IoTで家庭菜園。「ソロモン」を育てよう (1/3) – ハードウェア編 –

2022年03月07日 月曜日


【この記事を書いた人】
奥野 航平

電子工作からWeb開発まで広く興味を持つエンジニア。2020年からIoTサービスの開発に従事。趣味は、車でドライブ、望遠鏡で天体撮影など。

「IoTで家庭菜園。「ソロモン」を育てよう (1/3) – ハードウェア編 –」のイメージ

さて、問題です。
バハムート、アトラス、クロノス、そしてソロモン。
これらの名前に共通する点はなんでしょう?

・・・そうです!

すべて、「ほうれん草」の品種の名前です。

なんか強そうな名前してます。カッチョイイ。
そして「家でソロモンを育てています」は良い感じにパワーワードみが強いです。
家庭菜園もたまにやるには良いですし、せっかくやるなら IoT で自動化して育ててみるのが楽しそうです。
IoT でソロモンを育てる、やってみます。

なお、このシリーズは、ハードウェア編 (この記事)、ソフトウェア編、IoT サービス編と 3 本立てを予定しています。
では、第 1 回 ハードウェア編から開幕です。

機材の設計

使用する機材は、Raspberry Pi を中心に水やり・観測・ライトなどの周辺機器を制御するようにしてみました。
全体の構成はこのようになります。

メイン電力は、12 V の直流電源としました。12 V は、大電力のポンプやライトが動かせる汎用的でちょうど良い電圧です。ちなみに、ソーラーパネルにもできて、そうするとよりエコだと思いますが、費用の関係で今回は見送りました。
水は、ため水で散水する方式としました。場所の関係で簡単には水道を引っ張ってこれませんでした。水の入換え作業が自動化できないですが、しかたないですね。

家庭菜園 IoT システムが決まったので、早速製作に取りかかります。

材料の調達

製作に必要な部品は、以下の通りです。ほとんどが電子部品ショップ、ネット通販、ホームセンターなどで購入できます。(写真は部材の一部です)

NR
品名
詳細
メモ
1 ボードコンピュータ Raspberry Pi 3B メインの制御用に。
2 通信モジュール PIXELA PIX-MT100 LTE 網に接続するために使う。
3 SIM IIJ IoT サービス モバイルアクセス SIM IoT サービスのやつ。
4 温湿度気圧センサー Bosch BME280 環境モニタリング。秋月電子通商のキット品が扱いやすい。
5 土壌水分量センサー DFRobot SEN0193 土壌の水分量をモニタリングする。
6 A/D コンバータ MCP3002-I/P 土壌水分量センサーのアナログ信号をデジタルに変換する。
7 カメラモジュール Raspberry Pi カメラモジュール OV5647 成長を動画像で見守る。
8 水中ポンプ 12V 10W DC ポンプ 水をくみ上げるポンプ。Amazon で買った一番パワーが強いやつ。
9 灌水ホースキット 灌水ホース 10m、スプレーノズルのセット品 水をまくためのホースとノズル。これも Amazon で買った安いやつ。
10 LED 照明 フルカラー テープ LED 30cm 夜間の照明に。秋月電子通商で買った一番安いやつ。
11 Pch パワー MOSFET 2SJ334 ポンプの駆動に (ソリッドリレー)。
12V の大電流を必要とするので MOSFET でスイッチング + 増幅。
12 Nch MOSFET 2N7000 ポンプの駆動、LED 照明の駆動に。
Raspberry Pi (3.3V) で 12V のスイッチングに必要 (レベル変換)。
13 抵抗 1k – 10 kΩ 程度の抵抗 MOSFET 回路の抵抗。ありものの 10 kΩ 1/4 W 炭素皮膜抵抗を使う
14 ダイオード 整流用ダイオード MOSFET 保護。
15 基板 小さなユニバーサル基板 MOSFET 駆動回路の製作に。
16 防水ケース シールドコンテナ 屋外設置なので、簡易防水の収納ケースに入れる。
17 ケーブル・コード VCTF 2 芯 0.75sq ケーブル
0.75sq 配線コード
AWG28 コード
ジャンパーワイヤー
屋外電力供給、コンテナ内の配線、センサーの配線など。
18 接続端子 ギボシ端子、DC 2.1mm ジャック・プラグ コードの接続に。ギボシは手元にあったので
19 AC アダプタ 12V 2A アダプタ メイン電力。
20 DC-DC コンバータ 5V USB カーチャージャー Raspberry Pi への電力供給用の 12V to 5V。
21 ショートパーツ 防水テープ、絶縁テープ、両面テープ
半田、丸ピンソケット、マグネットなど

また、これとは別に家庭菜園に必要な資材もそろえておきます。こちらは全てホームセンターで入手できます。

品名
詳細
メモ
ソロモン 一番強いやつ。
10L 安心培養土 元肥入り。
おがくず、炭など木から作られていて燃えるゴミで捨てられるタイプ。
プランター プラスチック製プランター 一番安いやつ。
プランター受け皿 プランター受け皿 土が流出を防ぐ受け皿。
隅に水抜きの穴を開けてゆっくり排水させる。
バケツ 15L バケツ 灌水用の水ため。

本当はバハムートが響き的にも強くて良かったんですが、残念ながら個人で購入できる場所を見つけられませんでした。
なので一番強そうな品種「ソロモン」を買ってきました。
ソロモンは、病気にも強く初心者でも育てられるとのことで、名前だけじゃ無くて本体も強いみたいで安心ですね。

ソリッドステートリレーの作成

まずは、水やり用の水中ポンプを Raspberry Pi で ON/OFF できるようにリレー回路を作ります。今回は MOSFET を使用してスイッチングするソリッドステートリレー (SSR) 回路を作りました。
回路図はこんな感じです。

作成する SSR 回路は、Nch と Pch MOSFET を組み合わせて、ポンプへの電源を制御します。
Pch MOSFET がメインのポンプへの大電流を制御します。ここには大電流に耐えられる MOSFET を使用することが望ましく、今回は 2SJ334 を使用しました。
ただ、Pch MOSFET を ON/OFF するには Vin と同じ電圧で制御する必要がありますが、Raspberry Pi は 3.3V しか出力できないため、このままでは使用できません。
そのため、Nch MOSFET を使用して 3.3V から 12V にレベル変換をしています。この Nch MOSFET には殆ど電流が流れないため、小電力用の 2N7000 が使用できます。
出力端に入っているダイオードは、モーターから発生した逆起電力が Pch MOSFET に掛かるのを防ぎます。適当な整流用ダイオードを使用しました。

ささっと回路図を元に基板へ実装。こんな感じに小っさくまとめました。

LED 点灯回路の作成

ライトアップ用の RGB LED の点灯回路を作ります。購入した RGB LED はアノードコモンでしたので、Nch MOSFET で作ります。
回路図はこんな感じです。

さきほどの SSR 回路の Nch だけのバージョンです。RGB 3 色をそれぞれ制御するために 3 つの MOSFET を使います。
これも同じく、基板に実装しました。写真は撮り忘れました・・・。

土壌水分量センサーと AD 変換回路の作成

土壌水分量センサーで土に含まれる水分量を計測できるので使ってみます。

実際に水没させたり乾燥させたりしてみると、センサー出力の電圧が変動します。

電圧の変動は Raspberry Pi に直接入力ができないので、外付けの AD 変換回路を用意します。
今回は、MCP3002 を使用して回路を作成しました。MCP3002 は、とても安く入手でき、SPI で通信できるので Raspberry Pi とも相性が良いです。
回路図はデータシートに従って繋ぐだけなので割愛します。これもささっと基板に実装しました。

気温湿度気圧計の作成

環境測定用に BME280 を選びました。BME280 は、気温、湿度、気圧が一つのパッケージで測れる優れものです。また、出力がデジタル信号で取得できるので AD 変換が要りません。
秋月電子通商にて販売されている BME280 が実装されたキット品を使うのが簡単です。キット基板の端子に Raspberry Pi と接続できるようにコードを接続して完了です。

ホースの配管

プランターに水やり用のホースを配置します。
今回は、プランターの横に直接穴を開け、そこにノズルを固定して水を出すという方法にしてみました。
プラスチック製のプランターは安くて加工しやすいので、こういった用途にはとても良いです。

開けた穴にノズルを取り付け、ホースを配管して加工完了です。

ここで、前もって軽く水がまけるかテストしておきます。
水に濡れても良いところに移動、ホースに水中ポンプを接続して散水。

まぁ一応散水できていますが、かなり水が飛び散りましたね。
どうやらノズルから出る水の勢いが強すぎたみたいです。
しかし、パワーはソフトウェアで制御できるので問題ありません。ここは次回のソフトウェア編で解決することにしましょう 💪

ただし、他にも一つ問題がありました。気付いたのは土を入れてからなのですが、、、

ポンプを止めても水が止まりません!!!
原因は、ポンプに水を止めるバルブが無く、水で満たされたホースでサイフォンの原理が働くためです。このまま放置していたら、2-3 時間ほどでバケツの水が無くなっていました。

対策は、ホースの頂点に小さな穴を開けるだけ。これだけで解決しました。

原理は、ポンプ停止後にこの開けた穴から空気が入るので、サイフォンが途切れるようになります。
ただし欠点もあり、ポンプ動作中には穴から水が漏れます。完全に防ぐには逆止弁を取り付けるのが良いと思います。ただ結局の所、漏れた水はバケツ内に戻る様にしてあるので、気にしなくて大丈夫です。
ちなみに、穴に付けた透明なチューブは塞がらないようにするための物です。これが無いとうまく空気が入らず、サイフォンブレイクできませんでした。

これで水回りの準備は OK です。

システムの組立て

最後に、防水コンテナに機器を配置してシステムを完成させていきます。

機器や配線はテープで固定しました。基板はショート対策に防水テープで簡易絶縁しました。
LED Driver は後付けしたので写真にはありませんが、AD 変換と同じように固定してあります。あと、LTE モデムの接続を忘れています 😅

カメラはケース側面に取り付け、テープで固定しました。

基板は防水テープを巻いて軽く防水してあります。ケースの縁で若干屋根になっているので、完全な防水でなくても多少は大丈夫です。
温湿度気圧センサーも同様に処理しました。

ケーブル類はケース蓋の隙間から通してあります。使用している防水ケースは、蓋と本体がスポンジでシールされているくらいなので、細いコードは問題なく通ります。
一応しばらく様子を見て被覆に傷がある様であればケースに穴を開けて配線し直すことにします。

最後に風で動かないように適当な “重り” を入れます。

・・・壊れた HDD を入れてみましたが、アルミは軽すぎてダメですね。後日鉄の重りに変えました。
手元に使えそうなものが無ければ、釣り具用の重りなんかが最適だと思います。

電源ケーブルは、室内からエアコンダクトを経由して外に通します。このケーブルに室内コンセントから AC アダプタで直流化された 12 VDC が流れます。電源ケーブルの端子は自動車用のギボシ端子で処理しました。

ちなみにケーブルは、動かないように軽く固定した方が良いです。固定しないと風でケーブルが暴れてケーブル被覆が損傷する可能性があります。
また、電線保護材を使用すると、紫外線からも保護できてもっとも安全です。この辺りは PF 管を買ってあるので後日手直しすることにします。

RGB LED は、両端にマグネットを付け、暫定で物干し竿に固定しました。

購入した LED は、テープ状でしたが、購入時にプラケースに入っていたのでそのまま使ってバーライト風にしました。

ひとまず、これで機材準備は完了です。

ソロモンの播種

機材も整ったので、プランターに土を入れ、ソロモンの種を播きます。

種播きは、一筋の線を引き 1cm 間隔で播く、いわゆる一条播きです。ほうれん草の種は小さく、指で播くのはかなり難しかったです。
ピンセットを使うのが良いかもしれません。そんなに厳密で無くても良いとは思います。
播いたあと気付きましたが、最初は土をかなり多めに入れたほうが良いです。水をあげると土かさが減るので、後から足したりちょっと面倒でした。

播種後、こんな感じになりました!

次回、ソフトウェア編

今回は、IoT 家庭菜園で使用するシステムを説明して、機材の準備を完了させました。
でも、このままでは電気代の掛かるただの箱です。

次回は、このハードウェアを動かすソフトウェアを作成していきます。

奥野 航平

2022年03月07日 月曜日

電子工作からWeb開発まで広く興味を持つエンジニア。2020年からIoTサービスの開発に従事。趣味は、車でドライブ、望遠鏡で天体撮影など。

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