『クリエイティブの授業』『クリエイティブと日課』『クリエイティブを共有』:私のお気に入りなエンジニア向け書籍

2021年05月18日 火曜日


【この記事を書いた人】
平井

現在は研究所勤務でDeepLearningの研究を行っています。 これまでソフトウェア開発環境改善としてアジャイルやDevOps、SREなどを調査、検証してきました。 最近、技術書ではない本やWeb上の情報から開発や研究に役立つことを見つけ出すのが趣味となっています。 特にクリエイティブ関連の情報は開発などにも役に立つことが多いです。

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はじめに

 

私は現在、Deep Learningを使用した画像検出やデータ予測に関する研究を行っています。

過去にはインフラ構築から各種コンサルタント、開発と多岐にわたる仕事をしてきました。 技術や知識も重要ですが、「常に今までと違う物を作り出す」、「そのためには技術や知識以外の要素が必要」という事に注意してきました。

今回はこれまで本ブログで紹介してきた技術文章や技術書の解説とはちょっと違った芸術に関する本からの紹介です。 一見、サービス開発や運用と言った面からみると関係無いようにも見えますが、実はとても示唆に富んだ内容でした。

今回紹介するのは、以下の三部作です。

  • クリエイティブの授業
  • クリエイティブと日課
  • クリエイティブを共有

その「クリエィティブの授業」から一つ引用します。

パソコンから離れる

パソコンはモノづくりの感覚を奪う、”知的労働”に実感が伴わない、パソコンはアイディアを編集するには良いが生み出すのには役に立たない、削除キーを押す機会が多すぎる。紙に書いたアイディアは消えない、またいつか見た時に何かの助けになるかもしれない。 パソコンだけでは完成に向かう以外の要素は削られてしまう。

私はパソコンからは離れていませんが、アイディアは全てVisioで描き、削除はしません。 そのためPCのドキュメントフォルダはVisioのファイルだらけです。 そして何かを始めるときはそれらの中から一部を取り出し資料に貼り付けていきます。 この本を読んで、それを一歩進めて自宅にホワイトボードを置こうかと思っています。 Facebookを作り上げたマーク・ザッカーバーグもホワイトボードがお気に入りでした。 パソコンから離れて身体を動かすことは決して無駄ではありません。

このような事柄を色々な筆者の経験や他人の意見、事象などを交えながら簡潔にまとめ上げています。 文字も大きめでとても読みやすく、疲れた頭にでも染み渡るように内容が入ってきます。

開発や運用で頭が疲れ、モチベーションが下がったりしていませんか? 昨今の在宅勤務で身体的な疲れより精神的な疲れが溜まっていませんか? これらの本は日々の辛い作業をよりクリエイティブにし、楽しくなる仕組みをじっくりと説明してくれます。 SRE(Site Reliability Engineering)など、開発者以外にもプログラミングなどの開発は広まっています。 アイディアを形にして利用していく上で、とても役に立つと思います。

クリエイティブの授業

書籍情報

クリエイティブの授業

  • 著者:オースティン・クレオン
  • 出版社:実務教育出版

副題は「STEAL LIKE AN ARTIST」です。この世に完全なオリジナルなど存在しません。 とても画期的な事でもよく見ると何かベースになるものがありその応用でしかありません。この本ではアイディアを盗むことを推奨しています。 ただコピーするのではなく、様々なアイディアから盗み一つにまとめ上げる事を勧めています。 これはプログラミングやシステム開発でもそうです。良いものは取り入れる、今は役に立たなくてもいつか役に立つかもしれないのでとにかく貯めておく…それがいつか組み合わさって自分のオリジナルとなる、こう言った事が主題となっています。

ゴミからはゴミしか生まれない

自分の周りを見渡してみましょう。周りにいる人やアイディア、サービス以上の事はできない、収集家であったとしても取捨選択は必要で溜め込み屋になってはいけないと言った事も書かれています。 これはとても重要な事です。 現状に満足せず、自分から進んで環境を変えていく必要がある(より良いものを盗む)事も示唆しています。

関わっている業務やサービスがゴミに見える事はありませんか? 私は大量に見てきました。 この中で一人文句を言っても何も生まれないですし変わりません。周りを変え、環境の変化を起こさない事にはゴミから脱出することはできません。

プロジェクトの一生

  1. 最高のアイディアだ
  2. うーん、思ったより難しいかも
  3. 結構時間がかかりそうだ
  4. これはひどい。しかもつまらない!
  5. (真っ暗闇)
  6. 一応完成させておくか、次へのヒントになるかもしれない
  7. 完成したけどつまらない。でも思ったほど悪くない

大抵のプロジェクトはこんな感じでしょう。でも、これで良いと思います。後述しますが作ったものはどんどんシェアする事で、今度は他人がそれを盗み、良いものにしてくれる場合があります。 そんなのズルい、悔しいと言うのもわかりますが、お互い様です。 今度はそれを盗んでより良いものを作りましょう。 終わりはありませんので、とにかくどんなものでも完成させ共有する、この事が自分を含めた環境の改善につながっていきます。

評価を求めない

これは簡単には割り切れないと思いますが、悪い評価は必ずあります。 これらを無視してどんどん共有していくことが大事です。 誤解される事、非難される事、無視される事、これらを恐れずに進めていきましょう。 ある日評価が正反対になるなんてことは日常茶飯事です。

クリエイティブと日課

書籍情報

クリエイティブと日課

  • 著者:オースティン・クレオン
  • 出版社:実務教育出版

副題は「KEEP GOING」浮き沈みから身を守り進み続けるためにです。 最初の本は総括気味な本でしたが、2冊目、3冊目はより具体的な話となっていきます。日々の過ごし方、作業のまとめ方などずっと進み続けるために必要な事が書かれています。

日課を確立する

人間の日課と言うものは妥協、強迫観念、迷信の独特な寄せ集め。それは試行錯誤を通じて築かれたもので、様々な外的要因に左右される。

通勤をしている場合、自然と日課は決まってきます。しかし、在宅勤務やフレックスなど時間の束縛が少ない場合は崩れがちです。 先ずは自分を観察して毎日どのように過ごしているか見てみましょう。 日記やブログを書くのも良いかもしれません。 そうして自分のモチベーションが上がる時間(朝型、夜型など)、気分が上がってくるために必要な行動(散歩や軽い運動、おやつなど)を見つけ出して、簡単な日課を作ってみましょう。

こうする事で一番モチベーションが上がり、クリエイティブになれる時間を無駄にしなくて済むようになります。

ニュース(SNS)なんて読まなくても、目は覚める

朝起きて一番に読まなければいけない程重要なニュースやSNSなんて、めったにない。 起きてすぐにケータイ(この本は少し前の本ですのでケータイとよく書かれています)に手を伸ばせばたちまち不安や混沌が入り込んでしまう。 と同時にクリエィティブな人間の生活の中でも特に生産性の高い時間をみすみす手放してしまう。

私はスマホが大嫌いで必要なければ捨てたいぐらいですが、世の中がスマホを基準に動いているため仕方なく使っています。確かに起床直後が一番リフレッシュされており活動に最も適しています。 しかし大抵の人(私も含む)はSNSなどを眺めてしまう…とても貴重な時間を無駄にしていることに気づかされました。 中には目を覚ますために読むと言う人もいると思いますが、その場合は睡眠の質を高め、寝起きをすっきりさせる方へ注力しましょう。

そして、スマホやケータイを目覚ましにするのはやめて、ベッドの反対側で充電するようにしましょう。 これは有効だと思います。 私も自宅に時計が無くスマホを使っていますがGoogle Hub辺りに変えて時間と天気、温度だけ見られるようにしようと思います。 またSNS、ニュースなどはお昼ぐらいまで見ないようにしたいと考えています。

ノーと言えるようになる

君の神聖なる時間を守るためには、周囲からの誘いなどを断る術を身につけなくてはならない。 「ノー」と言う方法を学ぶ必要がある。

仕事に関して言えば、おそらく大半の上司が嫌いな言葉でしょう。 しかし、毎日健康かつクリエイティブに生活するためには必要な言葉です。 とは言えノーのやり方もクリエイティブにすれば全く印象も違います。 「まず、自分を思い出してくれたことに感謝する。 次に誘いや提案を断る。 最後に可能な限り別の形で協力を申し出る。」、いかにもアメリカ的ですが、可能な限り別の形で協力を申し出ると言うのは有効でしょう。 ただノーと言うだけでは物事は進みません。

自分を守ろう

「フリマアプリで売れるんじゃない?」「これなら店を出せるよ」何故か商売の言葉を使って相手を褒めるやり方が刷り込まれています。 何かの才能を見た途端、仕事にした方が良いと勧められる。 しかし、趣味や情熱をお金に換えるのはとても危険です。私はコンピュータが好きで当然のようにこの業界に入りましたが大嫌いになってしまいました。今はスマホ同様必要に迫られて触っているだけで、PCも会社支給の物だけで自分のは持っていません。こうなってしまわないためにも、創作の自由は最大限に守るべきだと思います。そのためには収入相応ではなく、収入未満の生活を続けることが重要です。 そうしなければ副業などを行わなければならなくなり、趣味や情熱は削り取られていくでしょう。

Googleなどがやっていた20%ルールなどはこう言った創作の意欲を守るために設定されていました。 しかし会社の制度に頼らず趣味や情熱を維持して自分を守るためには倹約が必要と言うちょっと変わった提案です。

クリエイティブを共有

書籍情報

クリエイティブを共有

  • 著者:オースティン・クレオン
  • 出版社:実務教育出版

三部作の最後の本です。 この本は共有する事、続けることに注力して書かれています。 本が書かれた当時より共有する事に関しては非常に簡単になりました(当然批評もダイレクトに来るわけですが)。共有の仕方を間違えると炎上案件になったり、セキュリティ上の問題になったりと大変なことになります。 私がこの本の事を敢えてジャンル違いとも言えるIIJ Engineers Blogに書こうと思ったのも、クリエイティブと言う視点で見たプログラミングや開発などの在り方について皆さんと共有したいと思ったからです。 共有する事、お互いにアイディアを利用しあうことはとても重要です。 他人が凄く良いものを作った時、妬むのではなく、アイディアを拝借してより良いものを作りましょう。

 天才ではなく”地才”になろう

スティーブジョブズ、ビルゲイツなど天才と呼ばれる人たちは芸術分野に限らず次々に生まれてきました。 しかしよく調べてみるとみんなアイディアの盗みあい、協力関係など決して孤高の天才と言う訳ではありません。おそらく会社にも何名か天才と呼ばれるようなプログラマや開発者がいると思いますが、これらの人たちも一人だけでは何も成り立ちません。

音楽家のブライアンイーノは想像力についてもっと健全な考え方を提唱しています。「天才(Genius)」とは全く正反対の概念、「地才(Scenius)」です。 名案の多くはアーティスト、キュレータ、思想家、理論家、流行のリーダなど”才能の生態系”とでもいうものを構成しているクリエイティブな集団によって生まれるとしています。 つまり天才とは一部の結果だけを見たものであり、その根底はクリエイティブな集団によって構成されているという事です。

凡人だと思っていても、現在は情報共有手段が数多く揃っていますので、この集団に加わる事も可能ですし、新しいコミュニティを作る事も可能です。 会社のプロジェクトメンバーがこの”地才”と言う考えのもとに協力し合えば、おそらく天才集団と呼ばれるような存在になるでしょう。

一日一回情報を配信する

モノを作りなさい。誰も君の履歴書なんて興味はない。 君のその指で作ったモノが見たいのだ

当然のことながらモノ作りだけに関わっている人ばかりではないので結果よりもプロセスが大事です。 そのプロセスを公開するために自分の行動をドキュメンタリーのように記録する。 各種メディアやSNSを通して配信する。 こうする事によって、自分と言うものを表現する機会が訪れた時に材料に悩まなくて済むようになります。 決してYoutuberになれと言う訳ではありませんが、社内社外問わず一日一回何かを配信すると言うのは非常に有効な事だと思います。 最近はGitHubにコミットした内容で市場価値を見てくれるシステムなどもあります(これで社外秘のソースコードをPushした問題もありましたね)が、そう言った考え方に準じた良い方法だと思います。

作品を見せてくれと言うと、みんな学生時代や別の仕事の成果を見せてくる。 だけど僕が知りたいのは先週何をしたかだ

これは採用に関しても一つの提言となる重い言葉です。

 知識を貯め込まない

君が影響を受けた人物や物はどれも共有する価値がある。君が誰なのかどんなことをしているのかをみんなに知ってもらうのに役立つからだ。 時には君の作品以上に

特に社内ではせっかくの知識を共有しないのは会社全体の損失です。自分の地位を守るために共有しない人もいますが、こう言った人の情報はあまり価値が無いので無視しても良いでしょう。 どんな事でも共有しようとする人の声に耳を傾けましょう。 人によってセンスは違います。 自分では無価値だと思ってもそこに価値を見出す人はいます。ただしスパム人間にはならないように注意しましょう。

必ずクレジットを明記する

自分自身のクレジットもそうですが、アイディアをもらったり、引用したりした場合は全てのクレジットを明記しましょう。 紹介する作品のクレジットを明記しないと製作者の権利を奪うだけではなく、共有した相手からもその作品の詳細を調べる機会を奪ってしまいます。 最初に書いたように世の中はお互いのアイディアや情報を共有しあって成り立っています。 盗んだと思われるのが嫌でクレジットを書かないのは、後々の共有に影響を与えたり、”地才”と言った集団を形成するのに障害になってしまうでしょう。

恩に報いる

成功したら、君が手に入れたお金、影響力、立場を使って、現在の場所へと導いてくれた人々に恩返しをする事が大事だ

注意点が一つだけあり、処理しきれないほどの恩返しは必要ないという事です。本来の仕事をこなせるぐらいのわがままとノーも必要です。 これまでに書いた共有や”地才”の概念を守っていれば、自然と恩返しはできています。 成功したとたん人が変わる場合もありますが、ある程度は仕方ないでしょう。しかし、このような場合二度目の成功はないと思います。物事はたった1回では終わりません。 繰り返し挑戦していく仕事があるわけですから、成功体験の共有はとても重要です。

最後に

駆け足で3冊の本の紹介をしました。 私自身、一時期仕事へのモチベーションは薄れ業務としてやっているだけと言う状態になりましたが、これらの本を読んで、すべてでは無いですが役に立つ情報を得る事ができ、再びモチベーションを取り戻すことができました。

アイディアを集め、知識を共有し、自分の生活を守り、クリエィティブな事をやり続ける。 本来技術や技術書を紹介するこのブログに敢えてこの本を紹介したのは、仕事を情熱なく言われた通りにこなし、ストレスをSNSにぶつける人が多くなっていると感じたからです。 クリエィティブと言う単語は決して芸術だけのものではありません。全ての仕事がクリエィティブです。 皆さんにも是非読んで自分の生活や仕事に取り入れていってもらえればと思います。

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平井

2021年05月18日 火曜日

現在は研究所勤務でDeepLearningの研究を行っています。 これまでソフトウェア開発環境改善としてアジャイルやDevOps、SREなどを調査、検証してきました。 最近、技術書ではない本やWeb上の情報から開発や研究に役立つことを見つけ出すのが趣味となっています。 特にクリエイティブ関連の情報は開発などにも役に立つことが多いです。

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