DIYで気象センサーを設置してきました

2023年03月01日 水曜日


【この記事を書いた人】
井田 明

2019年にIIJに入社し、2021年から農業IoTチームに参加しています。農業(野菜)IoT歴は2015年からですが、水稲の知識は仕入れているところです。実は研究歴は10年で博士号の学位取得者だったりします。

「DIYで気象センサーを設置してきました」のイメージ

こんにちは、IIJの井田です。
今回はスマート農業の生育環境の観測とは切っても切れない気象観測用センサーを有珠山や洞爺湖がある北海道壮瞥町にIIJ社員がDIYで設置しました。

IIJの今までのスマート農業の取り組みはというと、「水田センサーによる水位・水温の遠隔監視」をすることで水田の管理にかかる手間を省力化するところから始まり、今では全国各地にIIJの水田センサーが設置されています。その甲斐もあり毎年おいしいお米がIoT米として収穫されるようになってきております。
水稲栽培では遠隔監視することで労力を削減に貢献する以外にも測定したデータの活用も期待されています。水田の水管理をデータを基にした管理の可能性について研究を進めることや、水管理期間以外に発生するセンシティブな育苗管理の負担軽減への応用など、労力削減だけでなくデータを活用した高効率化などにも取り組んでいます。
さらには、収穫を効率化していくこと以外にも、生産者が抱えているそのほかの課題にも取り組んでおり、農村で起こりえる大きな課題としては鳥獣害・水の災害・地域の気象状況の把握などが挙げられますが、世界標準規格でもあるLoRaWAN🄬 を活用していることもあるので、そのほかの課題にも取り組むべく水位センサーを活用した用水路・河川の水位の遠隔監視や、LoRaカメラによる樋門・水門・水路の目視監視など農村地域一帯の課題解決に取り組んでいます。

今回はその中でも気象条件が変化しやすい中山間地域へ気象観測用センサーを設置した事例についてご紹介したいと思います。
雪の降る地域だったこともあり雪が降る前のギリギリ11月~12月に強行軍で行ってまいりましたので、その際の準備、設置作業、出来上がったアプリまでご紹介します。
試験的に設置するのであれば気象観測用のセンサーであってもDIYの範囲で設置可能ですので、是非とも参考にしてください。

気象センサーとは

気象センサーの概要

そもそも気象センサーとはどういうものでしょうか。
気象と聞いてどんな項目を思い浮かべますか?
大きな気象観測の項目としては「気温」、「湿度」、「日射量」、「雨量」、「風向」、「風速」、「積雪深」、「現地気圧」などがあります。
さらには観測結果から計算して、「平均気温」、「日照時間」、「〇〇時間降水量」など皆さんが使いやすい集計値の算出や、天気の予報値まで繋がっていきます。
今回設置した気象センサーでは、いくつか測定した気象観測項目と、その中から選別した集計値の算出まで行っています。
実際に利用したセンサーはこちらの「複合気象センサー」「日射量センサー」です。

複合気象センサー

日射量センサー

「複合気象センサー」(上写真)
気象センサーの天井部で「風向風速」、「雨量」を測定し、中段の通風筒の個所で「気温」、「湿度」、「気圧」を測定しています。

「日射量センサー」(下写真)
センサー本体は丸く乳白色な窓を通すことで直射日光を拡散させることであらゆる方向から到達した光を均一にし、
入射角に依存しないようにした光を内部の光センサーで検知しています。
飯田橋の窓際で日射量センサーの値が大きくずれないことを確認するために、実際の日に当てて試験します。
単位間違い、小数点桁間違いなどは発生するため、簡易的にも試験をすることは重要です。

複合気象センサー部の製造元は計測装置としては有名なヴァイサラ社で、通信部はナルテック社です。測定部も通信部もいずれも安心感のあるメーカーですね。
複合気象センサーと日射量センサーを組み合わせることで、最終的に測定項目としては「気温」、「湿度」、「日射量」、「雨量」、「風向」、「風速」、「気圧」となりました。
また、通信はLoRaWAN🄬を利用しています。

気象センサーが必要な理由とは

農業生産にとって気象条件を把握しておくことは欠かせません。
・作物の生長速度に大きくかかわる気温
・地域ごとの日照量、日照時間の特性を把握
・風向による気温変化の予想やハウスの窓から入る冷気の吹込みを回避
・山間の急な降雨によるハウス内への雨の侵入を回避
などすぐに知りたい情報は様々なものがあります。
これらの気象条件は比較的小さな集落であっても平場・山際・谷間などで大きく異なってきます。
圃場ごとに大きく異なる環境(水田の水位、ハウス内のCO2濃度など)をこまめに把握したい場合は各圃場に個々のセンサーを導入する必要がありますが、
地域内を広く観測する必要のある気象環境(日射量・風向風速・降雨)を把握したい場合は、気象センサーで地域一帯を把握する必要があります。

壮瞥町のケースでは、最も近くに設置されているアメダスは伊達市内であり、山を挟んだ先の壮瞥町では目安としては見ているものの、体感はやはり違うと感じているそうです。
壮瞥町内でさえも役場の周辺とハウス団地周辺、牧場周辺では大きく違うように感じられているとのことです。
そうなると、
・どこの地点を詳細に観測する必要があるか
・観測する必要のある項目は何か
という2点を知ることから始める必要があります。観測した結果から、本当に観測することが必要であることを知る意味でも試験的に気象観測をすることには大きな意味があります。
※気象センサーの設置については必ず気象観測の届出・検定について、ご確認ください。ちなみに教育・研究目的の設置であれば届け出は不要になります。

気象センサー設置まで

 設置前準備

■立地条件の選定

今回は北海道壮瞥町内でセンサーを設置してきたわけですが、まずは設置する場所の検討からとなります。
設置に必要な条件としては、
1. 設置しやすい場所・設置交渉しやすい場所
2. 建物で日射、風向を遮らない設置環境
3. 町内を代表する場所・地域内で大きく環境が異なる場所
などが挙げられます。

壮瞥町役場担当者と度重なる検討をした結果、

壮瞥町役場周辺を代表的なポイントとし複数の測定項目を検証する場所としました。
そのほかの場所は今後設置したい箇所を気温・湿度のみ測定可能なセンサーを設置して利便性の評価をすることとしました。

■電源・機材の準備

数値の測定間隔と電源のについてはどうしてもトレードオフの関係となります。
測定間隔が短く、細かい変化を知るようにするとバッテリーの消耗は早くなるため電源が確保可能な場所かソーラーバッテリーの容量を大きくする必要があります。
役場周辺であれば電源が確保できる場所もあるものの、今後町内の様々な場所で設置する可能性を考えると、今回は試験もかねてあえてソーラーバッテリーとしました。
測定間隔は少しでも気象庁のアメダスに近づけるため(気象業務法の関係上アメダスデータとの連携時には要注意)10分間隔としました。

 

設置用の部材を確認

今回は自分たちで組み立てるので、あらかじめできることはやっておきます。
設置イメージ図の作成、必要部材の調達と発送、現地作業に必要な工具や安全具などの準備、詳細な工程の作成、等々を2~3回の打ち合わせをしながら入念に確認していきます。

また、現場作業前にオフィスでできる加工は先にしておきます。
日射量センサーは正確に水平に取り付ける必要があるため、あらかじめ片潰しの単管パイプの端にねじ止め加工をほどこし、固定に問題がないか、などの確認まで行っています。

センサー背面の穴と固定用の穴の加工

日射量センサー裏側のねじ穴の位置を正確に確認し、罫書きの代わりにマーカーで線を引いてからボール盤でねじ止め用の穴をあけます。
通信ケーブルの向き現地で調整する可能性があるため、すぐに変更可能とするためにも4つ穴をあけてから固定します。

片潰しパイプの先端に仮止め

こうして先にできる準備を万全に整えておき、設置工事へと向かいます。

複合気象センサー設置工事

いざ本番の設置工事当日(11/7-8)です。

設置地点を壮瞥町さんと確認しておよその位置を決めます。周りにも日陰になるような建物がなく安定した気象観測ができそうです。
設置は単管パイプで櫓を組むため、正確に穴あけポイントを作っていきます。

四角を正確に測るための台座をおき、

実際に単管パイプを地面に刺していきます。

大枠が完成したところでそれぞれの単管パイプの水平を取りながらソーラーパネルなどを取り付けていきます。

ソーラーパネルの角度もおよそ65°を確認

最後に丁寧に角度を確認しながら増し締め。

櫓の完成です。日射量センサーは櫓の上部から突き出した先端に設置し、日影ができないように配慮しています。
複合気象センサーが高すぎても日射量センサーの日陰を作ってしまいますし、日射量センサーが近いと風向風速や降雨計測の妨げとなる可能性もあるので、配置を気にして設置しています。
11/7-8の時点では気象センサーの最終調整が終わっていなかったため、日射量センサーの動作確認までしたところで終了です。

12/10-13には再度壮瞥町へ気象センサーを持っていき、天井に取り付けて完成です。

ソーラーパネル対応型の気象センサーの全体図

裏面もきれいに整線完了

気温・湿度測定用センサーの設置

複合気象センサーを設置した後には、ほかの場所に簡易的な温湿度センサー設置作業です。
複合気象センサーとは違い、通風筒が標準で備え付けられているわけではないので、以前にもご紹介した簡易百葉箱の内部に温湿度センサーを取り付けてから測定地点に設置してまいりました。
気象センサーのようにソーラーパネルの設置はないので、簡単にF字型の櫓を組んで完成です。
(※後日支柱を追加しました)

ソーラー基地局の架台を間借りして、適切な高さに温湿度センサーを設置しています。

 

 アプリの表示

気象センサーの値を確認するためのアプリとしては、WISE-PaaSを利用しています。
気象センサーで測定した値を確認できるのはもちろんのこと、アメダスで表示している項目を参考にしながら集計値も表示しています。

測定した値の現在値とトレンドグラフの表示

主要な項目についてはぱっと見てわかるように現在値を表示し、過去の計測結果のトレンドグラフも併せて確認できるようにしています。
今回の表示項目は「気温」、「相対湿度」、「気圧」、「日射量」、「最大風速」、「10分間降雨量」です。

測定値を集計した結果表示画面

例えば、天気予報でよく耳にする平均最高最低気温、降水量に加え日照時間や最多風向などについては、一覧表示画面で表示しています。
まずは利用開始してからどの項目が必要なのか、追加したい計測項目はあるのか、不要な項目はどれか、という検証をする予定です。
その中で今回表示している項目は「平均気温」、「最高気温」、「最低気温」、「平均湿度」、「降水量」、「日照時間」、「最多風向」としています。

最後に

今回は気象に関わる項目を測定するということで、気象センサーと温湿度センサーを設置してきた様子についてお話しさせていただきました。

日当たりのよい風通しの良い場所と山際などでは同じ地域でも気象条件は大きく変わることは体感ではよくわかっているかと思います。しかし、高性能な気象センサーをどこにでも数多く設置するわけにもいかず、さらには本格的に気象業務として活用するとなると気象業務法上問題ない手続き、設置方法、機器選定、日常的な管理などが必要になることから、そう簡単に設置することもできません。
そのためにも「本当にここに必要なのか?」、「測定する必要がある項目は何か?」ということを事前に調査することがより重要になります。

今後様々なところで気象環境を見える化していく上で、今回ご紹介させていただいたように気象センサーをDIYのレベルで仮設することもできますし、試行実験の検討をしてみてはいかがでしょうか。
また今回設置した気象センサーのデータ解析結果についても今後報告したいと思いますので、乞うご期待ください。測定項目と設置個所の妥当性についてデータ分析の観点からお話ししていきたいと思います。

謝辞 本試行調査では壮瞥町様の多大なご支援を賜りましたこと、ここで改めてお礼を申し上げます。

 

 

井田 明

2023年03月01日 水曜日

2019年にIIJに入社し、2021年から農業IoTチームに参加しています。農業(野菜)IoT歴は2015年からですが、水稲の知識は仕入れているところです。実は研究歴は10年で博士号の学位取得者だったりします。

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