電波の仕事に就きたくて無線技術士と無線通信士の資格を取りました【エンジニアに役立つ資格】

2023年05月17日 水曜日


【この記事を書いた人】
電鍵一級

七つの海を股にかける生活から陸に上がって幾年、長波無線電信からマイクロ波デジタル通信そして光波長多重伝送路構築まで、ありとあらゆる情報通信網の構築や運用に携わったことが唯一の自慢。

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始まりは趣味のアマチュア無線

アマチュア無線に興味を持ったのが始まりでした。山口県の片田舎の町の文化祭で、アマチュア無線クラブの大の大人たちが無線機を通してそこに居ない人と話をしている場面に遭遇。ラジオやテレビも同じで、目の前に居ない人の声がスピーカーを通して聞こえてくるし、映像がブラウン管に映し出される。その場に居ない人と話ができるなんて「電波を扱う無線ってどんな技術なんだろう」という興味からでした。中学生になって広島県まで試験を受けに行き、2回目で電話級アマチュア無線技士に合格。当時としては高価な無線機を買ってもらい、自宅の庭にダイポールアンテナを自分で作り、HF通信から無線の世界にハマって行きました。

中学2年生の時、学校の廊下に貼ってあった国立熊本電波高専のポスターを見た瞬間、自分の人生が決まってしまったと言っても過言ではありません。山口県から熊本県へ、親元を離れ寮生活、無線技術や電子技術を学ぶことが出来て楽しかった、あっという間の5年間でした。

できたばかりの電子工学科(2期生)での授業内容は、少しだけ半導体工学や計算機工学の話もありましたが、ほとんどが無線技術に関する事ばかり。選択科目も電波航法やアンテナ工学を選び、本来なら電子工学科から半導体メーカーへと就職するはずが、無線通信と無線技術で飯を食っていこうと心に決めたのでした。

そして、何を血迷ったか、熊本まで来たんだから自分の青春の5年間の成果として”一通一技”を取って船乗り(船舶通信士)になり、七つの海を股にかけるぞ、という目標を掲げて社会に漕ぎ出して行ったのです。

無線通信士と無線技術士の違い

全国に3つしかなかった電波高専の歴史を辿ると電気通信大学の発祥と同じく、第2次世界大戦時の船舶無線通信士の養成にたどり着くのですが、それは電波通信学科に繋がる話。できたばかりの電子工学科は無線通信を支える電子技術から派生した学科でしたが、無線関係の資格として無線技術士の資格取得を目指すように教えられました。

電波法施行令から操作範囲を抜粋すると・・・
第三条 次の表の上欄に掲げる資格の無線従事者は、それぞれ、同表の下欄に掲げる無線設備の操作(アマチュア無線局の無線設備の操作を除く。以下この項において同じ。)を行い、並びに当該操作のうちモールス符号を送り、又は受ける無線電信の通信操作(以下この条において「モールス符号による通信操作」という。)及び法第三十九条第二項の総務省令で定める無線設備の操作以外の操作の監督を行うことができる。

資格
操作の範囲
第一級無線通信士
(第一級総合無線通信士)
一 無線設備の通信操作
二 船舶及び航空機に施設する無線設備の技術操作
三 前号に掲げる操作以外の操作で第二級陸上無線技術士の操作の範囲に属するもの
第一級無線技術士
(第一級陸上無線技術士)
無線設備の技術操作

無線設備の通信操作と技術操作、分かりにくいですよね。操作範囲令には事細かく書いてありますが、簡単に言えば、この二つがあれば、どこに設置されたどんな無線設備であろうと何でもできるということです、ハイ(笑)。

今は試験制度も変わっていますが、当時は無線通信士も無線技術士もまず予備試験に合格しないと本試験を受験できません。無線技術士は4科目、無線通信士は9科目。3年生になってから予備試験を受験するように指導され、4年生~5年生で取得するというのが一般的な流れでした。私はその掟を破って2年生の時から受験して4年生の時に二つとも取得したものですから、先輩や教官からこっぴどく怒られました。

国家資格というものはすべて個人に対して付与されるもので、法律によって規定された業務に従事する場合には、必ず保有しておかなければなりません。保有していないと従事できいな仕事もあるので、少しでも早く合格しておきたい、そういう想いで勉強して来ました。まぁ、いわゆる士業ですので、ある意味国によって守られた仕事に就くための通過点だったとも言えますね。

どんな仕事に就けるのか

無線通信士の資格は国際電気通信連合憲章に規定する無線通信規則に準拠した証明書にもなっているので、無線通信においては国際ライセンスです。そのため外国籍の船や航空機の通信士として乗務することもできますが、残念ながら無線通信士という仕事は、辛うじて漁業無線、港湾関係、海上保安庁、自衛隊、航空管制に残っているだけになりました。私の最初の仕事だった商船(貨物船)の通信士の役割は、今では電子通信機器を操作するための海上無線通信士を取得した航海士が担っています。

無線技術士はまだまだ活躍しています。放送局、通信事業者の衛星通信地球局、国土交通省、総務省等々、特に大出力の電波を送信する無線設備の技術操作のためには、この資格は必須です。携帯基地局や小規模無線設備、レーダーの操作等には、〇〇無線技士という資格が用意されているので、大半の人は簡単な無線技士の資格を取得すれば、技術操作はできます。

今では主任無線従事者制度によって、講習を受けた監督者が居れば、免許を持たなくても一定の技術操作ができるようになっています。ただ、監督者になるためには無線技術士もしくは無線技士の資格が必要となりますので、資格を持ってないと最終的には操作できないのは変わりません。

電波を受信するための設備については無線従事者免許は必要ありませんが、電波を送信するためには資格が必要で、ある仕事が無線従事者免許を必要とする限り、仕事にあぶれることはありません。(注、電波法に違反すると免許を失い、欠格事由にもなりますので、くれぐれも違法行為をしないようにしましょう)

役に立ったこと

在りし日の無線室

言うまでもなく、個人的には船舶通信士として乗船して七つの海を股にかけることができました。でも、諸事情によりその生活も2年半で終わってしまったので偉そうなことは言えませんが、目標を掲げて実現し普通の人は行けない場所に行くことができましたので後悔はありません。唯一の心残りは南極観測隊に参加できなかった事ですが、年齢から考えると諦めるしかありませんでした。

七つの海を一緒に旅した仕事道具のマイ電鍵

この二つの資格を所有していることで、通信の自由化の流れの中で転職時にも必要とされましたし、無線関連技術は様々な技術に応用できることから、どのような仕事に就く場合でも、一定の技術レベルを持った人物であると認めてもらえたことはとても大きかったです。国家資格とはそういうものだということを改めて認識しました。

余談ですが、日本籍船舶の正式な船舶職員である通信士として乗船するためには船舶局無線従事者証明書を訓練によって取得し、さらに海技士(通信)という資格を取得する必要があり、取得しても一定の乗船履歴がないと5年で失効してしまうので、陸に上がった私は5年ごとに訓練と講習を受けて今だに効力を維持しています。もはや乗船する機会はありませんが、こうして資格を維持するための継続的な訓練や講習が必要になる資格もありますので、技術レベルや資格の効力を維持するためのCPD(Continuing Professional Development)を忘れないようにしてください。

通信の自由化の際にできた伝送交換主任技術者資格試験でも科目免除の恩恵は受けられましたし、更には業務経験と合わせて工業高等学校教員の一種免状も授与してもらいましたので、こうした資格を必要とする職業に就くことが可能になる訳ですから、社会に出てからとても役に立ったと言えるでしょう。

狼煙、腕木、手紙に始まる通信が、19世紀になって電気通信となり電信電話が花開き、20世紀になって無線技術によってラジオやテレビ放送へと広がりました。そして、デジタル化されて益々高度になり、空間を超えて人や機械のコミュニケーションを支える手段となった今、最先端のIT技術の裏側に携わることができたのも、これらの資格取得を経て、ずっと通信に関わる仕事に就いてきたからだと感謝しています。

これから受験してみようと思う人へ

電波の世界で仕事をしてみたいと思う人は陸上無線技術士の資格、できれば一級を目指してください。ただ、実際の業務においてはデジタル化や自動化が進んでおり、昔のように自分で送信機やアンテナを調整したり修理したりする楽しみや、感電したりする危険は無くなっているので、少々つまらないかもしれませんね(笑)。

ただ、その仕事に就くために勉強した証としての資格、資格取得の過程や取得後の仕事で得た経験や知識は、その人の将来に必ず役に立つものだと思いますし、資格が無ければ就けない職業もあるので、電波に関わる仕事に就きたい人はぜひ取得しておくべきだと思います。

なお「電波とは三百万メガヘルツ以下の周波数の電磁波」ですが、これからはさらに高い周波数というか、光の領域に広がっていきますが、それでも”無線”と言うのだろうか・・・みなさん、どう思いますか?

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