Industorial IoTプラットフォーム「WISE-PaaS」概要

2020年10月27日 火曜日


【この記事を書いた人】
高舘 洋介

ビッグデータ基盤エンジニアを経て、現在はIoTプラットフォームのサービス/ソリューション開発に従事。今もなおHadoopが好き。

「Industorial IoTプラットフォーム「WISE-PaaS」概要」のイメージ

はじめまして。IoTビジネス事業部ソリューションインテグレーション課 高舘と申します。
IoTサービス/ソリューション開発に従事しております。

本記事では、2020年8月31日にプレスリリースした産業向けIoTソリューション「IIJ産業IoTセキュアリモートマネジメント」にも内包されているADVANTECH社のクラウドサービス「WISE-PaaS」の概要を紹介します。

Industorial IoTとは

Industorial IoT(以下、IIoT)という言葉が生まれる前に戻りますが、21世紀以降のIT技術、特にネットワークの発達は、製造業をはじめとした産業界にも大きな変革をもたらし始めました。ドイツが国家プロジェクトとして推進する「インダストリー4.0」は、ネットワーク化され自律的動作する工場を第4次産業革命になぞらえて名付けられたものです。また、GEが主導するインダストリアル・インターネット・コンソーシアムは、製造メーカーのみならず北米を代表するITのビッグプレーヤーも巻き込み様々なユースケースを創出しています。両者に共通しているのは「分散されて配置された工場や設備をネットワーク接続し、センターに集約されたデータをリアルタイムにソフトウェアで解析することで、業務の効率化や改善につなげる」ことではないかと思います。少し身近な例に落とし込むと、以下のようなケースをイメージすることができるでしょうか。

  • 工作機の稼働情報をセンシング・解析することで、壊れてから調査するのではなく、壊れる前の予防交換を行い、ダウンタイムの削減につなげる
  • プラント設備の診断業務に関して、計測器のメータを、定期的に人が診断結果を紙に記録して履歴を残すのではなく、クラウド上に常時記録されている状態にすることで無人化する
  • 電力設備の調査を行う際、設備に直接人が赴くことなく(特に、高所や危険箇所など)、ネットワークを介してリモートでメンテナンス業務を行う

対象をサーバやストレージに置き換えれば、ITの世界でも似た様な取り組みを実施していることがわかるのではないでしょうか。多種多様な機械の存在する産業分野において、このような利便性を実現するためには、ハードウェア(センサーや産業用コンピュータ)、ネットワーク、クラウド、アプリケーション、アナリティクスが一体となったプラットフォームが必要となりますが、ひとつの企業が提供できる領域を大きく超えています。前述のインダストリー4.0やコンソーシアムも、企業間での共創を生み出す場を担っているのだと思われます。

IIJは ネットワーク、モバイル、クラウド、セキュリティ サービスを提供し、それらを組み合わせてIoT事業を展開してきましたが、特にIIoT分野においては台湾ADVANTECH社と協業することで、日本国内へ向けた産業向けソリューションを展開しています。

セキュアIIoTプラットフォーム「WISE-PaaS IIJ Japan-East」

WISE-PaaSは、産業用コンピュータでトップシェアを占めるADVANTECH社がグローバルで展開する産業向けのクラウドサービスです。WISE-PaaSの日本リージョンである「WISE-PaaS IIJ Japan-East」は、IIJのクラウドサービスであるIIJ GIO上で提供されており、IIJのモバイルサービスやWAN/VPNサービスなどのコネクティビティをご利用頂くことで、工場などの現場に設置されている産業機械とWISE-PaaSとを安価かつ容易に「閉域網」でつなぎこむことができます。近年、日本の製造業においてもクラウド利用のご相談が当たり前のように出てきておりますが、培ってきた技術や情報の流出は避けなければなりません。IIJのネットワークとWISE-PaaSを組み合わせた「WISE-PaaS IIJ Japan-East」は、インターネットにつながない安心・安全なIIoTプラットフォームを提供します。

IoTサービス「WISE-PaaSコネクタ」により閉域網による接続が可能

IIoT向けクラウド

WISE-PaaSが「IIoT向けクラウド」と称される背景には2つの理由があると考えています。
一つは、提供されるPaaS機能のラインナップに、IIoT領域で必要とされるデータ受信・蓄積・可視化・分析のための機能が揃っている事。
もう一つは、IIoT分野で発生する様々な業務ニーズ毎に、予め複数の機能をパッケージ化したアプリケーションが用意されている事です。

多くのIoTの取り組みがそうであるように、IIoTにおいても産業機械や設備の「データ」を扱うプラットフォームが必要になります。このプラットフォームには、そのデータを受信・蓄積・可視化・分析するシステムが必要となりますが、これらを個別のインテグレーションで構築するのは初期コストを要します。WISE-PaaSでは、データを取り扱うメッセージキュー、蓄積するデータベース、可視化するダッシュボード、分析するノートブック/コンピュートリソースをすべて「PaaS」として提供しているため、管理ポータル画面から数クリックするだけで、そのインスタンスが起動し利用開始できるようになっています。近年の主要クラウドサービスが提供するPaaSは種類が非常に多く、学習コストを要すると感じていますが、WISE-PaaSは IIoT用途に利用するものを厳選してPaaS提供されており学習はそれほど難しくありません。

また、PaaS上のアプリケーションセットがSolution Ready Package(以下、SRP)として提供されており、このアプリケーションをそのまま利用することも可能です。例えば、工場IoTにおいては生産設備の生産数や稼働率をアンドン(ダッシュボード)で参照する業務がありますが、iFactory OEE(設備総合稼働率)というSRPアプリケーションを利用すれば、初期コストを投じて開発せずとも「設備稼働の見える化」のアプリケーションが利用開始できるようになっています。SRPには、工場向けの「iFactory」だけではなく、「Machine to Intelligence(高度な設備監視)」、「FEMS(ファクトリーエネルギーマネジメントシステム)」などのレディーメイドなSRPアプリケーションが提供されています。冒頭で触れたIIJのソリューション「IIJ産業IoTセキュアリモートマネジメント/Machinery」「IIJ産業IoTセキュアリモートマネジメント/Factory」も、IIJが展開する産業向けアプリケーションセットの一つになります。

WISE-PaaS全体像

IIJ産業IoTセキュアリモートマネジメント/Factory 生産管理テンプレート(画面の左側がSRPフレーム)

ここから、WISE-PaaSの技術面での特徴を紹介します。

オープンな技術が採用されたPaaS

PaaSのご説明の中で、受信・蓄積・可視化・分析などの機能について触れましたが、これらの機能はオープンソースソフトウェア(OSS)により実現されています例えば、データ(メッセージ)を扱う部分にはRabbitMQ、データベースはPostgreSQL、時系列データストアはMongoDBやInfluxDB、ダッシュボードはGrafana、分析はJupyterLab/Python/Hadoopがバックエンドで採用されおり、何れも豊富な情報源のある著名なソフトウェアです。メーカー独自のブラックボックス化されたプロダクトではないため、普段からOSSに触れているご担当の方々であればスムーズに導入することが可能です。
また単に元のOSSのままを提供するだけで無く、独自の拡張が施されているものもあります。例えば、Grafanaは非常に簡単にグラフ化や監視/通知が開発できるダッシュボードアプリケーションですが、産業向けの可視化プラグインやSRPフレームという画面アクセシビリティを高める拡張が施されている点があげられます。

管理ポータル上のPaaS「カタログ」

Kubernetes基盤によるカスタマイズ性

前述したPaaS機能やSRPアプリケーションをそのまま利用することも可能ですが、多様化するIIoTのニーズに応えるためには利用者が独自の機能を実装できる仕組みも必要です。そのための機能として、WISE-PaaSではマネージド「Kubernetes」(以下、k8s)によるコンテナ実行環境が提供されます。利用者は、マニフェストファイルでインフラを宣言的に定義し、k8sクラスタ上にPodと呼ばれるコンテナをデプロイすることで、独自のアプリケーションを簡単に立ち上げることが可能となっています。提供されているPaaSおよびSRPだけでも基本的なIIoT向けシステムは構築できますが、k8sを利用することでプリセットの機能だけでは手の届かないシステムをWISE-PaaS上で展開することができます。

WISE-PaaS/EnSaaSの基本アーキテクチャ

産業機械とクラウドのデータ連携

本記事をご覧頂いている方の中には、アプリケーションやクラウドなどは問題無く扱えるものの、産業機械自体の扱いに不安を覚えるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。その場合、ADVANTECH社のゲートウェイ機器と一緒にWISE-PaaSをご利用頂く事により「WISE-PaaS/EdgeLink」という仕組みが利用可能になります。この仕組みを利用する事で、PLC/CNCなど産業機器からのデータ取得や、WISE-PaaSへのデータ連携を実現するための負担を大幅に軽減する事ができます。なお、前述の通りWISE-PaaSはオープンなシステムであるため、ADVANTECH社のゲートウェイ機器以外からでも利用できます。
EdgeLinkは、ADVANTECHの産業用ゲートウェイ機器などに搭載されているソフトウェアの名称です。EdgeLinkは、国内外200以上のPLC/CNCからデータを取得するドライバーを内包しており、PLC/CNCの製品名とアドレス情報を指定すれば様々な産業機械からデータを取得することが可能です。さらにWISE-PaaSとのMQTT接続などのクラウド連携の設定も含め、すべてGUI操作(開発ソフトウェア EdgeLink Studio)で行えます。ゲートウェイ機器上の開発に関して、プログラミングを行うことなく、基本的な産業機械からのデータ取得、クラウドへの連携が簡単に行えるようになっています。
産業機械からのデータ取得に関しては、また別の記事にて詳しくご紹介する予定です。

データ収集ソフトウェア「WISE-PaaS/EdgeLink」

まとめ

今回はWISE-PaaSの概要紹介になりましたが、次回以降ではWISE-PaaS上で利用できるデータ分析向けアプリケーション、産業用機械・産業用ネットワークを介したデータ連携方式、WISE-PaaSの裏側で採用されているk8sなど、より深い業務ユースケース、技術レイヤーのトピックに触れていきたいと思います。

高舘 洋介

2020年10月27日 火曜日

ビッグデータ基盤エンジニアを経て、現在はIoTプラットフォームのサービス/ソリューション開発に従事。今もなおHadoopが好き。

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