アメリカのインターネット事情
2026年01月26日 月曜日
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IIJはアメリカやヨーロッパ、中国、ASEANに海外拠点がありますが、今回はアメリカにあるIIJ Americaより「アメリカのインターネット事情」と題して、現地スタッフがブログをお送りします。
環境や考え方など、日本との違いに驚きや発見があると思います。
ぜひご覧ください。
はじめに
こんにちは、IIJ America でネットワークエンジニアをしているケイゴです。
私は 2020 年にニューヨークへ赴任し、それ以来 IIJ の北米バックボーンの運用や、現地で提供しているネットワークサービスの運用・設計・構築・開発に携わってきました。アメリカ国内外のキャリアとの交渉やデータセンター移設、海底ケーブルの冗長化検討、都市部の回線手配など、日々さまざまなネットワークに触れながら仕事をしています。
日本ではあまり意識されないかもしれませんが、アメリカのインターネット事情は「国の広さ」「建物の歴史」「州ごとの規制」「都市と郊外の格差」など、複数の要素が複雑に絡み合っており、日本とはまったく異なる独自の文化と課題があります。私自身、赴任前に想像していたアメリカのイメージ「インターネットを生んだ国」とは良くも悪くも違う現実が多く、実際の現場を経験する中で学ぶことが非常に多くありました。
今回は、私がこれまで北米でネットワークを運用してきた経験をもとに、「アメリカのインターネット事情」というテーマで、データセンター、ファイバー事情、地理的課題、キャリアの文化、そして代替手段として注目されている ワイヤレスインターネットまで、幅広く紹介していきます。現地で働くエンジニアの視点ならではのリアルな話をお伝えできればと思います。
それでは、アメリカのインターネットの裏側を、少し深掘りしてみましょう。
アメリカのインターネット構造の全体像

アメリカのインターネットを語る上でまず知っておくべきなのは「国内の地域差が非常に大きい」という事実です。同じアメリカ国内であっても、ニューヨークやシリコンバレーなどの大都市では1Gbps以上の高速回線が当たり前のように提供されている一方、郊外や農村部では10〜50Mbpsが標準的な速度で、場合によっては数Mbpsしか出ない地域すら存在します。こうした差は単にインフラの新旧だけでなく、国土の広さや人口密度、そして地域で独占的に提供されるISP(インターネットプロバイダー)の存在によっても生まれます。
アメリカでは、Comcast、Spectrum、AT & T、Verizonといった巨大ISPが国内各地域を分割するようにサービスエリアを持ち、それぞれが独自にインフラを構築しています。このブロック構造によって「選べるISPが実質1社しかない」という状況が起きており、これが価格競争や品質向上の妨げになっています。その結果、都市部は高品質ですが、郊外に行くほど速度が落ちていくという構造的な問題があります。
こうした事情から、アメリカでは州ごとのインターネット速度を比較するランキングが毎年発表されており、東海岸や西海岸の都市部が速く、内陸部や南部では遅い傾向が顕著です。例えば、2025年調査では州別平均ダウンロード速度で、デラウェア州が約246.95Mbpsで第1位、メリーランドが238.26Mbps、ニュージャージーが235.67Mbpsという結果が出ています。(HighSpeedInternet.com+1) また、「固定回線で100/20Mbps以上を実現しているユーザーの割合」でも、コネチカットが72.85%でトップというデータもあります。 (Ookla) このように、州・地域によってインターネット環境が大きく異なるという点が、アメリカのネット事情の根幹にあります。
データセンター事情(立地・文化・トレンド)

アメリカのデータセンター(DC)事情は、日本と比べてかなり個性的です。都市部と郊外で役割がまったく異なり、さらに地理的・政治的な要因が複雑に絡み合い、市場の方向性を決めています。
まず都市型データセンターについてですが、ニューヨーク・マンハッタンのような大都市にある施設は、ラックを大量に置いて自社機器を並べるという用途より、キャリアの交差点として「ネットワーク拠点」の意味合いが強いです。建物自体が古く、電力・冷却・騒音などの制約があるため、大量のサーバを設置する用途には必ずしも向いていません。むしろ、複数キャリアが同一ビルに集まり、相互接続やピアリングの場として利用されています。
この都市部データセンターで特に重要なのが「On-netとOff-net」という考え方です。On-netとは、既にキャリアの光ファイバーがそのビルまで引き込まれている状態を指し、短納期かつ低価格でサービスを受けることが可能です。一方、Off-netは新たに光ファイバーを引き込む必要がある状態で、都市部では建物の構造や規制の問題により、そもそも新規入線自体が拒否されるケースがあります。仮に許可されたとしても、工事にはCOI(Certificate of Insurance)の提出が求められ、作業員のビル入場にも細かい制約が付きます。結果として、都市部では「既存のキャリアからしか選べない」という状況が度々発生します。
一方で、郊外型データセンターはまったく異なる世界を形成しています。アシュバーン、ダラス、フェニックス、ヒルズボロー など、広大な土地と豊富な電力を背景に、巨大なサーバ群を収容できる環境が整っています。ハイパースケーラーと呼ばれる AWS、Google、Meta といった大手クラウド各社は、こうした郊外データセンターを中心に大量の設備を展開しています。特にアシュバーンは世界最大級のデータセンター集積地として知られ、近年では「電力供給待ち」という問題を抱えています。
なぜ特定地域の需要が伸びているのかと言えば、電力の確保がしやすいこと、土地の価格が安いこと、州や郡による税制優遇があること、災害リスクが低いこと、そして海底ケーブルの陸揚げ点に近いことなど、複数の要素が積み重なっているからです。例えば、ヒルズボローが急成長している背景には、アジアからの海底ケーブルの入口となる地理条件が挙げられます。
また、文化的な違いとして注目すべきは、アメリカではデータセンターの住所が公開されていることです。日本ではセキュリティ上の観点から住所を秘匿することが多いですが、アメリカではそもそも「物理的な秘匿よりむしろプロセス管理でセキュリティを担保する」という思想が根付いており、住所を隠す必要がないと考えられています。さらに、Tier 3やTier 4といった基準は日本ほど重視されず、ユーザー企業はむしろ建物の等級よりも実際の価格や物理的な場所、キャリア接続性を重視します。加えて、環境意識に関しても「SDGs」という言葉はほとんど聞かれず、データセンター事業者側も環境対策よりも価格と性能をアピールすることが多いです。
回線・ファイバー事情(都市部・郊外共通)

アメリカでは、都市でも郊外でも、新規に光ファイバーを敷設するのは日本以上に難しいと感じることが多々あります。都市部では建物の構造が原因で新しい配管ルートが確保できないことが多く、歴史あるビルでは「新規入線禁止」というルールが定められているケースも珍しくありません。加えて、建物のオーナー側が工事業者の入線に対し厳しい制約を設けており、COIの提出や許可申請に時間がかかることで回線手配が大きく遅れることもあります。
一方で郊外は別の問題を抱えています。そもそも敷設距離が長すぎてコストが跳ね上がり、1回線を引くだけで数千ドル〜数十万ドルになるケースもあります。ISP 側は人口が少ない地域への投資には積極的ではないため、サービス提供範囲が限定的で、利用可能なキャリアが一社だけという状況が発生しやすくなります。
さらに、アメリカのファイバー事情を複雑にしているのが、「冗長性の確保が非常に難しい」という点です。これは都市部でも郊外でも共通しており、その理由は光ファイバーの多くが鉄道・高速道路・送電線など限られたルートに沿って敷設されているためです。キャリアが異なっても実は数百メートル先で同じ地中管路に合流していたというケースは珍しくなく、本当に「物理的に完全に分離された冗長ルート」を確保するのは高い難易度を伴います。
障害発生の要因も非常に多様で、道路工事による誤切断、自動車事故・列車事故、農作業による誤切断など人為的なものが非常に多いです。加えて、山火事・洪水・地滑りといった自然災害も頻発しており、光ファイバーの断線リスクは常に高いと言えます。さらに、アメリカ特有の問題として、ケーブルを盗む目的で地中管路が破壊されるケースもあります。例えば、ロサンゼルスではデモ活動中にマンホールに放火され、ケーブルが焼失した事例も報告されています。
このような事情から、アメリカではいまだに DSL や同軸といった古い回線サービスが現役で利用されている現実があります。広大な国土に均等にファイバーを敷設することが非現実的である以上、昔ながらの回線品目が残り続けるわけです。
東西間ネットワークと海底ケーブル

アメリカのネットワークは、広大な国土をトラフィックが流れるため、国内だけでも長距離の光ファイバー回線が必要になります。東西間にはロッキー山脈という地理的な障壁が存在し、敷設できるルートが限られています。その結果、東海岸から西海岸へトラフィックを運ぶ際には、物理ルートの選択肢が意外に少なく、遅延も60〜80ms程度と比較的大きくなることがあります。この山脈を避けるために北ルート・中央ルート・南ルートなどが存在しますが、完全に独立したファイバールートを確保するのは多くの条件が必要です。
海底ケーブルを流れる国際通信もアメリカのインターネットに大きな影響を与えています。西海岸ではロサンゼルス/サンノゼ/シアトルが日本・アジア向けのゲートウェイとなり、東海岸ではバージニアビーチ/ニュージャージー/ニューヨークがヨーロッパ向けの重要な陸揚げ点として発展しています。特にバージニアビーチは近年、GoogleやMetaが出資する大容量海底ケーブルが連続して陸揚げされ、併せてデータセンター市場も急拡大している地域です。海底ケーブルの陸揚げ点がデータセンター立地トレンドに直結しているという構図があります。
回線が引けない場合の選択肢

アメリカでは、建物の構造的な問題や地理的制約、コストの高さから「ファイバーが引けない」という状況が珍しくありません。そのような場合に現実的な代替手段となるのが、衛星通信やFixed Wireless、そして LTE/5G といったモバイル回線です。
衛星通信だと、Starlinkは都市部では設置場所に制約があるものの、郊外では非常に実用的で、100〜300Mbps 程度の速度が安定して出るため代替手段として高い評価を受けています。簡易的な工事で取り付け可能という点も大きな利点で、特にファイバーが引けない環境では唯一の選択肢になることもあります。
Fixed Wireless は、ビルの屋上同士が見通せれば無線で接続できる方式で、都市部ではファイバーが引きにくい場合の有効な代替になっています。隣のビルまで見通せれば、高速回線として使えることが多いため、工事が困難な都市部での選択肢として注目されます。
さらに、LTE/5G 回線もバックアップ用途として広く使われています。5G の普及はまだこれからですが、企業向け CPEメーカーが各種存在し、モバイル回線が企業ネットワークの標準構成の一部になりつつあります。
接続文化とダークファイバー

アメリカの接続文化は、IX(Internet Exchange)を中心としたピアリングの仕組みが非常によく発展しており、NYIIX、DE-CIX USA、Equinix IX(各データセンターのキャンパス毎に展開)、SIX 、Any2など地域ごとにインターネットエクスチェンジが存在しています。キャリア同士の直接接続も多く、都市部のデータセンターがピアリングの重要拠点になる理由の一つでもあります。
ダークファイバーについては、日本ほど一般化していないものの、Zayo や Lumen、Crown Castle など提供している企業も存在します。多くの場合 IRU(Indefeasible Right of Use:消却不能使用権)という長期専用使用権の形で契約する必要があり、日本のように「街中の特定区間を、短い期間借りる」という感覚ではなく、より大規模・長期契約モデルが主流です。
ITカンファレンス文化

アメリカでは技術系のカンファレンス文化が非常に成熟しており、ネットワーク業界では NANOG、PTC、ITW、OFC、OCP、GPF などが毎年開催されています。
NANOG は 年間3回開催され、BGP や運用技術の最新トピックが共有される技術者のためのイベントです。インターネット業界で最も古くから存在するカンファレンスの1つで、今後の業界の標準技術やトレンドを収集することができます。ネットワークエンジニアであれば、一生に一度は参加したいイベントの一つだと思います。
PTCやITW はキャリア間の商談の場として機能しています。PTCは毎年ハワイで開催することもあり、立地的に近い日本から多くの方が参加しています。サブマリンケーブルのオーナー企業だけでなく、国内のダークファイバーやデータセンター事業者が、海外企業を誘致するために参加するなど、様々な目的があるようです。
GPFは通信業者間でのPeering交渉をするための場として位置付けられています。各社のバックボーンを運用しているコアな技術者とひざを突き合わせて話をすることができるため、まだ世間に出ていないような貴重な情報を得ることができます。
日本のイベントとの違いとして、アメリカでは名刺交換があまり重視されず、SNS やコミュニティツールを使ってカジュアルにつながる文化があるのが特徴です。日本よりも転職率が高いため、企業同士のつながりよりも、個人とのつながりを重要視しているのだと感じます。
環境意識と文化差(SDGs・Green DC)

アメリカでは「SDGs」という言葉をほとんど耳にしません。もちろん環境対策への取り組みがないわけではありませんが、日本と比べると社会全体として SDGs を掲げる文化が浸透していないのが現状です。企業は必要な範囲で環境配慮はしているものの、それをマーケティング要素として前面に出すことは少なく、利用者側も環境対策よりコストや性能といった実利を優先する傾向が強いのです。
そのため、データセンターのグリーンエネルギーの利用は進んでいるものの、それを積極的にアピールすることは少なく、顧客もそれを理由にデータセンターを選定するという文化はありません。アメリカでは環境意識よりも「ビジネスとして最適かどうか」が判断基準として優先されているのです。
まとめ:アメリカのインターネットは「地域差」が全て

アメリカのインターネット事情を総括すると、都市部の建物構造が回線の選択肢を制限し、郊外では広大すぎる土地が光回線普及の妨げになっているという、地理・歴史・文化が複雑に絡み合った構造が見えてきます。都市部でも郊外でも冗長性を確保することは難しく、光ファイバーは限られたルートに集中して敷設されているため、キャリアを分散させても実は物理的に同じルートを通っていた、という問題が発生します。
また、海底ケーブルの陸揚げ点によってデータセンター市場が形成され、Starlink や Fixed Wireless といった代替回線がファイバーの不足を補うという、アメリカならではのインターネット構造が確立されています。環境意識が低めで、SDGs がほとんど話題に上らないという文化的背景も特徴です。
結局のところ、アメリカのインターネットは地域差がすべてであり、州・都市・そして建物そのものによって利用できる回線やデータセンター、冗長性の取り方が大きく変わるのです。こうした構造を理解することが、アメリカでネットワークを正しく設計し、運用するうえで極めて重要になります。
参考URL
- 2025年州別インターネット速度ランキング(HighSpeedInternet)
- 2025年半期「100/20Mbps以上を実現」ユーザー割合ランキング(Ookla)
- Speedtest Global Index – 米国のモバイル/固定ブロードバンド速度(月次)
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今回の記事の各章について深堀したものを今後公開予定です。
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