新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響
2020年03月13日 金曜日
CONTENTS
[2020/05/01 追記]本記事の続報はこちらでご覧いただけます。
- その後の新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響(2020年05月01日公開)
はじめに
新型コロナウイルスCOVID-19の影響で、リモートワークのビデオ会議や臨時休校の子供達の動画視聴が急増し、インターネットのトラフィックが激増しているという噂があるようです。多くの人のインターネット利用パターンが変わったために個別のサービスや回線が逼迫している所があり、その観測や不満がSNSで拡散されています。しかし、マクロな状況についてはあまり情報がありません。この記事では、主に家庭で利用されるブロードバンドサービスの代表として、IIJのフレッツ対応サービス(光回線/ADSL)のトラフィックの状況をお伝えします。
トラフィック状況
トラフィックは明らかに3月2日から傾向が変わりました。この日から全国の学校が臨時休校を開始し、それに伴って在宅で仕事をする人が急増しました。ここでは、3月2日前後の4週間のIIJのフレッツサービスのトラフィックを比較します。この間、2月17日の週から国内感染が拡大し始めます。この時点ではリモートワークはまだ実験的でした。2月24日の週は、24日の月曜が振替休日で、26日から電通や資生堂などが大規模なリモートワークを開始します。3月2日に全国の学校が臨時休校を開始し、この週から多くの企業がリモートワークを実施、外出を控える人が増えて街から急に人が減りました。
図1にIIJの(IPv6 IPoEを含まない)フレッツトラフィック総量の推移を1週間ごとに重ねて示します。ダウンロード量は、夕方からピークを迎え、夜中を過ぎると急速に減って早朝に最も少なくなります。休日には昼間のトラフィックが多くなります。アップロードはダウンロードより一桁近く少なく、また、はっきりしたピークもありません。
図1 フレッツトラフィック推移: ダウンロード(上)とアップロード(下)
3月2日の前後の図中のピンクと赤の2週間と緑と青の2週間を比較すると、3月2日以降はダウンロード側で平日の昼間のトラフィックが増えている事が分かります。量的にはまだ通常の休日より少ない程度です。ピーク値も僅かながら増えています。アップロードも平日昼間に数パーセント程度増えていますが、この増加分は夕方には収まっていて、ビデオ会議などのリモートワーク関連だと推測されます。ここに挙げたのは国内全体のフレッツトラフィックですが、都道府県別に見ても同様の傾向です。
次に、平日昼間のトラフィック増加が特定のサービスに起因しているかを調べるために、2月26日(水)と3月4日(水)の東京都分のSampled NetFlowのデータを調べました。ダウンロード量は全体で1.19倍に増えていて、送信元事業者(AS)別に比較すると、CDN事業者からの割合が多少増えている程度で、主なコンテンツ事業者の構成比は殆ど同じでした。具体的には、Googleが1.16倍、Amazonが1.16倍、Appleが1.14倍、Netflixが1.17倍、Facebookが1.10倍となっています。つまり、人気コンテンツはほぼ同様に伸びていて、特定のサービスが突出して増えたのではなく、全体が増えています。
トラフィックのピークが増えていないのはフレッツ網が輻輳しているからとも考えられるので、容量に余裕があるはずのIPv6 IPoEの様子も見ておきます。IIJのフレッツサービスには、図1に示した従来からのPPPoEの他にIPv6 IPoEがあります。PPPoEは終端装置での輻輳が問題となっていて、最近ではIPoEの利用を勧めるISPが増えています。IIJのIPv6 IPoEのトラフィックはインターネットマルチフィード社のtransixサービスを利用していて直接IIJの網を通りません。量的には現状でPPPoEの20%程です。図2にIPv6 IPoEのトラフィック量の推移を示します。ダウンロード側では確かにピークも伸びていますが、数パーセントに留まっています。一方で、平日昼間の増え方はPPPoEより少なくなっています。アップロード側に関しても平日昼間の増加はPPPoEより少なくなっています。
図2 IPv6 IPoEトラフィック推移: ダウンロード(上)とアップロード(下)
考察
今回観測できているのは、IIJのサービスだけで他社の動向は分かりません。これまでの経験からはフレッツを使ったブロードバンドサービスでは大体同じような傾向があると思われ、また、非フレッツで帯域に余裕があるところではIPoEの傾向に近いのではないかと推測しています。
マクロにみると、3月2日を境に明らかに平日昼間のトラフィックが増えています。平日の1日のトラフィック量でみるとアップロードで6%、ダウンロードで15%程増えています。1日のダウンロードで15%増というのは、平日と休日の違いぐらいとも言えますが、通常半年から1年ぐらいかかる増加が1日で起こったと捉える事もできます。ただし、ピーク値はあまり増えていないので、ISP視点では前者の感覚です。
ピーク値が伸びていないのは、フレッツ網の光分岐やPPPoE終端装置で輻輳している可能性もあります。SNSなどで散見される問題はこのようなケースが多いと思われます。しかし、これらの問題は光分岐や終端装置単位で発生するので、余裕のあるところではピークが増えているはずですが、観測した範囲ではそのような違いは確認できていません。また、IPoEでもピークはそれほど伸びていない事からも、輻輳だけが原因ではなさそうです。
主なコンテンツ事業者からのトラフィックが一様に増えている事からは、特定のサービスが増えたというより、平日昼間に在宅している人が増えてインターネット利用全体が増えたと言えそうです。
リモートワーク特有の影響としては、平日昼間のアップロードの増加分が主にビデオ会議ではないかと推測できます。しかし、量的には大きくなく、これは自宅でビデオ会議をしている人はまだ限られているからだと推測します。リモートワークを効率良く行うには、自宅のネットワーク環境やPCなどの機材の整備に加えて、経験の蓄積も必要です。企業側でもVPNのライセンスや帯域が足りないなど問題が起きているようです。ビデオ会議をやろうとしても環境が整わなかった人も多かったと思われます。
また、子供が時間を持てあまして動画ばかり見ているというのも、トラフィック量は普段の休日より少ない程度なので、あまり心配する必要はなさそうです。
実は、ブロードバンドトラフィックはそれ以前から増加速度が加速傾向でした。その背景には、Windows7のサポート終了や消費増税駆け込み需要で古いPCのリプレースが進み家庭の動画再生環境が良くなっていた事、企業の働き方改革とオリンピック対策でリモートワークの導入が進んでいた事、さらに、オリンピックや放送のネット送信や5Gモバイルサービスなどへの期待から動画視聴への関心が高まってきている事が挙げられます。
まとめ
新型コロナウイルスの感染拡大によって、急速なリモートワークへのシフトが起こりました。それによって、個別の回線やサービスで問題が顕在化している一方で、マクロレベルでは平日昼間のトラフィックが少し増えたものの現状ではなんとか既存の容量に収まっている状況です。
この3月からはリモートワークやリモート教育が大規模に行われるようになりました。これまではリモートワークは一部の人が実施する実験だったのが、みんなが一斉にできるかが試されています。インターネットを使ったビデオ会議、リモート授業、動画視聴などについても、現状一部の人が利用している分には十分な品質が出ますが、多くの人が一斉に使えるだけの環境を整えるにはこの先何年もかかります。今回、いざという時には社会全体がオンライン頼みになる事も明らかになりました。この騒ぎがインターネットインフラ整備の重要性を再認識する良い機会になるのではないかと期待しています。