ソーラーパネルで動くLoRaWAN®基地局をスマート農業向けにDIYで設置してみた(後編)
2020年04月09日 木曜日
CONTENTS
「ソーラーパネルで動くLoRaWAN®基地局をスマート農業向けにDIYで設置してみた(前編)」では、ソーラー基地局を安価に提供するために検討したこと、設計から事前準備と事前加工までをご紹介しました。
後編となる今回は、現地設置についてご紹介するとともに、部材リストと設置ガイド、今後の計画についてお話しします。
現地への設置
現地への設置は2020年1月10日に実施しました。メンバーはIIJから私を含む2名、静岡県庁から1名の他、カウスメディアの方にも手弁当でお越しいただけることになり、計4名で対応しました。
残り部材と道具の調達
設置は初めての作業で時間がかかりそうだったので、残り部材の調達は前日に行いました。ホームセンターのコメリの取り置きサービスを利用したのですが、最寄りの店舗には1.5mの単管パイプや鳥よけシートなどの部材がなく、他のホームセンターを3軒はしごして、ようやく大体の部材を調達できました。2mの単管パイプが載せられるようにトヨタのプロボックスをレンタカーで借りましたが、軽トラックでも大丈夫だと思います。単管パイプは車で移動中にずれて荷台に傷がつかないように、段ボールなどで先端を保護してください。
また、水田センサーの杭打ち用に使っていたゴムハンマーを持参しましたが、単管パイプの杭打ちには不十分でした。幸い、「水田水管理ICT活用コンソーシアム」にメンバーとしてご参加いただいた農業法人の方のご厚意で大型ハンマーをお借りしていたことで、事なきを得ました。
単管パイプの打ち込み
設置で最初に行うのは単管パイプの地面への杭打ちです。最初はソーラー架台を組んだうえで脚となる4本の単管パイプを順番に杭打ちしようとしました。途中まで進めたのですが、単管パイプの杭打ち経験者であるカウスメディアの方からその方法だと難しいとアドバイスをいただき、先に単管パイプを1本ずつ杭打ちしてからソーラー架台を組み立てる方法に変更することにしました。
まずは杭打ち箇所を決め、目印として単管パイプのキャップを置きます。このとき、ソーラーパネルが真南に向くように方位磁石などで方位を確認してください。今回の設置場所となる圃場脇は圃場の向きに合わせると真南ではなく南南西になるため、圃場とはやや斜め向きになるように設置しました。杭打ちする単管パイプは、南側の2本は1.5m、北側の2本は1.5mと2mにしました。北側の1.5mの単管パイプは上に2mの単管パイプをジョイントでつないでアンテナポールとします。今回はUSBケーブルが3mとやや短かったので1.5mにしましたが、4mのUSBケーブルであれば北側2本は両方2mとしても大丈夫です。また、少しでも杭打ちしやすいように1.5mの方を下にしましたが、後から考えると設置手順が制限されるので、2mの方を下、1.5mの方を上にする方が良かったかもしれません。
4本の単管パイプはソーラーパネル架台の脚となります。強風で抜けないようにするため、50cmずつ杭打ちします。深さがばらつかないように最初に50cmずつメジャーで測って油性マジックで線を引き、杭としてスムーズに打ち込みできるように金属製または樹脂製の打ち込み先端を取りつけておきます。また、杭打ちの間隔は南から見て横どうしの間隔が内寸で70cm、縦どうしの間隔が内寸で60cmになるようにします。ソーラーパネルは縦の方が長いので、間隔が逆のように思われますが、ソーラーパネルを傾斜させて取り付けると縦の長さが短くなるので、この間隔としてください。
単管パイプの杭打ちは上端に保護用の打ち込み座金を取りつけて行います。1人がハンマーでの打ち込み役、1人が杭の支持役となり、残り1,2名が異なる角度から杭がいずれの角度でも垂直になっているかどうかを確認する役割を担当します。杭が斜めになっていれば、支持役に伝えて垂直を維持しながら打ち込むようにしてください。この作業が一番大変で、特に身長より高い2m単管パイプの打ち込みは難しいので、用意できれば脚立を使うなどして行ってください。今回は脚立を用意していなかったので、以下の動画のようにある程度の深さに打ち込むまではハンマーを縦に持って垂直に振り下ろすような形で対応しました。
打ち込み先端は今回使用した金属製の場合、単管パイプに被せているだけなので、ある程度杭打ちしたら単管パイプを抜いても地面に刺さったまま抜けなくなります。また、地面に深く刺さった杭を抜くには左右に動かしながら徐々に抜く必要があり、抜いた後は地面が緩むので、同じ場所に杭打ちできなくなります。失敗したら打ち込み済みの杭も含めて全体の位置をずらして打ち込み直す必要があります。やり直しは非常に大変なので、失敗しないように慎重に作業を行ってください。
杭打ちが1本終わったら、打ち込み座金を付けなおして他の杭を打ち込みます。打ち込み座金は杭打ち後は深く単管パイプに食い込んでいるので、小型のハンマーなどで下から上に座金の縁を叩いて外してください。
ソーラーパネル架台の組み立て
脚となる4本の杭打ちが完了したら、1mの単管パイプを南から見て2本を縦、4本を横に直交クランプで杭へ水平に取り付けて、ソーラーパネル架台を組み立てます。
まずは南から見て縦の2本は、手前の1.5mの杭の上端から30cm程度の高さになるように杭の外側に固定します。水準器があれば水平になるように確認しながら直交クランプのナットを手で絞めて仮固定します。ボルト部分は錆びやすいので、少しでも錆びにくいようにボルト部分が下向きになるように取り付けます。仮固定した位置で問題なければ、17mmナット用のレンチまたはモンキースパナで締め付けて固定します。
次に南から見て横の2本を追加します。これらは電源ボックスの台も兼ねるので、北側2本の杭の手前に1本、もう1本をそこから20cm程度離して、2本とも先ほど取り付けた縦の2本の下側に仮固定します。2本の間隔は仮固定後に電源ボックスを載せてみて、安定して置けるかどうかを確認した上で調整してください。電源ボックスの下の2本を固定したら、下の写真のように電源ボックスを挟み込むように、さらに2本の単管パイプを追加します。北側の2本の杭の外側に1本、縦棒の上に1本を取り付けてください。これによって電源ボックスが強風で飛ばされるのを防ぎます。
アンテナポールの取りつけ
ソーラーパネル架台の組み立てが完了したら、アンテナポールを製作して取り付けます。
アンテナポールには2m単管パイプを使用します。先端に下の写真のようにポール固定用ベルトで事前に製作した通信ボックスを縛り付けます。ここで、通信ボックスは単管パイプの上端ギリギリにポール固定用ベルトが縛り付けできるスペースのみを確保して固定します。これは単管パイプが金属のため、電波が反射してアンテナの指向性を妨げないようにするためです。
タカチ社のWP20-28-7Gの標準オプションでは何種類かポール固定用ベルトが用意されていますが、単管パイプの48.6mm径のポールに対応したものは事前に用意した樹脂製のものだけでした。こちらは1回使い切りのため事前確認が行えずに当日初めて使ったのですが、いくら締めても完全に固定できず、単管パイプに対して上下にスライドしてしまう感じになりました。仕方がないので結束バンドで補強してスライドしないように固定しました。あまったベルトはニッパーでカットしてください。上下にスライドするのを防ぐには、1-3mm厚のゴムシートを巻き付けるとよいかもしれません。
USBケーブルは強風であおられて抜けないように30cm~50cm間隔くらいでアンテナポールと結束バンドで固定します。このとき、なるべく日射による劣化が進みにくいように、アンテナポールの北側に固定します。今回は近くのホームセンターで販売されていなかったので入手できませんでしたが、コルゲートチューブと呼ばれるスリット入りの配線カバーを使用するとさらに日射による劣化からの保護ができて良いでしょう。
次に、ポールの先端に単管キャップを取り付けるとともに、鳥が留まって糞でソーラーパネルが汚れないように鳥よけシートを取り付けます。
鳥よけシートは幅33cm程度のものが3つ入ったパッケージを使用しましたが、1つでもやや長いのでニッパーでカットして通信ボックスの幅に合わせます。固定は結束バンドを何本か連結し、通信ボックスの左右2か所で上下にぐるっと1周するように縛り付けます。強風で左右にずれて外れないように、通信ボックス下部で上下に縛り付けた結束バンド2本を左右の結束バンドで縛って外れないようにします。
アンテナポールが完成したので、ソーラー架台に取り付けます。ソーラー架台の北側2本の杭のうち、1.5m単管パイプの杭の上部にボンジョイントという連結用のジョイントで固定します。ボンジョイントは圧着用ネジを締めるとほぞ部が広がって単管パイプの内側に圧着して固定する部材ですが、これだけでは抜け止めが不十分なので、後ほど追加の対策を行います。
ソーラーパネルの取り付け
アンテナポールを取り付けたら、ソーラーパネルを取り付けます。
まず、4本の杭のうち南から見て手前の2本と奥の2本それぞれの先端付近に、1m単管パイプを横向きに2本取り付けて直交クランプで仮固定します。水平になるように水準器などで角度を確認しながら取り付けてください。
次に先ほど取り付けた横向きの2本の単管パイプにソーラーパネル固定専用金具を4つ使ってソーラーパネルを固定します。下の写真のようにU字の間に単管パイプを挟んで、ソーラーパネル裏側の枠の内側から外側に向かって爪をひっかけ、ボルトを締めて仮固定します。
ソーラーパネルは一般的に30度の傾斜角で取り付けるのがよいと言われているようですが、設置場所の緯度に応じて最適な傾斜角は変化します。年間の日射量が最大となる傾斜角は、簡単な計算ではほぼ設置場所の緯度と同じと言われているようですので、今回はそれに従って35度にすることにしました。太陽の高さは季節によっても変化しますので、冬場も安定して発電したい場合は傾斜角をさらに急にしてもよいでしょう。
傾斜角が意図した角度にならない場合は、横向き2本の単管パイプいずれかを上下させて調整します。それでも調整しきれない場合は単管パイプの取り付け位置を杭の手前と奥で入れ替えるなどして調整してください。意図した角度に調整出来たら、仮固定した直交クランプとソーラーパネル取り付け専用金具を固定します。
ソーラーパネルの固定が完了したら、ソーラーパネル上部にも鳥よけシートを取り付けます。南から見て奥の2本の杭の間に取り付けますが、1つだと幅が足りないので結束バンドで縛って連結します。2つでも少し幅が足りなかったので通信ボックスに取り付けた鳥よけシートの余りも連結し、長さを調整して幅がちょうど2本の杭の内寸に合うようにし、結束バンド2本ずつでそれぞれの杭に結び付けて固定します。これでソーラーパネルの取り付けは完了です。
基地局の稼働確認
ソーラーパネルの取り付けが完了したら、電源ボックスを台に置き、中にバッテリーと充電コントローラーを入れてソーラーパネルの電源ケーブルおよび通信ボックスのUSBケーブルと接続します。
このとき、電源ケーブルは害獣にかじられないようになるべく電源ボックス内に引き込んで外側に垂れ下がらないようにします。
USBケーブルと電源ケーブルを接続したら、上の画像のように充電コントローラーの液晶でソーラーパネルからの入力(パネルマーク)と、基地局本体への出力(電球マーク)が両方有効になっていることを確認します。両方有効になっていたら基地局が起動しますので、基地局近くに水田センサーを設置して電池を入れ、水田センサーの測定値が届くことをアプリ上で確認し、正しく基地局が稼働していることを確認してください。
アプリ上で水田センサーの測定値が確認できない場合は、配線が抜けている可能性があります。ソーラーパネルとの接続、電源ボックス内、通信ボックス内の配線が正しくつながっていることを確認しなおしてください。
アンテナポール固定用斜め杭の取り付けと仕上げ
正しく基地局が稼働していることが確認出来たら、最後にアンテナポール固定用の斜め杭を取り付けます。
アンテナポール固定用斜め杭はアンテナポールとの連結に使用したボンジョイントだけではアンテナポールが台風などの強風時に抜ける恐れがあるため、抜け防止目的で取り付けます。また、抜けない場合でも強風でソーラーパネル架台ごと転倒する恐れがあるので、ソーラーパネルの反対側に支えとして取り付けます。
まずは斜め杭を地面付近に固定するための1m単管パイプを打ち込む場所を決めるため、斜め杭をボンジョイントの少し上のアンテナポール付け根付近に自在クランプで仮固定します。次に、斜め杭のアンテナポールとの仮固定部分の反対側を地面につけ、杭打ち部分に単管キャップを置き、ここに打ち込み先端を取り付けた1m単管パイプを垂直に打ち込みます。今回は1m単管パイプを用意していなかったため、確認用に持参した0.5mにカットした単管パイプを使いましたが、1m単管パイプの場合はなるべく深めに打ち込んでください。打ち込んだら自在クランプで斜め杭と固定し、仮固定していたアンテナポールとの付け根部分の自在クランプも固定します。
すべての単管パイプを取り付けたら、それぞれの両端に単管キャップを付けて完成です。
また、今回の構成では電源ボックス内は安価なバッテリーと充電コントローラーのみ、通信ボックスやソーラーパネルは取り外すのが簡単ではないので、盗難の恐れは少ないと考えて特別な盗難対策は行いませんでした。
ただし、電源ボックスについては簡単に開けることができるので、盗難が心配な場合は電源ボックスのフタと本体のふちに貫通する穴をあけ、南京錠を取り付けて簡単にフタが開けられないようにしてください。南京錠にチェーンを取り付けて架台に巻き付けると、盗難対策に有効なだけでなく、強風で電源ボックスがずれたり飛んだりしないように対策を強化することもできます。
さらに振動で警報が発砲する防犯アラームを取り付けると、通信ボックスやソーラーパネルの盗難対策として有効かもしれません。強風などによる振動で誤発砲するとご近所の方にご迷惑をおかけすることになりますので、思ったように作動することを確認したうえで電源ボックスの内部などに取り付けてください。
設置についての所感
4名もいたので、設置する前は人手が余るのではないかと思いましたが、未経験者が多かったこと、写真撮影しながら設置したこともあって、実際にはギリギリでした。経験者であるカウスメディアの方に大活躍していただいたのでなんとか予定通り作業が終了しましたが、いらっしゃらなければ1日では終わらなかったかもしれません。特に最初の杭打ちが大変だったので、経験者がいたとしても最低3名は必要ではないかと思います。
また、設置作業は手戻りなく作業が進んだとしても、3時間程度かかるのではないかと思います。今回は天候に恵まれて雨が降らなかったので、約3時間で終了しました。しかし、雨が降った場合や強風時はもっと時間がかかると思いますので、ソーラー発電の確認も考慮し、天候の良い日を選んで設置されることをおすすめします。
その後の動作について
設置してから本日時点で約3か月が経過しました。IIJ IoTサービスのPing監視機能によるメール通知や、ビューア機能を使ったリモート接続で基地局本体の起動時間を確認したところ、一度も停止することなく動作しています。冬場で日照時間が短いことを考慮すると、通年での無停止動作も可能ではないかと思います。
部材リストと設置ガイド
DIYソーラー基地局第一弾(圃場脇への杭打ち設置)に基づく部材リストを公開します。
部材費用は基地局本体と「TLG3901BL」の付属アンテナを除いて、目標コストの下限である6万円とほぼ同額となりました。
なお、調達先の在庫がなくなるなど、同じものが調達できなくなる恐れがあります。その場合は商品名やメモを記載してありますので、そちらを参照して同様の部材を他の調達先から調達してください。
また、設置ガイドも公開します。
こちらは印刷して現地で設置方法がわからなくなった場合に参照していただくことを想定しています。詳細は記載しておりませんので、今回のブログをよくお読みいただいた上でこちらを参照しながら設置していただけますと幸いです。
パッケージ化の検討
今回は圃場脇への設置について、農業経営体の方ご自身でホームセンターやインターネット通販で簡単かつ安価に調達できる部材を使い、事前加工もすべてご自身で行っていただく完全DIYのソーラー基地局構成についてご紹介しました。
しかし、設置する場所は圃場脇でない場合もあり、その場合は必要な部材が今回とは異なってきます。また、事前加工をすべて自分で行うのは大変なので、設置する場所に応じて事前加工されたパッケージを用意できると、様々な場所に設置しやすくなります。
そこで、今回のDIYソーラー基地局の設置にご協力いただいたカウスメディアの方にご相談し、設置場所ごとのパッケージ化についてご協力いただけることになりました。
次回のブログ記事ではその話をご紹介したいと思います。
最後に
おかげさまで前編の記事は大変好評をいただき、Facebookのいいね!を本日時点で500近くいただきました。
今回の記事はもともと「水管理パックS」を様々な場所で使っていただけるように、DIYで安価に基地局をソーラー対応する方法を農業経営体の皆様にお伝えすることを主な目的として書きました。結果的には、スマート農業・農業IoTに関心をお持ちのエンジニアの皆様にも興味を持っていただけたのかなと思います。
IoTの力で日本の農業の担い手不足を少しでも解決できるように、今後も皆様と一緒に取り組んでいければと思います。
前編と後編の長文にわたる記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!