アジャイルマニフェスト再注入──AMAで価値と原則を“現場の言葉”にする

2025年09月03日 水曜日


【この記事を書いた人】
北河 直樹

名古屋支社所属。新しい技術・怪しいデバイス・GISが好き。名古屋から影響力のある開発チームを作って発信していくのを目標としている

「アジャイルマニフェスト再注入──AMAで価値と原則を“現場の言葉”にする」のイメージ

はじめに

三河からこんにちは。名古屋支社の北河です。

今年の夏も暑いですね。毎日「ムムム…」となりながら過ごしています。気温は変わらない方がありがたいですが、チームや組織は変化に追従し続けてほしいものです。
変化に追従するということで、アジャイルを連想するかたもいるかと思いますが、まさにそれです。

「顧客と一緒にアジャイルって、無謀じゃね?分断されているのに出来るの?」

…正直、めちゃくちゃ難しいっす。でも、私たちはその難しさに挑戦してきました。

今回は、その中で生まれた新しい取り組みの話をします。

タイトルはちょっと大げさですが──
アジャイルマニフェストを組織に注入してみた話」です。

アジャイルマニフェストを組織に“注入”してみた話

アジャイルマニフェストは、アジャイル開発の土台となる“4つの価値”と“12の原則”をまとめた指針です。詳細はこちらをご覧ください。アジャイルソフトウェア開発宣言

AMA(アジャイルマインドアクティビティ)という取り組み

私たちの組織では、メンバーが新しくJoinするときに、必ず「アジャイルマインドの注入」をやっています。
アジャイルマニフェストを一緒に読み、価値や原則を理解してもらっています。これはもうお約束です。

しかし、正直に言うと、その後は特に何もしていませんでした。

チームの皆さんは日々の開発に熱中していると、アジャイルマニフェストのことは、だんだん頭の片隅に追いやられていくと思います。
結果、最近アジャイルマニフェストから遠くなってきているチームがちらほらと見えてくることが多くなりました。

そこで考えたのが、「アジャイルマインドアクティビティ」。略してAMA

これは、座学で「覚える」ためのものではなく、“自分たちの行動がアジャイルマニフェストに沿っているか?”  をチームで考える時間をつくる取り組みです。

ちょっとだけ、アクティビティを実施したチームの声を紹介しますね。

💬 「POから顧客アンケートを共有してもらえるようになったのが嬉しい」
💬 「アジャイルマニフェスト、すっかり忘れていました」
💬 「普段のふりかえりでは出ないアクションが出てきた」

こういう声が出てきたとき、「やってよかったな」と思いました。

このあと、なぜこういう変化が起きたのか?どうやって仕掛けたのか? を詳しく書いていきますのでお楽しみに!

開発ベンダ×顧客混成チームの課題と仮説

これまでのブログでも何度も書いていますが、私の所属する名古屋支社の開発チームは、開発ベンダではありますが、顧客と一緒にチームを組んでビジネス拡大をお手伝いしています。
所謂、開発ベンダ×顧客混成のアジャイルチームです。
顧客と一緒にアジャイルチームを組む──これは私たちの強みであり、ガチで取り組んでいると自負できます。

でも、長くやっていると、いくつかの課題が見えてきました。

  • PO(プロダクトオーナー)がふりかえりに参加できていない
    → その結果、会話の機会が減り、認識のすり合わせが難しくなる場面がある
  • ビジネス理解の共有が十分でないと感じることがある
    → 開発メンバーが「顧客価値」を語るのが難しいケースが出てくる
  • 「○○としてはこうだから」という固定観念が働くことがある
    → 新しい試行に慎重になりやすい雰囲気が生まれる
  • 改善の自由度がどこまでか、チームで共通認識が持ちにくい
    → 「ここまでやっていいのかな?」と迷うことがある

のような課題をいろいろな角度から見ていくと、ある一つの仮説にたどり着きました。

「アジャイルマニフェストの理解がなかったり、薄れているのでは?」

冒頭でも触れましたが、私たちの組織はアジャイルチームです。アジャイルマニフェストに沿った行動をとることを前提にしています。

でも、例えば「開発者とPOとの距離感が遠い」と感じるケース。
よくよく見てみると、POと開発者の会話量は、開発者同士と比べて少ないんです。
これはある意味、当然とも言えます。会社も違うし、物理的にも離れていますから。

ここで、アジャイルマニフェストの12の原則を思い出してみます。

The most efficient and effective method of conveying information to and within a development team is face-to-face conversation.
開発チーム内およびチーム間で情報を伝達する最も効率的で効果的な方法は、対面での会話である。※ 翻訳 (ChatGPT)

重要なのは「対面での会話」です。でも、現実には物理的な距離や制約があって、完全な対面は難しいと思います。
だからこそ、どうやって“対面に近いコミュニケーション”を実現するか?を考えるのが大切です。

もし、その工夫をしないまま「うまくいかないなぁ」で終わってしまうなら、それはアジャイルマニフェストの価値や原則を、日常で意識できていないのかもしれません。

こうした背景から、私たちは「アジャイルマニフェストの理解がなかったり、薄れている」という仮説を立てました。

マニフェストを“組織”に効かせる注入ポイント

アジャイルマニフェストをどうやってチームに“心で”理解してもらうか。ここが一番の難題です。
たくさん時間をとって、懇々と説明して、理解度テストをして……絶対理解しないですよね。むしろ嫌いになると思います。

だから、こちらが何かを“教える”のではなく、チーム自身が「マニフェストに沿った行動」を自分たちの言葉で出して、どう取り入れるかを自分たちで決めてもらう必要があります。
そのために必要なのは、「問いを投げる」「考える場をつくる」「小さな一歩を決める」──この3つがポイントです。

私たちが取った具体的アクション

では、私たちはどのような取り組みをとったのでしょうか。それが、アジャイルマインドアクティビティです。略してAMA (2回目)。

これは、座学ではなく、チームで“考えて、話して、決める”ための場です
ふりかえりのように、付箋を使ってわちゃわちゃやるスタイルにしました。

アジャイルマインドアクティビティ

アクティビティのねらいはこうです。

  • 「アジャイルマニフェスト」をもっと身近に感じてもらう
  • 普段の活動で「これってアジャイル的にどう?」と自然に考えるきっかけをつくる
  • “変えなきゃ”じゃなく、“こうしたらもっと良くなるかも” という気持ちになってもらう
  • チーム内でアジャイルマニフェストについての会話が増えていくことを期待

    アジャイルマニフェスト(4つの価値・12原則)から一つテーマを選び、選んだアジャイルマニフェストを起点に、チーム内で現状の活動や課題、将来についてを話しあいます。​

    アクティビティの流れは以下のとおりです。

    1. テーマを決める(4つの価値・12原則から1つ)
      → 今回は「顧客満足を最優先し、価値のあるソフトウェアを早く継続的に提供する」
    2. 個人で書く
      → 「この原則に沿ってやっていること」「どんな考えで捉えたか」「気付いたこと」等なんでも付箋に
    3. 付箋を共有して対話
      → 「現実」と「理想」を並べて、みんなで話す
    4. “近づく一歩” を見つける
      → 明日からできるアジャイルマニフェストに近づく行動をみんなで話す
    5. チームアクション
      → チームとしてのアクションプランを話す
    6. 最後に感想戦
      → 「気づき」「次回のAMAをはこれをしたい」をみんなで話す

      実際アクティビティを行った時のボードです。

      チームの声

      やってみたら、各チームからこんな声が出ました

      💬 「普段考えないことを考えるのが新鮮だった」
      → 付箋を使ってわちゃわちゃやるのが楽しかった、という声。

      💬 「POに価値を提供するって話が出たけど、エンドユーザは誰?って指摘されてハッとした」
      → ここから、顧客アンケートを共有する会を月1でやるというアクションが生まれた。

      💬 「エンドユーザの声を聞けるようになって、チームの幸福度が上がった」
      → 感謝のコメントや契約件数の増加を知ることで、価値が“届いている”実感が持てた。

      💬 「普段のふりかえりでは出ないアクションが出てきた」
      → 価値や原則をテーマにすると、普段のふりかえりでは出ない視点が出てくる。

      💬 「顧客って難しい」
      → 言葉がふわっとしていて、理想と現実のギャップを感じる。でも、それを考える時間が大事。

      💬 「ゴネ得の精神!」
      → 「できなくても言い続けることで、いつか叶う」──そんな前向きな冗談も飛び出した。

      ちょっとした変化も生まれました

      • 顧客アンケート共有の場が定例化した
      • ふりかえりで“価値”や“原則”の言葉が自然に出るようになった
      • POのビジネスを加速させる“価値”を届けるために、それを支えるドキュメントもスピードを意識するようになった。

        まとめ

        いかがだったでしょうか?

        アジャイルマニフェストを “心で”理解してもらう のは、やっぱり一筋縄ではいきません。
        一方的に説明して──では理解されない。だから私たちは、説明するをやめて “引き出す” ほうに舵を切りました。
        その仕掛けが、アジャイルマインドアクティビティ(AMA) です。

        もし、最近チームの会話にアジャイルの価値や原則があまり出てこないな…と感じたら、まずは原則をひとつだけ選んで話してみませんか。
        ポイントは大げさにせず、問い → 会話 → 一歩、この小さな循環を月1で続けるだけでも変化が生まれてくると思います。実際、私たちの組織は変化が生まれました!

        最後に宣伝です。私が所属するIIJ 名古屋支社の開発チームは、開発ベンダーでありながらアジャイルでお客様のビジネス拡大に貢献したい!と日々取り組んでいます。
        アジャイルの実践や今回のアクティビティのリアルな話、もっと聞いてみたい方は、個人やIIJのXでも大歓迎です。ぜひ気軽にご連絡ください!


        執筆者X @nk_tamago ※意見は個人のものです

        北河 直樹

        2025年09月03日 水曜日

        名古屋支社所属。新しい技術・怪しいデバイス・GISが好き。名古屋から影響力のある開発チームを作って発信していくのを目標としている

        Related
        関連記事