターネットサービスの基盤となるバックボーンネットワークで接続しています。
IIJのバックボーンネットワークは日本国内はもちろん世界規模でサービス展開を行っているため日本国外へも伸びています。
日本国内では東京、大阪エリアを中心に、クラウドなどIIJのサービス用サーバを設置したり、他ASとのトランジット・ピアを行っています。また、国内のその他の都市では、各地のお客様にインターネット接続を提供するために通信設備を展開しています。
国外ですと、アメリカ、香港、シンガポール、ロンドンにサービス提供設備および他ASとの接続を持っています。
IXについても設備を展開している国では複数接続している状況です。
接続理由は、インターネットの先進国であるアメリカでは日本との通信相手も多いため効率的にトラフィックを捌けるように接続したり、最近日本から東南アジアへの通信の重要性が高まっているため各国のASとの相互接続で到達性を担保したり、と様々な効果を期待して接続しています。
IIJ自身が各国に進出し、他ASと直接接続することにより、IIJのネットワーク内で少しでも高品質にインターネット通信ができるように積極的にネットワークを広げています。
そんなAS間の相互接続において調整や交渉を行う必要があるのですが、ASの中ではピアリングコーディネータと呼ばれる人が存在します。IIJでもピアリングコーディネータを数名が担当しており、私もその内の一人です。
各ASのピアリングコーディネータ間で相互接続を調整、交渉したり、接続後の通信帯域を増速したり、そして先程の他ASを経由する場合の通信品質のトラブルや不具合を相談し、解決策を検討したりします。
Peering Forum
他ASとのピアリングコーディネータとのコミュニケーションはメールやSNSが常套手段としてあるのですが、インターネットの世界にはPeering Forumというコーディネータが一堂に会する交渉の舞台が世界中で開催されており、IIJも定期的に参加して複数のASと交渉を行っています。
2019年だとPTC@America(2019/01)、APRICOT@Koria(2019/02)、GPF@Canada(2019/04)、ITW@America(2019/06)、AFP@Indonesia(2019/08)、EPF@Estonia(2019/09)、PeeringAsia@Malaysia(2019/11)に参加しています。
それぞれ世界の各国で開催されており、またイベント毎に参加メンバーに特色が出るなどの地域性もあるので、その時に会いたい相手や交渉事由により参加目的が異なります。
最近だとPeering Asia 3.0が先月11月に開催されました。Peering Asia 3.0はアジア各国からの参加者を中心に世界中からASが参加し、ミーティングを行うというものです。今回のイベントでは、177のASから363名のコーディネータが参加しました。IIJの今回の交渉内容ですが、数十社の他ASとミーティングを行い、新規ピアの接続や既存ピアの増強、接続拠点の追加などの交渉を行っています。
Conference風景。次回のPeeeringAsia4.0は 2020/11/11-12@バンコクだそうです。
Peering Forumには交渉したいASが沢山集まるため交渉が効率よく進むということがメリットなのですが、より重要なことは Face to Faceで直接交渉することによりお互い顔見知りになり、コネクションを広げることです。 顔見知りになると交渉がスムーズになったり、いざという時に助けてもらえたり、有益な情報を共有したり、とインターネット上のAS運営にはメリットが沢山あります。 今の世の中、インターネットが広まり顔も知らずにコミュニケーションを取れる時代となりましたが、インターネットの裏方で運営している人たちは意外にレガシーな付き合いをしています。沢山の人達と直接出会い、コミュニケーションを広げコミュニティを形成することでインターネットは成り立っていると行っても過言ではないかもしれません。
おわりに
今回はインターネットの普段知られていない裏側の部分を少しばかりですがご紹介しました。
みなさんのインターネットの捉え方や造詣のお役に立てれば幸いです。