IoTは農業でも正解配布装置となり得るのか?(愛媛の柑橘DXの取り組み後編)
2026年03月27日 金曜日
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愛媛県HAPPの勉強会へオブザーバー参加してきました。
柑橘やレモン、里芋の畑で半年間に渡りIIJのセンサーシステムを利用いただいた総括を伺う会です。

- HAPP:愛媛県松山市北条地区の若き農業経営者たちが「農業のプロ」を目指していこうと10年ほど前に発足した団体
(Hojo Agriculture Professional Production)。 - 前回ブログ:土の中のデータを読む~IIJのIoTが支える柑橘農業の新しい形

異常気象は“異常”扱いのままでいられるのか
「終わらない夏」と言えばアオハル感が漂いますが、実際には地獄のような暑さだった昨夏。
異常気象(大雨や豪雪)でたびたび私たちの出張の足に影響が出た秋・冬。
農業者の皆さんは、もっとお行儀よく定期的に降る「恵みの雨」を切に待ち侘びていました。
先日の勉強会で方々から聞こえてきたのは「雨量が足りなかった」という声。本来、年末から年明けにかけて水が必要になりますが、雨が降らなさ過ぎて樹勢や糖度酸度に影響が出かねないと。
潅水をするにしても、例年以上の水を与えるにはコストと労力の双方が掛かり、必要な含水量をキープできないジレンマを皆さん抱えていました。そして過度に乾燥してしまってから潅水をしても焼け石に水で、一瞬スパイク的に水分量が上昇し、ガっと乾いて終わり。
これまでの勘と経験を今後も活用できると考えている人は、最早いませんでした。
農作物の生育ファクター差は無数にある
この仕事に関わるまで「距離的に近い地域」で「同じ作物」を作っていれば、ある程度は共通の方法で育てているものだと思っていました。しかし勉強会に参加するほどに、農業者それぞれのやり方にはあらゆる条件において差が出ていることに気付かされます。
肥料や農薬の違い、病害虫などの影響。立地や生育環境(例:水田の隣にある農園では、他よりも土壌水分量が高くなる。草を生やしたままにしていた農園では保湿性に優れ、夜露や朝露の影響も受けにくいなど)。それら全てが生育結果に結び付きます。
育生結果 =
f(
潅水の時期・量,
雨量,
日射,
遮光,
土壌,
草生,
立地,
気温,
肥料や農薬,
病害虫,
人の判断,
過去の履歴,
…
)
これが美しい多変数関数になればウレシイのですが、勉強会で聞いた話の一部を当てはめてみても実情は厄介です。
| 変数同士がインタラクティブな関係で、 Inputが同じでもOutputは変わる |
関数自体も時と共に変わる |
|---|---|
|
|
感覚値とデータのすり合わせ
例)農業者Aさんの場合

Aさんの柑橘は、同じ品種、同じ栽培環境(ハウスor露地)でも、収穫時期が近づく1月17日の含水率に大きな差が出ていたことがデータから読み取れました。そしてその違いに従ってグループ分けをしてみました。

| まどんな(ハウス栽培) | 甘平(露地栽培) | 含水率 | |
|---|---|---|---|
| Group1 | 20% | ||
| Group2 | 10% |
実はGroup2の樹はすべてAさんの感覚でも「土が乾きやすい」と感じていたエリアにあり、その具体的な程度がデータによって明らかになりました。
今後の目標

今後は、Group2の含水率をGroup1へ近づけるために、潅水チューブを分岐できないか、どのように分岐するのが適切かなどさまざまな検討を開始しているそうです。
最後に
IIJのシステムが計測する土壌水分率も独立した値ではなく、さまざまな条件が重なった結果です。
そのため勉強会では、日々のレコードに備考欄の追加を望む声が多く寄せられました。
遮光ネットの影響や土壌の状態差、前年との比較などさまざまな情報を記録することで、来年の収穫をより良くし、HAPP内でのノウハウ共有、そして将来の担い手への継承につながるという考えからでした。
農業にIoTを導入するには、農業者全体に有益と評価されて初めて自治体からの援助が得られ、継続性が生まれる。
そうでなければ、DX技術は農業に根付かない。
勉強会でAI導入への興味についても訪ねたところ、興味は抱きつつも、ネット上に存在する情報を基にしたAIからのアドバイスに対し懐疑的な意見も聞かれました。
しかしこの土地特有の知見から編み出された情報が詰まったセキュアなAIだったら是非欲ししいとも言われました。
農業IoTは、画一的ではなく農業者1人1人の「知見の持ち寄り型インフラ」になる必要がある。
そしてIIJもその「持ち寄り」に参加し続け、ともに正解を探していきたいと考えています。
