Network Stomper開発 Project 基板設計記[第5回(全5回)]

2019年11月15日 金曜日

「Network Stomper開発 Project 基板設計記[第5回(全5回)]」のイメージ

IIJは今年8月3日、4日に開催されたDIYのイベントMaker Faire Tokyo 2019に出展しました。展示テーマの一つ「音楽×IoT」の作品として、IPネットワーク経由でギターのエフェクタを操作する「Network Stomper(ネットワークストンパー)」を制作し、会場でギターの実演を行いました。

エフェクターを遠隔操作「ネットワーク・ストンパー」(Maker Faire Tokyo 2019)

このNetwork Stomperのコアになるハードウェア(制御ボード)は、IIJのエンジニアが一から開発しています。ハードウェアの開発は電源やノイズなど、ソフトウェアやネットワークの開発と異なるポイントに気をつけなければなりません。
実際に開発を担当したIIJ技術研究所の末永が、ハードウェア設計についてのレポートをまとめましたので、5回に分けて掲載します。

なお、全5回をまとめたPDFもございます。こちらもご利用ください。

(編集部)

製造するために

基板製造

この基板自体は海外の試作メーカであるFusionPCBに製作を依頼しました。これも感光基板や切削基板を使うと自作できますが、昨今は試作が安いので外注してしまったほうがらくでしょう。今回発注したFusionPCBの場合、安売りキャンペーンを実施中だったようで基板を10枚試作して4.9ドルでした。これに加えてペーストハンダ用のメタルステンシルが8.9ドル、DHLの送料が19.51ドルかかりました。送料が飛び抜けて高いので、できれば仲間内でまとめて発注したいところです。
届くのは写真のようなものです。

ちょっと見難くて申し訳ありませんが、緑色の物体が部品を乗せる前の基板、上の銀色の物体がペーストハンダを乗せるためのメタルステンシルです。基板の上にメタルステンシルを乗せて、シルクスクリーンの要領でハンダを基板に塗りつけます。表面実装の部品に適した方法です。ペーストハンダというのはその名の通りペースト状のハンダです。写真は使った後に掃除していないのでステンシルにハンダペーストが残っています。

実際の作業としてはステンシルの平面を出すのが結構大変です。量産用の機械であればテンションをかけて平面にするところなのでしょうが、手作業で押さえつけながら頑張る必要があります。養生テープで仮止めしつつ、クレジットカードのようなプラスチックカードで押さえつけながらハンダを塗り込んでいく感じです。写真のステンシルは小さいのですが、より大きなステンシルで発注すると、打ち抜き加工による歪みが減少して少し作業性が改善するかもしれません。

試作メーカとしては、今回のFusionPCBのほか、Elecrowが有名です。国内ではP板.comがあります。品質は圧倒的にP板.comが優れていると言われていますが、私は使ったことがありません。

ハンダ

基板にはこんな感じのペーストハンダを塗り込みます。かつては個人ではなかなか手に入らないものだったのですが、現在はアマゾンで普通に売られています。ハンダを塗って、上に部品を置いたらリフロー炉という装置で加熱します。炉というとすごそうですが、簡単にいうと料理用オーブンの工業版です。料理用よりも細かな温度制御ができるようになっています。

ペーストハンダには板金加工用もあり、簡単に手に入るのですが、板金用は銅を腐食させやすく電子回路には向かないとされています。注意しましょう。

リフロー炉

今回使ったのは写真のリフロー炉です。中国製の激安リフロー炉で、3万円前後で売られています。ある程度ちゃんとした商品だと30万円以上はするでしょう。写真のT-962はちゃんとしていないことで知られる製品なのですが、検索すると改造のノウハウが色々と見つかります。箱としては頑丈なので、改造を厭わない人々には愛されているようです。写真のものは未改造なのですが、実装密度が低く基板も小さいのであれば未改造でも使えないことはありません。料理用のオーブンやホットプレートを改造している人も多いですが、さすがにそれらよりは改造のベースとしてのポテンシャルは高い製品となっています。

断熱材の入れ替え、温度センサ(熱電対)の入れ替え、センサ回路へのアンプ挿入、などから始まり、制御基板からUSBを生やしてPCで温度制御をかけるというところまで改造している人もいます。当然、制御基板のファームウェアも独自開発したものが利用されています。改造記事を読んでいるだけで結構面白いので検索してみてください。

拡大鏡

小さな部品を乗せたり、ハンダ不良を確認したりするためには双眼実体顕微鏡が便利です。焦点深度が深く、両目で立体感をもって基板を観察できます。写真の顕微鏡は会社の備品です。個人で買うのはちょっと敷居が高いですね。大きくて場所もとりますし。今回はLXES11DAA2-137の位置決めと、リフロー後のチェックに顕微鏡を利用しました。これは会社でないと使えない技ですが、

こういう両眼用のルーペで頑張ることも可能です。取り回しが良いので顕微鏡がある場合でも基本的にはこちらを利用するケースが多いです。写真のルーペはアマゾンで1190円でした。交換レンズが付いていて、1.0/1.5/2.0/2.5/3.5倍のレンズを選択して使えます。1.0でもちょっとだけ拡大されます。LEDライトも付いていますが、照明は別に用意したほうが使いやすいです。電池を入れると重くなりますので。

両眼ルーペの有名どころとしてはハズキルーペがありますが、倍率がちょっと足りないので物作りには今ひとつかもしれません。とはいえ、安物だとレンズの歪みで頭痛や吐き気を感じることがあります。また倍率が高いレンズだと観測対象までの距離が近くなり、焦点があう範囲も狭くなるので作業がやりにくくなります。時計職人のような高い作業台が必要です。自分に合うかどうかは実際に使ってみるしかないですね。

ハンダごて

表面実装以外の部品は普通の半田ごてを使います。上の写真は会社の備品なのでやはり個人で買うには敷居が高いかもしれません。

とはいえ、温度調整機能付きのコテはあったほうが良いです。HAKKOのFX-600が4000円から5000円くらいで買えて、ペン型で場所を取らず、かつ温度設定ができるので、個人所有のコテとしてはベストではないかと思います。

ちなみに電子部品のハンダ作業は350度が基本とされています。昔ながらの鉛ハンダは180度前後で溶けますが、温度設定が180度付近だとちょっと温度が下がるだけで固まってしまいますし、高すぎると酸化が進みすぎます。無鉛ハンダは組成が色々とありますが、大抵はもう少し高い温度で溶けます。しかしコテの温度は鉛ハンダと同じ350度設定で扱うことが多いようです。

テスタ(マルチメータ)

よくあるテスタ(マルチメータ)があるとハンダづけがちゃんとできているか、電源が来ているかなどの基本的な確認ができます。写真は会社の備品で1万7千円前後します。信頼はできますが、個人で買うにはちと高い製品ですね。ほとんどの場合、もっと安いもので問題ないと思います。

こちらは個人所有のテスタです。アマゾンで1999円でした。信頼できるのか不安になってしまいますが、導通テスト程度であれば問題はないでしょう。トランジスタの直流電流増幅率を測定できたり、温度を測定できたり、AC電源に近づけるだけで電源が来ているか確認できたりと妙に多機能な製品になっています。普段はこれでチェックして、不思議な挙動があったときは実験室にいくという感じで作業しています。この製品は、いちいち音がなってうるさいです。特にオートパワーオフで音がなるという仕様はいまいちで、電源を切り忘れていると結構びっくりします。

テスタにはアナログ式という選択肢もあります。大学で電気工学を学んでいたときにはアナログ式が基本でした。測定器としての性能はデジタルに全面的に劣るのですが、測定誤差が大きく出るという特徴が回路技術の理解には役立つのですね。理想的な測定など決してできないのだということをしつこく叩き込まれました。真剣に電気回路を学びたい方はあえてアナログ式という選択もありかもしれません。レンジの選択からしっかり考えて端子を当てる必要がありますし、そのためには回路の挙動を事前に予測できている必要があります。単に大きいレンジから順に試していけば壊れはしませんが、それならデジタルのオートレンジで良いですね。修行を重ねれば針の震えから回路の不調を感じ取る職人技にたどり着けるかもしれません。

オシロスコープ

テスタだけでは動きがわからない箇所については、オシロスコープの出番です。あると大変便利で回路に対する理解が深まる道具なのですが、なくてもなんとかなるものでもあります。なくてもがんばれると思いつつも、なぜか欲しくなって買ってしまう機材の一つです。写真の製品はSIGLENTという会社のSDS1104X-Eという機種で、国内保証付きで8万円を切るくらいの価格で売られています。測定器の相場からすると安いと言えるのですが、個人で買うには高価ですね。繰り返しますが、なくてもがんばれますので、欲しくなってから考えれば良いでしょう。

写真のような低価格オシロスコープは、岩通、テクトロニクス、キーサイトといったハイエンド測定器メーカと比較すると圧倒的に安いので不安になりますが、意外と使えます。高級な測定器は実験室に設置されて研究開発に使われるものですが、低価格オシロスコープは工場の工員1人に1台という意気込みで配置して製造品質を底上げするために使われるものです。出荷数が全く違いますので、性能差以上に価格差が大きく出るのですね。

世間的にはRIGOLのDS1054Zという機種が人気のようです。こちらは6万円を切るくらいの価格帯です。アナログ帯域幅が50MHzとSDS1104X-Eより若干狭いですが、ファームウェアで制限しているだけでハード的にはもう少し能力は高いという噂もあります。とはいえ、1チップマイコンを中心に使う分にはアナログ帯域幅は50MHzだろうが200MHzだろうが大差ないでしょう。さらに安い3万円以下の製品もいろいろありますし、USB接続の簡易オシロスコープなどもあります。まずは手に入れやすいもので感覚を掴むのも良いかもしれません。

オシロスコープを使う場合、アースとグランドを意識することがとても大切です。オシロスコープの測定端子についているグランド接続用端子とアース端子は全て内部で繋がっています。複数の測定端子がある場合でもグランドは共通です(共通ではない絶縁オシロスコープというものもありますが、一般的な機材ではありません)。したがって、グランド端子をどこかに接続するということは、接続先とグランドをジャンパしてショートさせることになります。接続先がグランドでなかった場合、オシロスコープを通して大電流が流れ電源周りが瞬殺されたりしますので注意しましょう。対象のグランドがアースに接続されているのか、どこにも接続されずに浮いているのかも同様に大切です。この点、テスタは測定器側が電池駆動でアースからは常に浮いていますし、大抵は1入力しかありませんので事故は少なくなりますね。

初めてオシロスコープを使う場合にはテスタと似ているようでいて違うという点を忘れないでください。

回路CAD

回路設計にはKiCADを使っています。自分で日本語ストロークフォント(KST32B)対応パッチをあててビルドしたものを使っています(方法はKiCAD.jpのwikiに書いてあります)。大抵の回路に日本語は必要ありませんが、今回のように文章に流用する場合は日本語に対応しておいたほうが便利です。

電気回路CADとしてはAutodesk EAGLEも人気があります。CADはどれもクセというか、流儀があるので使いやすいと感じたものを選べば良いでしょう。KiCADはEAGLEのファイルを読むこともできますので、迷ったらEAGLEから始めた方が良いかもしれませんね。

PCB CAD

基板のパターン設計もKiCADを使っています。今回は部品点数がそれほど多くありませんでしたので、自動配線は使わず、すべて手動で配線してしまいました。自動配線をしたいのであればFreeRouterのような他のソフトウェアを使う必要があります。KiCADの開発者が”NEVER trust the autorouter”と書かれたTシャツを着ている写真を見たことがありますので、自動配線をがんばるつもりはないのでしょう。

EAGLEもパターン設計に対応しています。EAGLEの場合、標準で自動配線に対応しています。電源配線など主要な配線だけ手で配線すれば、あとは自動配線で解決できるでしょう。配線の最適化は難しい問題で、大抵一発では終わりません。コンピュータがトライアンドエラーで配線していく様子を眺めるのはちょっと楽しいです。

インターネットの経路の最適化は計算が高速になるように巧妙に問題を単純化しており、理論上の最適解に実用的な速度でたどり着けます。しかし、電気回路の配線はそう上手く単純化はできません。EAGLEの最適化はかなり早いほうだと思いますが、計算が終わらなくなることもあります。人間であれば配線できるようにみえることもありますし、原理的に不可能にみえることもありますが、実際にどうなのかは判断できません。コンピュータでは計算不可能な問題なのですね。

引用文献

  • Espressif Inc. (2015年8月1日). ESP8266EX Datasheet v4.4.
  • Espressif Inc. (2016年1月). ESP8266 System Description v1.4.
  • Espressif Inc. (2017年5月). ESP8266 Technical Reference v1.3.
  • Espressif Inc. (2018年3月). ESP-WROOM-02 Datasheet v2.6. 21.
  • Espressif Inc. (2018年12月). ESP8266 Hardware Degisn Guidelines v2.4.
  • Espressif Inc. (2018年12月13日). ESP8266 Pin List.
  • Espressif Inc. (2018年11月). ESP8266EX Datasheet v6.0.
  • Phillips Semiconductors. (2000年1月). I2Cバス仕様書 v2.1.
  • Pull up resistors. (2015年9月9日). 参照先: ESP8266 Developer Zone: https://bbs.espressif.com/viewtopic.php?t=1079#p4097

末永 洋樹

2019年11月15日 金曜日

2003年の入社以来SEILシリーズのファームウェア開発に取り組んでいましたが、最近は子会社のIIJ-IIでエッジコンピューティングを中心として次世代技術の動きを追っています。

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