イネの高温障害~持続可能な稲作を目指して~
2024年09月30日 月曜日
CONTENTS
はじめに
近年、お米のイネの高温障害に着目されつつあるものの、原因がまだ解明されていないことが多くあります。
高温障害によるイネへの影響は2種類あり、一つが収量の減少(不稔米・胴割米)、そして二つ目が品質の低下(白未熟粒)です。
章末では、IIJのスマート農業技術を活用した高温障害対策を紹介していきます。
高温障害による影響
イネは気温が35度をこえると生育が急激に低下することが室内実験で知られています。この温度帯が高温障害の基準となります。
また、イネがどこで温度を感じるかは成長期によって異なり、栄養成長期は根元付近、生殖成長期(※1)は幼穂・穂の部分となります。
この、”イネがどこで温度を感じるか”は、高温障害を考えるうえで、重要ポイントとなってきます。
次章から、高温障害によるイネへの影響を種類別に紹介していきます。
高温障害の種類
1.不稔米
高温障害によってイネの収量が減少する一つの原因が「不稔米」です。
不稔米とは、受粉や受精の失敗により種子が実らない現象のことをいいます。
通常の温度でも5%程度不稔米は発生しますが、高温、乾燥、塩分ストレスなど、多くの環境要因により、不稔米は増加する傾向があります。
研究室での実験によると、高温による不稔米(高温不稔米)は、開花のタイミングで温度が35度を超えていると発生しやすいとの結果が出ています。
また、1度上がるごとに不稔米率が16%ずつ増加する、との研究結果もあることから、37度を超えるとイネの半分が不稔米となる、との見方もあるようです。
2.胴割米
高温障害によってイネの収量が減少するもう一つの原因が「胴割米」です。
胴割米は、登熟期における吸水・乾燥により穂内部の水分バランスが崩れ膨張・収縮差が起きることで、亀裂が起こり、発生すると考えられています。
研究によると、出穂期10日間の最高気温(35度)と胴割米率の相関があるとの見方もあるようです。
3.白未熟粒(しろみじゅくりゅう)
高温障害によってイネの品質が低下する原因が「白未熟粒」です。
米粒(胚乳)内部のデンプン粒間に空間ができ、そこで光が乱反射することで白く見えることから白未熟粒と呼ばれています。
白未熟粒が発生するとされる原因は、人間がコントロールできる肥料・水であると言われています。
高品質米の生産のため、窒素成分(タンパク質として蓄積)が穂に蓄積されないよう穂肥を減量していることが、一つの原因です。
窒素は、光合成を行うために酵素やタンパク質として葉に多く存在しています。
そのため、窒素が不足すると光合成効率が低下してしまい、結果穂へのデンプン供給不足、蓄積不足が発生してしまいます。
もう一つの原因が、光合成に必要な、イネを取り巻く水環境です。
根から土壌水分を吸い上げ、光合成の過程で、葉から水蒸気として蒸散して大気中に放出します。この一連の流れが阻害されると光合成が十分行われずに、穂へのデンプン供給不足が発生します。
土壌に水分が十分ないとイネは水を吸い上げることができないため、光合成ができません。
また大気が高温でさらに乾燥していると、蒸散でどんどん放出されます。
根で吸収できる量よりも葉から蒸散される量を超えると、イネは乾燥して枯れてしまいます。
そのような場合には、イネ自身が蒸散をしないように制限をかけ、その制限により光合成効率が低下し、穂へのデンプン供給不足が発生します。
温度目安としては、気温35度以上、穂温33度以上でこのような状況が発生しやすくなります。
このように栄養や水環境のバランスが崩れることで、白未熟粒が発生します。
高温障害対策
ここまで高温障害について説明してきましたが、
年々気温が上昇し続けている日本では、どのようにしたら美味しいお米を食べ続けることができるのでしょうか。
一つ目の対策は品種改良です。
九州などの南エリアのお米は高温に強いとされており、高温に強い品種への研究が進んでいます。
また、夏のような暑い時期を避けた、そもそもの開花時期を早めた品種への研究もされています。
二つ目の対策は水管理です。
かけ流しをすることで圃場自体の温度を下げる効果があります。
ですが、温度管理が難しいことや、水を切らさないよう間断灌漑をし水管理が必要なこと、
また、無効分けつを抑止するための中干を適切に行わなくてはいけないなど、高温障害対策として水管理を取り入れるには、少々手間が発生してしまいます。
他には、栄養素のある穂肥を撒く土壌対策や、条間を開けることで通気性をあげる栽培管理対策も高温障害対策としてあげられます。
IIJのスマート農業技術を活用した高温障害対策
IIJでは、DVIをもとに高温障害情報をお知らせするサービスを提供しています。
DVI(発育指数)とは、イネの生育との環境要因(気温・日長)の関係性を数値化したものです。
データから1日のイネの発育を逆算することで、目には見えない僅かな発育を数値化しています。
これにより、幼穂形成期・出穂期の生育の転換期をあらかじめある程度把握でき、
高温障害の発生可能性情報を、かけ流し実施判断に利用できるなどアドバイスをすることができます。
また、DVIには、水温データをもとに、イネの発育を数値化できるものがあります。
幼穂形成期・出穂期前までは、イネは茎と根の境目付近で温度を感じるため、イネが感じている温度に近い水温を使うことによって、気温よりも生育指数を精度良く算出することができます。
IIJ では 、水田の水管理のための水位・水温が測定できる MITSUHA 水田センサー LP-01 の製品販売だけでなく、DVIをもとにした支援サービスや、LP-01とDVIを併用した、データ駆動型の水管理支援技術も提供しています。
DVIなどの詳細はこちらのブログでも掲載しているのでよかったらご覧ください。
余談
今後日本で美味しいお米を作るとしたら、山間部をうまく利用する必要がありそうです。山間部にはおいしいお米を作るための要素がたくさん詰まっているためです。
とはいっても、様々なIoTの出現により、高温障害などによるイネの不作が解消される未来は、確実に見えています。
IIJの農業IoTチームでは、未来の豊作に向けて、日々実証実験にも取り組んでいますので、今後に乞うご期待ください。
注釈
-
- 幼穂形成期から出穂期以降の生殖成長期[↑]
参考文献
森田敏(2008)イネの高温登熟障害の克服に向けて:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcs/77/1/77_1_1/_pdf
石丸 水稲の高温障害対策:
https://www.naro.go.jp/laboratory/carc/contents/kouen2a20230126.pdf
イネの高温障害とその対策6
森田敏(2012)水稲の高温登熟障害の克服に向けて:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hokurikucs/47/0/47_KJ00010028835/_pdf/-char/ja