IT系アドバンスド・コーヒーマイスターが語る「コーヒーとIT」

2025年12月12日 金曜日


【この記事を書いた人】
井上 隆仁

入社以来開発一筋。世界がコロナ禍に突入する直前にたまたまコーヒー学校に行ってしまったのが運の尽きで、生来の道具沼傾向もあってその沼から抜け出すことは不可能と覚悟を決めたもよう。SCAJアドバンスド・コーヒーマイスター

「IT系アドバンスド・コーヒーマイスターが語る「コーヒーとIT」」のイメージ

IIJ 2025 TECHアドベントカレンダー 12/13の記事です】

プログラマなる人種の生態と言えば、

  • コーディングに集中してる時、その傍らにはオフィスコーヒーをなみなみと注いだ自社の周年記念や展示会でゲットしたロゴ入りマグカップがある
  • おかわりを注ぎに行くのが休憩と最低限を到底満たさない運動の機会
  • たまに愛用のノートPCやキーボードにおすそ分けして絶望を味わう

というもので間違いないでしょう。

それは「コーヒーとITエンジニア」だってば。

コーヒーとIT

古き良き喫茶店のマスターやイマドキのカフェで働くバリスタたちは、磨き上げた技術と感性をバックにして美味しいコーヒーを淹れて提供してくれます。好みを伝えるとフィットする豆を選んでくれて、「コーヒーに興味がある」なんて伝えると、その豆が穫れた農園や精製方法など生豆に関すること、自家焙煎をしているお店なら焙煎でのこだわり、などなどいろんな話をしてくれます。そしてそのコーヒーを口にして「うまっ」と感動して、自分でも淹れるからと豆を買って帰ります。

さて「あの感動を再び」と淹れてみるのですが。。。

抽出と抽出レシピ

「コーヒーを淹れること」をちょっと科学的に表現してみると「コーヒー豆が持つ味や香りといった風味成分を水に溶かし出すこと」となるでしょう。この行為を「抽出」と言います。ちなみに英語では “brew” です。コールドブリュー(水出しコーヒー)やミルクブリュー(水ではなくミルクを使って抽出)といった言葉を耳にしたこともあるんじゃないでしょうか。
また、コーヒーの抽出は「コーヒー豆と水を材料にして飲み物を作る調理」と表現することもできます。ということで、これら材料の分量と抽出工程を合わせて「抽出レシピ」と言います。
お店で豆を買う際にぜひ「レシピを教えて」と伝えてみてください。きちんと用意されたレシピ書をくれたり、口頭で教えてくれたりします。お店のホームページや動画チャンネルで説明や実演をしているところもあります。もしかしたら「さんざん試行錯誤してようやくできあがったレシピを口外するわけにはいかん」と断られるかもしれません。もしそんなお店に出くわしてしまったらご一報ください。機会を見つけて訪問してみようと思います。

お店と同じ豆に加えてレシピも手に入れた。これで「あの感動を再び」は約束されたはず。。。

再現性

プログラマなる人種にとって「再現性」と言えば、

  • この単語が飛び交う状況には陥りたくない
    • 不具合が報告されて解決に向けて血眼になってる状況だから
  • そんな状況にあっては藁よりも掴みたいステキなもの
    • 掴めると出口の光が見えてくるものだから

というもので間違いないでしょう。

プロの調理の世界では再現性が重要だと言います。同じ料理を作ってるのであれば、味はいつも同じでなければなりません。作るたびに味が変わってるようではプロの仕事とは言えませんし、客としても「前にいただいて美味しかったので今日は楽しみにして来たのに、いざ口にしたらなんだか味がぼやけてる」なんて目にあった二度と足を向けませんよね。
レシピは再現性を高めるのに大きな役割を果たします。もちろんレシピだけあっても技術がともなわないと、再現性が低くなるのは想像に難くありません。

再現性と抽出関連器具

コーヒーもしかり、淹れるたびに味が変わるようではプロの仕事ではないですし、自分で飲むために自分で淹れてるのだとしても困りものです。コーヒー豆の味比べをしようとしたときに抽出にブレがあると正確な比較はできなくなります。

ここからはコーヒーの抽出において再現性を高めることに寄与するであろうITを、抽出に関連する器具ごとに見ていきます。

グラインダー

コーヒーを淹れる場合、材料のコーヒー豆は「豆」のままではなく、器具を用いて挽いて「粉」にして使います。スーパーなどでは既に挽いてある「粉」商品が多く売られていますね。輸入食材店やカフェなどでは「豆」で売っていて、選んで注文すると「挽きますか?」と尋ねられます。そこで挽いてもらう方もいらっしゃれば、そのままで買って行って淹れるたびに挽く方もいらっしゃるでしょう。
このコーヒー豆を挽く器具を「グラインダー」や「ミル」と言います。両者の違いについては検索してみるといろいろと出てきますが、私はグラインダーと言うことが多いので、以下ではグラインダーで統一します。

グラインダーにおいて再現性の肝となるのは挽き目の調節です。より正確には機種や使ってる刃によって異なる「粒度分布」も重要なのですが、本稿ではこの単語は出すだけに留めておきます。

私が自宅で愛用しているグラインダーの一つにMahlkönig社のX54というものがあって、なんとWi-Fiを喋ります。挽き目を調節してコーヒー豆を挽くだけの機械なのに、マニュアルを見るとWi-Fi設定の項があります。IPアドレスがついています。立派なネットワーク機器です。(笑)であれば、Wi-FiルータのMACフィルターに追加登録するために、MACアドレスをどこかに書いておくなり調べ方をマニュアルに記載しておいて欲しかった。。。(イマドキのWi-Fiを喋る家電あるあるですね)

 Mahlkönig Homeのスクリーンショット

対向はスマートフォンアプリ Mahlkönig Home です。本体に4つまでセットできるレシピ(ここでは挽き目の設定と豆を挽く時間の組)の管理と、刃の交換時期の目安となる稼働時間などの統計情報を閲覧することができます。「ここまでできるなら、対向をクラウドに置いたサーバにしてブラウザでアクセスするようにして、別途APIの口も用意すればいいのに」と思ってしまうのは職業病でしょう。
一つ残念なのは、挽き目の調節は手動操作であること。そして無段階調節なので、調節ツマミに印をつけるなりしておかないと再現性が落ちてしまうこと。ただ、同社のハイエンド製品には挽き目を電動でミクロン単位で調節できる機構を持つものがあって、選んだレシピは自動で完全に再現されます。ホーム向けラインで搭載機が出るのを期待しておくとします。

【余談】などと書いていたら、E64 WSという新製品がリリースされてしまいました。マズい。。。

挽き目についてはトップバリスタのSNSや動画のコメントで質問されているのをよく目にします。やはり憧れの人の味に一歩でも近づきたいですよね。

ドリップスケール

料理を作る際は材料も味付けも目分量なのに、パンやお菓子を作るとなるときっちり分量を量るという方は多いのではないでしょうか。実際、パン作りやお菓子作りを習いに行くときっちり量ることを強く指導されるようです。
コーヒーもまたきっちりと量るべきもので、使う豆の量を量るのはもちろん、抽出工程においてスケールの上に抽出液を受けるサーバやカップを置いて抽出量を確認しながら作業します。こうすることで味のブレが少なくなり再現性を高めることにつながります。キッチンスケールなどをお持ちでしたら、コーヒーを淹れる時にぜひ使ってみてください。そして出来上がったコーヒーの特に濃度感にフォーカスして飲んでみて、ちょうど良ければその量を次も使い、濃かったり薄かったりしたら使う豆の量や注ぐお湯の量を加減してみてください。

抽出工程においてもう一つ重要なのが時間の管理です。ハンドドリップやサイフォンなど抽出方法によって時間を管理すべき工程段階は異なりますが、いずれもきっちり守ることが再現性を高めることにつながるのは言うまでもありません。キッチンタイマーやスマートフォンの時計アプリのタイマー機能など使ってみてください。

ドリップスケールは言わばコーヒーの抽出に特化したキッチンスケールです。重さと時間を同時に計測することができるのはもちろん、抽出が始まったら自動的にタイマーがスタートする機能やワークフローにしたがって風袋引きがなされる機能など、コーヒーの抽出に便利な機能をいろいろ備えています。

JIMMYのスクリーンショットJIMMYのスクリーンショット

高級機種を中心に、スマートフォンアプリと連動して抽出の様子(重量変化)を記録できるものもあります。コーヒー抽出の「見える化」ですね。アプリでは抽出ログの管理、ログをベースにしたレシピの作成、作成したレシピの「再生」といったことができます。レシピを再生するとアプリやスケール本体にガイダンスが表示されるので、それにしたがって抽出を行います。この時のログを採点してくれるトレーニングモードを持つものもあります。
さらに、作成したレシピをクラウド上のサーバに登録してライブラリとして共有できるものもあります。チャンピオンやトップバリスタが作成したレシピも登録されているので、これらを使ってトレーニングすることで次のチャンピオンになれるかもしれません。

画像は愛用しているスケールの一つHiroiaJimmy専用アプリのものです。他にAcaia社のものやBOOKOO社のものがあります。

コーヒーメーカー

ここまでのものとは毛色が違いますが、コーヒー粉と水をセットして電源を入れると数分で美味しいコーヒーを作ってくれるコーヒーメーカーにもITの波が及んでいます。ここでは気になっているものを2つ紹介します。

  • UCC DRIP POD YOUBI
    • カプセル式のコーヒーメーカー
    • 本体の操作で基本設定で抽出するのと別で「スマートフォンを使って抽出」とあって、専用アプリに載っているプロが作ったレシピを選んで使うことができる
      • プロレシピを作ったご本人と一緒に基本設定とプロレシピとで淹れたものを飲み比べたことがありますが、狙い通りの違いが表現されていて驚きました
  • Hikaru V60 Smart Brewer
    • ハンドドリップを模したタイプのコーヒーメーカー
    • 「ハンドドリップ技術× ITテクノロジー」「IoT技術を使用してコーヒーをより楽しむための機能が搭載」とくすぐられるキャッチが並ぶ
    • スマートフォンアプリでレシピを作成・記録・共有することができるが、お湯の流量・注ぎ方・温度を自由にカスタマイズして複雑なレシピを作ることができるので、これまでに人の手では出せなかった味を出せる可能性がある

The Sync System

これは抽出に関連する器具ではありませんが、発表された時に「コーヒーとIT」の一つの完成形が見えた気がしたのでぜひ紹介しておきたいと思います。

このシステムは “THE KING OF GRINDERS” たるMahlkönig社と “エスプレッソ界のフェラーリ” たるla marzocco社が発表したもので、グラインダーとエスプレッソマシンをペアリングし抽出ログに基づいてグラインダーの挽き目を自動的に調節することで理想的なエスプレッソ抽出を行うというもの。グラインダーの項で触れたハイエンド製品の持つミクロン単位の挽き目調節機構が活かされています。
ペアリングの形にはいくつかあって、注目すべきはやはりWi-Fiを使った Cloud-to-Cloud 型でしょう。すべての抽出に関するデータはクラウド上のサーバに保存されているので、例えばポップアップストアを出店する際にこのシステムに対応しているマシンをレンタルすれば、普段の環境とは異なる場所であっても即座にそして継続的に理想とするエスプレッソを抽出することができそうです。

このシステムに対応するベンダーやマシンも着々と増えているようで、今後どのような発展を見せていくのか楽しみにしています。

https://www.mahlkoenig.com/products/the-sync-system

さいごに

コーヒーの抽出におけるITについて紹介しました。

「抽出レシピ」と「抽出ログ」を重要な情報と位置づけ、スマートフォンアプリやクラウドで管理したり利活用したりしています。これらは抽出の再現性を高める土台となります。
コーヒーと言うと「苦い飲み物」が相場だと思いますが、実際口にすると酸味が強いものがあったり後口の甘さの余韻が長いものがあったりといろいろです。また、その味や香りに美味しいと感動したり、逆に好みに合わないと残念な気持ちになったりと感情を動かされます。

「抽出情報と飲み手が感じ取った風味や心身の動きを照らし合わせていくと、新しい何かが見つかるんじゃなかろうか」と妄想しながら筆を置くとします。

さ、コーヒー淹れてこよっと。

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井上 隆仁

2025年12月12日 金曜日

入社以来開発一筋。世界がコロナ禍に突入する直前にたまたまコーヒー学校に行ってしまったのが運の尽きで、生来の道具沼傾向もあってその沼から抜け出すことは不可能と覚悟を決めたもよう。SCAJアドバンスド・コーヒーマイスター

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