IIJの季刊技術レポート「IIR vol.63」(2024年6月号) 発行のご挨拶
2024年06月21日 金曜日
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※本記事は、2024年6月発行のIIR Vol.63より「エグゼクティブサマリ」を転載したものです。
エグゼクティブサマリ
2022年11月30日、OpenAI社からChatGPTが発表され、その能力は世界中で大きな反響を呼びました。その後もChatGPTには様々な機能が追加され、他社からも生成AIが発表されるなど、世の中では生成AIブームが巻き起こっています。多くの組織においても付加価値向上や効率改善に活用され、社会への実装が進んでいます。
ChatGPTの発表から1年半後の2024年5月13日、OpenAI社は最新モデルであるGPT-4oをリリースしました。既に利用された方はその進化を自ら体験されていることと思いますが、評価記事や紹介動画を見るだけでも、変化のほどを垣間見ることができます。生成AIの技術開発のスピードには目を見張るばかりです。
その一方で、AIのネガティブな側面も多く指摘されるようになり、日本では今年に入ってからAIが詐欺に利用されているというニュースを目にすることが増えました。著名人に扮した画像や音声のディープフェイクが使われる事件も増えています。また、選挙やプロパガンダにAIが利用されるといったことは、以前から懸念されていました。今年は世界各国で重要な選挙が予定されており、警戒を強める必要があります。
そうしたなか、欧州連合(EU)でAI規制法案が5月21日に承認されました。2026年から本格適用されるもので、リスクの高さによって規制の強さを4段階に分け、リスクの高い違反に対しては高額の制裁金が課せられます。もっとも厳格に禁止されたAIは、特定の個人や団体に不利益をもたらすソーシャルスコアリングや犯罪行動予測などで、それに次いで厳しく規制すべき高リスクAIには、入学、採用、生体認証、インフラ運営が含まれるなど、幅広く要件と義務が定められました。また、生成AIで作成した画像や音声などは、AIによるものだと明示することが求められます。
EUのAI規制法は、これから世界のAI規制のスタンダードになりうるものです。事業にAIを利用する上で法的規制を理解・遵守するのは当然のこととして、高い倫理観を持つことが強く求められます。今後もAIが社会の隅々にまで普及するなかで、個々人がAIに対するリテラシーを身につけることがますます重要になっていくでしょう。
「IIR」は、IIJで研究・開発している幅広い技術を紹介しており、日々のサービス運用から得られる各種データをまとめた「定期観測レポート」と、特定テーマを掘り下げた「フォーカス・リサーチ」から構成されます。
1章の定期観測レポートは「メッセージング」です。電子メールはインターネット創生以来、長く利用されている重要なアプリケーションです。大量の宛先に向けて、非常に簡易にメッセージを送付することを可能にした電子メールの歴史は、メールシステムの管理者がabuse行為と戦ってきた歴史でもあります。今回は、近年見られるabuse行為の状況と、それに対するIIJの新しい取り組みを紹介します。送信ドメイン認証に関して大きな動きがあったこの1年の動向と課題についても説明します。
2章のフォーカス・リサーチでは「RDF Dataset Canonicalization」を取り上げます。RDF(Resource Description Framework)は、WEBで情報を表現するための枠組みで、W3Cにおいて標準化されています。筆者はW3Cにて、RDF Dataset anonicalization(RDFで表現されたデータの正規化の仕組み)の標準化活動に携わっています。RDFの概要を説明した上で、正規化が必要となる背景・手順・課題など、標準化活動の状況について紹介します。
3章のフォーカス・リサーチは「動画配信におけるDRM(Digital Rights Management)」についてです。複製が容易なデジタルコンテンツを流通させる上で、コンテンツの権利を守るための技術は必要不可欠です。ここでは動画のDRMを解説していますが、今日のようにインターネットの動画配信が盛んになったのは、DRMによる貢献が大きいと言えます。エンドユーザが動画を楽しんでいる裏側でどのような処理が行われているのか、思いを馳せていただければと思います。
IIJでは、このような活動を通じて、インターネットの安定性を維持しながら、日々改善し発展させていく努力を続けております。今後も企業活動のインフラとして最大限に活用していただけるよう、様々なサービス及びソリューションを提供してまいります。
Internet Infrastructure Review(IIR) vol.63(2024年6月発行)