発育指数(DVI)が稲作 IoT の未来につながる?

2022年04月25日 月曜日


【この記事を書いた人】
nishikawa-yu

2020年から農業IoTに従事しています。農業には夢があると思い続けて、今に至ります。実はスーパーコンピュータを使った経験があります。

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まえがき

IoT 事業部 Nishikawa です。
農業 IoT に関わりはじめて、3 年目に突入です。
農業 IoT ではトラクター・コンバインなどの大型機器やドローンなど技術進歩が取り上げられやすくなっています。
私自身はセンサーデータや気象データを活用した農業 IoT をメインとしています。
コンピュータ上でデータをガチャガチャいじって、生産者に役に立つ情報を見つける ・ 作るという地味なお仕事になります。
そんな見た目は地味なお仕事ではありますが、データ活用の先には明るい農業 IoT があると信じています。
今回はこういったデータ活用の中で、「イネの発育指数(DVI)」についてご紹介したいと思います。

作物の発育と環境要因の関係性

植物は温度が高いと発育が良くなる、温度が低いと発育が悪くなるという感覚は今では一般的になっていると思います。
この感覚が研究として報告されたのが、Garner さん と Allard さんが 1920 年に発表した論文になります。
厳密にはこの論文では、7 年分の実験データから作物の発育現象は気温もしくは気温と日長(=1日の日の長さ)によって支配されているということを報告しています。
この論文をもとに、ここ 100 年、世界中で様々な作物・品種の発育と環境との関係性が調べられています。イネも例外ではありません。
特に米を主食としてきた日本では、イネの研究や稲作の技術改革が盛んに行われてきました。
ここから日本の主食でもあるイネに絞ってお話していきます。

イネの発育の数値化

最初に述べた、「温度が高いと発育が良くなる、温度が低いと発育が悪くなる」という感覚を掘り下げると、「温度によってイネはどの程度発育するのか?」というような疑問が生まれてきます。
イネの 1 日の発育は見た目には変わらないほど小さなもので、1日1日の僅かな積み重ねの結果が発育として現れてきます。
この小さな発育を数値化する簡単な方法として、積算気温方式があります。
これは1日の平均気温を積算し、その積算値を目安とする方法です。今でも稲作では、出穂後から刈り取り目安日として全国で使われています。
品種や気候、地域にもよりますが、イネの場合およそ800〜1100°Cが刈り取り目安となっています(図1)。

積算気温方式を発展させたものとして、有効積算温度方式があります。
これは作物の発育最低温度以下の数値を取り除き、温度を積算される方法で、身近なところではサクラの開花予想で使われています。
積算温度(有効積算温度)方式は、イネの発育と気温が 1 次関数的な(線形)関係にあることを仮定しています。
言い換えると、平均気温が 10°C のときイネが1発育するとき、平均気温 20°C のときは2倍発育するというような考え方です。
シンプルな考え方で生産現場でも使いやすい利点はありますが、実際のイネの発育とは乖離があることも事実です。

イネの発育指数(DVI)

1980 年代後半から計算機(コンピュータ)を使ってイネの生育との環境要因の関係性を数値化する研究が進んできました。
それが発育指数(DeVelopment Index: DVI)になります。
発育指数は積算気温方式に、実際のイネの発育を反映させた手法で、圃場での十分な観測データ(複数年、複数圃場のデータ)があることが前提となります。
観測データを統計的に取り扱い、データから 1 日のイネの発育を逆算することで、目には見えない僅かな発育を数値化しています。
数値化された関係から 1 日のイネの発育を見積もり、それを積算していくことでイネの生育を数値化できます。
逆算処理の計算は単純ですが、人の手では処理できないほど膨大な計算量になります。
計算機が発達したおかげで、発育指数を利用できるようになりました。

発育指数の利用方法は、日平均気温を1日あたりの発育量に変換し、その値を移植日から積算したものが発育指数(DVI)になります。
グラフを見てわかるように、1 日あたりの発育と環境要因の関係が曲線になっており、温度が高いとイネの発育が良くなることを積算気温より複雑な方法で表現しています。
発育指数とイネの発育ステージの関係は発芽を 0.0、幼穂形成期が 1.0、出穂期が 2.0 となっています(表)。

表:イネの発育ステージと発育指数の対応表

イネの発育指数を用いるのメリットとしては以下のようなことがあります。

生産現場でのメリット:

  • 発育ステージを数値化として見える
  • 気候変化の影響を反映して、栽培管理が可能になる
  • 生育ステージに合わせた栽培管理を行うことができる

データ活用でのメリット:

  • 田植えの時期がずれている圃場でも生育を比較できる
  • 去年の栽培管理と現在の栽培管理を比較できる
  • 生産者の感覚が発育指数で数値化されると、定量的な水稲栽培につながります

発育指数(DVI)がつなぐ水稲栽培の未来

最後に発育指数で水稲栽培の未来がどうなるかについて、データ活用の面からお話したいと思います。
発育指数には水温データをもとに、イネの発育を数値化できるものがあります。
水温を使って発育指数を計算する理由としては、幼穂形成期、出穂期前まではイネは茎と根の境目付近で温度を感じます(成長点)。
そのため、イネが感じている温度に近い水温を使うことによって、気温よりも生育指数を精度良く算出することができます。
IIJ では 水田の水管理のための水位・水温が測定できる MITSUHA 水田センサー LP-01 の製品販売を行っています。
現在、いくつかの品種では水田センサーLP-01の測定データから発育指数の算出し、生産現場で活用いただいています。

現在は生産者が圃場に赴き、イネの発育を目視で確認して水管理を行うのが一般的だと思います。
発育ステージを元に適切な水管理技術が確立すれば、稲作での水位・水温がスマートフォンを使って見れる以上のサポートができるようになります。
さらに水田センサー・発育指数・給水装置の3つを活用すると、全自動で水管理ができる未来が見えてきます。
現在、こちらについても農業 IoTチームで実証実験に取り組んでいますので、乞うご期待ください。
発育指数(DVI)で稲作の水管理は大きく進歩すると信じています。

参考文献

EFFECT OF THE RELATIVE LENGTH OF DAY AND NIGHT AND OTHER FACTORS OF THE ENVIRONMENT ON GROWTH AND REPRODUCTION IN PLANTS. (1920) W. Garner and Allard, H. A., Monthly Weather Review, Volume 48, Issue 7, URL: https://journals.ametsoc.org/view/journals/mwre/48/7/1520-0493_1920_48_415b_eotrlo_2_0_co_2.xml
イネの発育過程のモデル化と予測に関する研究(1990) 堀江武・中川博視,日本作物学会紀事, 59巻, 4号, URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcs1927/59/4/59_4_687/_pdf/-char/ja

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