ここまでわかる! LoRaWAN®電波測定ツールを改良してみた!
2022年01月13日 木曜日
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はじめに
はじめまして!2021年に新卒として入社しましたIIJ IoTビジネス事業部の宇野と申します。
まず簡単に自己紹介ができればと思います!
大学ではロボット工学を学んでおり主に経路計画の研究を行っていました。
現在は素人でありますがLPWAについて日々苦戦しながら勉強を進めております。
さて今回の記事はすでに自社開発・販売しているLoRaWAN®電波測定ツールの改良についてです。
IIJでは低消費電力長距離無線(LPWA)のLoRaWAN®を用いたIoTソリューションを提供していますが、実際のLoRaWAN®センサーとゲートウェイを設置場所でLoRaWAN®の無線通信が十分に可能か、弊社では電波測定ツールを利用して判断しています。
従来の電波測定ツールでは単にセンサデータ送信(以降Uplink)に対してのACK応答が返ってきた回数から通信状況の良し悪しを判断しています。
通信にはACK応答も重要なのですが、RSSI(電波強度)や、SNR(信号対雑音比)と呼ばれる指標も重要となってきます。
そこで今回自社開発した電波測定ツールでRSSIやSNRも見れるようにしました。
電波測定ツールのロジック
電波測定デバイスを起動すると、予めデバイス登録が行われているゲートウェイと通信を開始します。
電波測定ツールはゲートウェイに対しダミーデータ(Uplink)を送信し、それに対しゲートウェイはACK応答(Downlink)を返します。
電波測定ツールはACK応答が届いたか否かで○×の判定を行い、LCDにACK応答のRSSI SNRをあわせて表示を行います。
この動作を30回繰り返し、最後に成功率の表示を行います。
RSSIとSNRとは?
そもそもRSSIとSNRはどういったものなの?という疑問をお持ちの方もいるかもしれません。
RSSI は無線の電波強度を示します。LoRaWAN®では-120dBm が最小(限界)と言われています。
但し、最小値に近いと少しの環境変化で通信が不安定になるなども想定されるため、我々の経験上、100dBm台 までを推奨値として設置場所を検討していくことが多いです。
SNR は受信信号とノイズの差分の数値を示しており、数値が大きければ大きいほど良質な環境といえます。
LoRaWAN®ではいわゆる送信感度に該当するSF値(スペクトラム拡散値)という値があり、今回想定する電波測定ツールの仕様であるSF10という値では-15dB 程度が最小(限界)と言われております。
但しRSSIと同じく、最小値に近いほど少しの環境変化で通信が不安定になるなども想定されますので、安定して受信できない場合は設置場所を変える等で SNR の改善を検討を行うのが一般的です。
RSSIとSNRを把握せずに環境構築を行うと、通信の安定性を確保することができません。
安定した通信の実現には、通信の安定性の指標となるRSSIとSNRの値を把握することが非常に重要になります。
どういう風に改良したの?
従来の電波測定ツールは以下の図のように測定開始後ACK応答が会った場合には◯、なかった場合には×と30回通信を試験し最終的に成功率を表示するような仕様となっております。
IIJでは30回のデータ送受信中、成功回数が26-27回以上をセンサ配置位置としての問題ないと判断していますが、では24,25回ではだめなの?という疑問が出てきます。
結論から言えば「環境による」との一言に尽きますが、その環境をどうやって判断するの?といったときにひとつの判断基準になるのがRSSIやSNRです。
例えば、成功回数が25回とギリギリ非推奨判定の範囲でもRSSIやSNRの値が比較的良好な場合もあります。
こういった場合には同じ場所で数回測定を実施して継続的に安定的な通信が行われていれば、問題ないと判断するケースもあります。
従来もUplinkのRSSIやSNRログはセンサーデータを集約しているゲートウェイで閲覧可能なのですが、都度ゲートウェイにログインして確認するのは手間がかかると思っていました。
そこで今回電波測定デバイスはACK応答つまりDownlinkを受信するのでそのDownlinkのRSSIとSNRを今回電波測定ツールで見れるようにしました。
実際の仕様としては以下のようになります。
ゲートウェイから応答を受信した場合左上のACK部分に受信成功の“O”の表示、左下に現状の送受信回数(受信成功回数/送信回数)、右部分にはDownlinkのRSSIとSNRの瞬時値取得成功時には瞬時値が表示されます。
ゲートウェイから応答を受信できなかった場合ACK部分は受信失敗の“×”の表示、受信失敗時にはRSSIとSNRの瞬時値の取得はないため“none”が表示されます。
30回のテスト終了後、画面上部に“finished”、左下部分には最終成功率、右側では最終成功率を%表示します。
UplinkとDownlinkのRSSIとSNRについて
先ほど書いたとおり測定デバイスのLCDパネルに表示を行っているRSSIとSNRはDownlinkのものです。センサがデータを送信する時のUplinkのものではありません!
では実際にUplinkとDownlinkのRSSIとSNRはどんな関係があるのと疑問が出てきますが、基本的にDownlinkのがUplinkより両方とも低くなる傾向があります。
個人的な体感にはなるのですがRSSIは基本的にDownlinkのほうが10 ~ 30dBm程度低く、SNRは1 ~ 2dB程度低くなります。
以下は弊社飯田橋オフィス16階の自席にゲートウェイを設置し、ゲートウェイの近く(1m程度)で電波測定を行った際のUplinkとDownlinkの比較表になります。
実際に平均を見てみるとUplinkとDownlinkで今回は25dBmの差が出ている事がわかります。ゲートウェイの近くで測定してもこれだけの差が出ます。
改めて強調しますが、今回の改良した電波測定ツールはDownlinkのRSSIとSNRを表示しているため、扱う際にはこういったUplinkとDownlinkの特性を踏まえる必要があります。
Uplink | Downlink | |||
---|---|---|---|---|
試行回数 | RSSI(GW) | SNR(GW) | RSSI
(電波測定ツール側) |
SNR
(電波測定ツール側) |
1 | -35 | 9 | -51 | 8.75 |
2 | -31 | 11.2 | -50 | 8.25 |
3 | -27 | 9.2 | -56 | 8.25 |
4 | -24 | 9.2 | -52 | 7.25 |
5 | -27 | 8.8 | -56 | 7.00 |
6 | -34 | 8.8 | -53 | 6.50 |
7 | -27 | 7.5 | -51 | 7.00 |
8 | -23 | 7.2 | -51 | 8.50 |
9 | -29 | 7.2 | -54 | 6.50 |
10 | -35 | 8.2 | -57 | 8.00 |
11 | -29 | 7.8 | -52 | 7.25 |
12 | -30 | 8 | -51 | 7.75 |
13 | -25 | 7.5 | -51 | 7.25 |
14 | -25 | 8.5 | -54 | 5.75 |
15 | -24 | 8.2 | -52 | 7.25 |
16 | -29 | 6.8 | -51 | 7.25 |
17 | -29 | 9.2 | -50 | 8.75 |
18 | -33 | 8.5 | -56 | 6.50 |
19 | -30 | 10 | -56 | 8.25 |
20 | -25 | 9.8 | -53 | 5.75 |
21 | -29 | 11.2 | -58 | 7.25 |
22 | -22 | 9.2 | -56 | 7.25 |
23 | -25 | 7.2 | -57 | 7.75 |
24 | -29 | 7 | -52 | 6.25 |
25 | -30 | 12 | -53 | 7.00 |
26 | -29 | 7.8 | -53 | 6.75 |
27 | -27 | 10.2 | -53 | 7.00 |
28 | -25 | 9 | -52 | 7.25 |
29 | -27 | 9.5 | -52 | 8.50 |
30 | -24 | 9.8 | -52 | 7.50 |
平均 | -27.9 | 8.8 | -53.2 | 7.3 |
まとめ
今回電波測定ツールを改良し、DownlinkのRSSIやSNRの特性を踏まえご紹介しました。
まとめると以下になります。
- 電波測定ツールの改良の実施
- 従来の◯×判定に加え、DownlinkのRSSIとSNRの表示の実施
- DownlinkはUplinkに比べ、RSSIとSNRはやや低くなる
まだまだ改良の余地はあるものの、実際の現場で使用してみるとやっぱりRSSIとSNRが見れるのはいいなと感じました。
先ほど書いたとおりUplinkとDownlinkのRSSIやSNRの特性を踏まえた上で扱うと、ゲートウェイに対しUplinkのログを見に行く必要がなくなるため電波測定ツールのみでその場の環境を把握することができます。
実際に改良前はUplinkのログを見に行った上でゲートウェイの設置位置などを提案しておりましたが、改良後は電波測定ツールのみである程度の判断ができるため作業の効率化につなげることができました。
今後はこちらのツールを使用することにより、IIJとしても様々な環境に対応したソリューションの開発、提案に挑戦していくつもりです。
IIJでは12月よりこの新しい仕様でLoRaWAN®測定デバイスの販売提供を行っておりますので、ご興味のある方は是非、IIJまでお問い合わせください。