技術士(電気電子部門)その弐【エンジニアに役立つ資格】
2023年06月06日 火曜日
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はじめに
本記事では、「技術士」という資格について紹介します。
建設業など一部の業界ではメジャーな資格ですが、他の分野では接する機会があまりない資格かもしれません。
以下では、技術士がどんな資格か、取得のメリット、試験の概要などについて、体験を含めて説明したいと思います。
技術士ってどんな資格?
技術士資格(※1)は、技術士法に基づく文科省所管の国家資格です。試験合格後に法定の登録を受けることで“技術士“(英文表記は、Professional Engineer [略称:P.E.] )という名称を用いることを認められた、いわゆる名称独占資格です。
技術士とは? ということになると、“科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務”をする人というのが定義(※2)になります。さらに、公共の利益を確保するという責務が課されているなどしている点がこの資格ならではの特徴かと思います。手短かに言ってしまうと、“専門的な知識や応用力と倫理意識をもったエンジニア” といったところでしょうか。
技術士は科学技術の広い分野をカバーしていて、以下の21技術部門ごとに試験が行われています。私は4.電気電子部門の技術士に登録しています。
- 機械 2. 船舶・海洋 3. 航空・宇宙 4. 電気電子 5. 化学
6. 繊維 7. 金属部門 8. 資源工学 9. 建設 10. 上下水道
11. 衛生工学 12. 農業 13. 森林 14. 水産 15. 経営工学
16. 情報工学 17. 応用理学 18. 生物工学 19. 環境 20. 原子力・放射線
21. 総合技術監理
最初の試験が1958年に実施されたという歴史のある資格で、規模的には毎年3万人以上が受験し、これまで約10万人が技術士登録しています。試験や登録の指定機関であり、技術士によって構成される日本技術士会は約1.9万人の会員を擁しています。
技術士資格は、名称独占資格ですのでこの資格がなければできない仕事というのはありません。しかし、後述するように、他の法律によって様々なメリットや特典が与えられています。また、国際的なエンジニア資格であるAPECエンジニア、IPEAエンジニアに登録申請できるなど、エンジニアとして海外で働きたい方や海外のエンジニアと交流したい方にとって有益な資格になっていると思います。
技術士には、企業や官公庁で研究開発や事業遂行などに従事される方の他、コンサルタント企業内あるいは個人で独立開業して技術コンサルタントをされている方もいます。また、企業内技術士会、公務員技術士会、大学技術士会などで、資格取得の支援や技術士相互の連携などの活動が行われています。
技術士資格のメリット・特典
技術士資格のメリットの一例を説明するため、電気通信に関連する国家資格について整理してみました(下表)。
複数の法令に関連して、資格がないとその業務ができない業務独占資格や事業場に配置が義務付けられている必置資格があります。また、名称独占資格には、建設業法で定められている技術者になり得る資格になっているものがあります(表中の注3)。
建設業では工事現場や営業所に所定の技術者を配置することが必要になりますが、技術士資格はこの技術者になれる資格となっています。他の資格では制約がある場合もあるのですが、技術士資格はどの必置技術者にも対応できます。建設業の種類(電気通信工事業、土木工事業、etc.)と技術士の技術部門とには対応関係があり、電気通信工事業には電気電子部門が対応しています。なお、IIJは電気通信工事業の許可を東京都知事から得ています。
電気通信に関連する国家資格注1 | |||
根拠法 [所管] |
業務独占資格 | 必置資格(設置義務資格) | 名称独占資格 |
電気通信事業法 [総務省] |
工事担任者注3 | 電気通信主任技術者注3 | |
電波法 [総務省] |
無線従事者 | ||
建設業法 [国交省] |
次の技術者が必置注2 ●営業所:専任の技術者 ●工事現場:主任技術者または監理技術者 |
電気通信工事施工管理技士注3 | |
技術士法 [文科省] |
技術士:電気電子部門注3
技術士:情報工学部門
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情報処理の促進に関する法律
[経産省]
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情報処理技術者:ネットワークスペシャリスト
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職業能力開発促進法
[厚労省]
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職業訓練指導員:電気通信科
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情報配線施工技能士
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注1:以下をもとに作成 ・Wikipedia, 「日本の通信に関する資格一覧」の国家資格 ・総務省評価局, 「検査検定、資格認定等に係る利用者の負担軽減に関する調査 結果報告書」 H23.10 ・国交省HP, 「営業所専任技術者となり得る国家資格等一覧」 注2:建設業法で定める技術者の要件には、国家資格だけでなく実務経験も含まれる。詳細は関連法令を参照 注3:電気通信工事業で建設業法により定められた技術者になり得る資格 |
建設業関係では他にも、建設コンサルタント会社の専任技術管理者になれるとか、公共工事の入札の時に技術士人数が得点になるといったメリットがあり、建設コンサルタント企業や公共事業に応札する企業では資格取得者の育成や支援を組織的に行っている企業もあります。
また、技術士の試験に合格すると他の国家資格の試験の一部が免除になる特典もあります。電気通信/電気工事施工管理技士や労働安全コンサルタント、弁理士などの筆記試験の一部が技術部門に応じて免除になります。
特典等の詳細は、日本技術士会:「技術士制度について」を参照いただければと思います。
技術士試験
技術士試験(※3)には一次試験と二次試験があり、技術士になるにはその両方に合格する必要があります(※4)。
・一次試験:
マークシート式、 出題内容:科学技術全般と技術部門別の基礎/専門知識、技術士法
得点50%以上で合格、合格率:40%程度(全技術部門)(※5)
・二次試験:
(1) 筆記試験:マークシート式(※6)+記述式(600字詰め原稿で計7枚、手書き)、出題内容:技術部門全般の専門知識、選択科目の専門知識/応用能力/課題解決能力
(2) 口頭試験:個人面談、約20分/人、経験業務説明や技術者倫理等のQ&A、
(1), (2)ともに60%以上の得点で合格、合格率:10%程度(全技術部門)(※5)
一次試験は、一次試験用参考書1・2冊と過去問を解くことでなんとかなりました。専門外の問題が含まれることと合格ラインが50%であることを考慮すると、全問正解は目指さないというのがコツかと思います。
二次試験の筆記試験では、知識を問われるマークシート式の部分は過去問対応しましたが、記述式の部分の方はそういう訳にはいかず、まず勉強の仕方に困りました。過去問は公開されていますが回答論文例の入手がなかなか難しく対策しづらいのです。それでも、専門知識を問われる記述問題については、過去問を参考にして要点をアイテムごとに1枚にまとめた技術ノート(キーワード集、図が一例)を作るなどして勉強を続けました。しかし、応用能力や問題解決能力を問われる記述問題への対策は十分な準備ができずに受験日を迎え、1度目はあえなく敗退してしまいました。
再挑戦では、独学のみはやめて、都内の私立S大学の技術士会が主催していた対策講座を受講しました。そこでは、論文作成方法を学び添削もしていただきました。また、購入した論文回答例集を使った原稿用紙への書き写し練習で、普段はめったにすることのない”手書き”の対策(筋トレ)をしました。
課題解決能力を問われる論文問題に取り上げられていたテーマは、技術者不足、循環型社会、少量多品種生産、IoT、無線給電、半導体スケーリング等々、社会的なニーズやその時々に話題性の高い技術に関係してい るようでした。このため、技術系の雑誌やオンラインマガジン、官庁発行資料、学会誌などでトレンドを意識するようにしていました。それと並行に、論文の構成や論旨の展開の練習を、過去問を使って行いました。試験当日もいきなり書き始めるようなことはせず、結構時間をとって論文構成を検討してから書き始めました。そんなこんなで、今度は何とか合格できました(図は当日の回答再現論文)。
口頭試験では、受験申込書に記載した経験業務をもとに質問されます。実際に担当した業務で直面した困難や制約に対し、技術的にどんな創意工夫して対処したかなどを答えます。受験申込時点での対策がポイントになり、専門分野が必ずしも一致していない面接官の方にも経験業務を理解していただけるよう、上記の大学講座で経験業務部分を添削していただいたことが有効だったと思います。
合格すると、国家試験なので官報に名前が掲載されます。官報を購入したのは、後にも先にもこの時だけです。
技術士CPD(Continuing Professional Development:継続研鑽)
技術士には、資格取得後に自主的に知識や技能を向上するため、講演会等への参加、学協会活動、自己学習などのCPD活動の実施が求められます。技術士資格には資格更新のしくみは今のところないのですが(※7)、継続的な資質向上が法定の責務となっています。
日本技術士会では、各種の講演会や見学会など、技術士CPDのための場を提供しています(※8)。また、CPD活動実績を登録して認定証や実績証明書を発行する制度も運用しています(※9) 。
試験合格後は、私も日本技術士会主催の講演会や見学会にいろいろと参加しました。その中で特に印象深かったのは、東工大 札野教授(現在は早大教授)の「技術者倫理2.0」という講演でした(※10) 。
技術者倫理というと、業務上の不都合を防ぐために技術者に課される義務や責任といった制約的な方向に偏りがちのように思います。札野先生の「技術者倫理2.0」の講演は、従来の「べからず集」ではなく、「よいことを積極的にやる」方向を指向されていました。“技術者は自然の力を経済的に活用する方法を開発する専門職であり、自分自身よりも大きなもの(社会、環境、地域、etc.)のために仕事をして貢献することで、技術者自身がこころの幸福度が高まり「よりよく生きることができる」”というお話に、とても前向きで肯定的な気持ちになったことを覚えています。
おわりに
ICTが社会インフラとしての重要性が増す中、ニーズの変化に応じたシステム構築や安定した運用、利便性の高いサービスの提供などはこの業界で働くエンジニアによって支えられています。とりわけ早い技術の進化に対応しながら専門的な知識やスキルを使い社会を支えるために尽力しているという点では、まさに“公共の利益に貢献する仕事”をされているのだと思います。
そういった仕事をされていれば、業務の中で問題や制約と対峙し技術的な解決に取り組んだ経験をされたことがある方は少なくないのではないでしょうか? そういう方々であれば、技術士試験で求められる実務経験の内容的な要件をクリアしていると思います。
私にとって技術士資格の取得は、自分がエンジニアであることの意味を再確認するきっかけになりました。エンジニアでなければできないこと、エンジニアだからこそできること、そういったことを自律的に考え自らの仕事に前向きに誇りをもって取組む、そんなエンジニアがこの資格取得を通じて増えることを望んでいます。
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